2020.03.11
5

事前準備不要!多職種連携ポジティブ検討会【前編】

多職種連携ものがたりvol.4

在宅医療をはじめ、チーム医療を円滑に進めるために、多職種連携は欠かせないものとなっています。しかし、「連携」と一言で言っても、職場も職種も対象者への視点も異なる人たちがどのように連携をはかり、ケア実践へとつなげているかはケースによって様々です。日々開催される多種多様な会議の中で、各医療職者および利用者・家族との間でどのようなやりとりが繰り広げられているのか、また会議の雰囲気、その後の連携方法について、詳細を知る機会は多くありません。本連載では、多職種連携の実情について、さまざまなケースを紹介し、リアルな姿に迫ります。

取材・撮影・編集/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

多職種連携ものがたり vol.3 多職種が集う勉強会 <大野北は・あ・とネットワーク>【前編】

  

今回、非常に興味深い検討会をとりあげます。「事例検討会」というと、当事者不在の中、事例を反省し今後に活かすというネガティブな手法がこれまでの“当たり前”でした。しかし、この手法は果たして本当に有効なのでしょうか?そんな疑問をクリアにしてくれたのが、ウィル訪問看護ステーション所長の岩本 大希さん。東京大学大学院助教・野口麻衣子氏が開発を進めてきた「ポジティブフレームワーク」を活用した、事前準備・配布資料なしの「ポジティブ検討会」が企画・開催されました。成功事例を共有し、実践知をポジティブに振り返ることで、未来の看護実践がより豊かになることが期待できます。当日は利用者とご家族、各関係機関から20名を越える参加者が集まり、会場はにぎわい熱気に包まれました。「私の事例もみんなで振り返りたい!」そんな声が聞こえてきそうな楽しいひとときをお伝えします。

 

なお、こちらの一覧表をご覧いただきながら読み進めていただくと、検討会の内容がより把握いただけます。

 

【ケース紹介】

◆利用者:三浦さん(仮名/以下「三浦さん」と表記) 男性 80歳代

◆疾 患:脳梗塞

◆参加者:三浦さん、三浦さんの娘さん2人、ケアマネジャー、訪問看護師、デイサービス担当者、保健師、

     言語聴覚士、訪問診療医、訪問歯科医、栄養士、介護ヘルパー、歯科衛生士など

◆経過要約:2018年8月:脳梗塞で急性期病院に入院後、回復期リハビリ病院に転院

      2019年1月末:退院し施設入所するまでの1ヵ月間限定で在宅療養を導入

      2019年2月:家族の介護への自信がつき、退院から10日後施設入所を断り在宅療養を継続

      2019年5月:多職種連携で経管栄養から完全経口摂取への移行に成功し、ADLも向上

◆開催場所:こばやし歯科クリニック

◆会議時間:1時間30分

◆会議開催の主旨:成功事例である本ケースについて最初の入院から現在までの介入を振り返り、本人・家族の気持ちを

         聞きながらこの事例をポジティブにとらえ、今後の在宅医療実践向上につなげる。

◆ファシリテーター:岩本 大希さん(ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長)

  

まず、ファシリテーターの岩本さんから検討会の主旨・進行についてアナウンス。

 

岩本さん(以下、岩本):実際に事例に関わった皆さん、関係者職種の皆さんがそれぞれ、その時に何を思ってどういう会議をしたのか、ご本人やご家族がこう思ったから交流会にしようと変化したのかということを振り返って、1つずつ紐解いていくような事例展開になります。これまで私たちウィル訪問看護ステーションの看護師だけで開催してきましたが、半年ほど前に1度多職種で1度やってみたところ、「それぞれの職種は、そんなことまで考えて介入していたんだ」という、“多職種での相互理解”がはかれて好評だったのでもう1度やってみることになりました。

  

多職種連携ものがたり vol.4 多職種連携ポジティブ検討会 ファシリテーターを務めたウィル訪問看護ステーション江戸川所長の岩本大希さん

ファシリテーターを務めたウィル訪問看護ステーション江戸川所長の岩本大希さん

POINT

今までと違うポイントは、実際にケアを受けてくださっているご本人とご家族に来ていただいていることです。事例検討の場で実際にケアを受けているご本人とご家族からフィードバックをもらうことは勇気がいるし、貴重な機会だと思うので、忌憚なく正直に思い起こしながら、この時ってこういう気持ちだったな、本当はこういう風にしてほしかったな、あれをやってもらってうれしかったな、そういうことも含めてぜひお話しいただければと思います。まず、三浦さんのケースをとりあげようと思った理由は何でしょうか? 

 

齋藤歯科医師在宅に移行してから3~4ヵ月というスピードで経管栄養から経口摂取に移行できたので、これはすごいことだと思いました。いろいろな要因がありますが、僕は最初に見たときから経口摂取いけそうなケースだと思っていました。

 

病院を退院し施設入所するまでの「期間限定」で始まった在宅療養 

 

担当ケアマネジャーの江沢さんから三浦さんの紹介がされました。

 

江沢ケアマネジャー(以下江沢CM):2018年8月に脳梗塞で倒れて不自由されました。状態が安定したので急性期病院から回復期リハビリ病院に転院され、この時すでに経管栄養がついてきました。その時ご家族から「このまま介護するのは難しいので、施設に入ろうと思う」という希望があったので、最初はそこに向けて動いていました。決まっていたものの、空きを待って3月から入る予定でした。

 

転院先でのリハビリでかなり身体的には動けるようになり、ADLは上がっていました。「それなのに口から食べられない」というご家族の疑問が出てきました。ご家族は経管栄養をやめたいという希望でしたが、「やめるくらいならすぐ退院してください」と言われてしまいました。

 

ファシリテーターを務めたウィル訪問看護ステーション江戸川所長の岩本大希さん 介入当初のことを振り返るケアマネジャーの江沢さん

介入当初のことを振り返るケアマネジャーの江沢さん(写真左)

 

娘さん:回復期リハビリ病院に移った時、担当の医師からは「もう経管栄養からしか栄養が取れない、食べるリハビリをしてもたぶん、ゼリーくらいしか食べられないでしょう」と言われていました。「もし抜くんだったら家に帰ってから抜いてください」というようなことしか言われてなくて・・・。入院中は飲み込みのリハビリをずっとやっていましたが、ゼリー以上のものは食べていませんでした。

 

岩本:今の話だとこの頃はまだ退院されていないですよね。ちなみにこの時点で介入している専門職は江沢さん(CM)だけですね。

 

江沢CM:「回復の見込みがないので早く施設に行ってください。もしくは退院してください」と繰り返し言われていたので、1月に退院することにしました。3月に施設入所が決まっていたので、それまでの期間だけ在宅でみようという作戦です。

 

岩本:最初、在宅療養は3月に施設入所するまでの期間限定だったんですね。

 

江沢CM:そうです。急遽1ヵ月だけ在宅に戻ることになったので、その時にウィルの看護師さんと一緒に「最高のケアを組んで施設に行こう」という話になりました。家族の「体がよくなったのに、なんで飲み込みができないの?」という言葉が1番私を動かす原動力でした。退院までに何回も病院に足を運び、調整を重ねました。

 

ご本人が振り返る「食べたい気持ち」の芽生え

岩本:ご家族はきっとモヤモヤされていたと思いますが、三浦さんご自身はその時どんなお気持ちでしたか?

 

三浦さん:入院した当時は「食べる」という意識はほとんどありませんでしたね。口から何かチューブのようなものが入って、何かが入ったらしいという意識以外はほとんどありませんでしたよ。

 

岩本:食べたい気持ちは出なかったんですね。あとから出てきたりもしませんでしたか?

 

三浦さん:しませんでした。発病してから6ヵ月くらいたって初めて「食べたいな」と思いました。

 

岩本:自宅に戻られてから「食べたい」と思うようになったんですね。そのきっかけは、齋藤先生からの「食べられるかもしれませんね」というお話からでしょうか?

 

三浦さん:きっかけはね、実はそのあたり・・・チューブ(経管栄養)で食事をする期間が入院中に3~4ヵ月あり、そのあと自宅に帰ってきてからも3ヵ月くらいありましてね。チューブの時は「食べてみたい」という気持ちはほとんどなかったんですが、チューブの入れ替えが3回、4回とありまして、入れ替えているうちに、6ミリのチューブから3ミリのチューブに変更がありました時にちょっと面白いことがありまして、チューブがうまく入っていかないわけです。齋藤先生もどうしようかと相談したらしいですが、結局抜いてもらって初めてホッとして、その時「食べたいなぁ!」と思ったのが最初でしたね。

 

介入当初のことを振り返るケアマネジャーの江沢さん 利用者である三浦さんご本人からも入院時の気持ちが語られた

利用者ご本人からも入院時の気持ちが語られた

 

岩本:ずっと長い間入っていた鼻の管が、たまたまですけど抜けたときにホッとしたんですね。ホッとしたらご飯食べたいなという気持ちが出てきた。

 

娘さん:私が思うには、いつも経管栄養でおなかがいっぱいになって、空腹感を感じていなかったから、「食べたい!」というよりは、例えばたくあんとかそういうものをかじってみたいということは時々ありました。大根を食べたいとか、あとビールを飲みたいとか、そうことはあったようですけど。でも「おなかがすいたから食べたい」ということではなかったみたいです。

 

岩本:たくあんにビール、それも食べたいし飲みたい気持ちですね。なかなかご本人が振り返っての言葉を私たちも普段聞けるチャンスがないので貴重なお話をありがとうございます。そんな中、1ヵ月だけ在宅で過ごして施設につなぐぞという時に「最高のケアを組もう」と江沢さんが考えられたわけです。「とりあえずつなぎで1ヵ月」と考えたら、逆にちょっとエコなプランでいこうという考え方をする場合もあるかと思うんですけど、どうして「最高のケア」をして施設につなごうと思ったのでしょうか?

 

ケアマネを動かした家族の言葉「なんで口から食べられないの?」

江沢CM:入院時の寝返りも打てない状態からここまで回復したのには、ご本人のリハビリへの意欲がありました。それを知って、勝手な推測ですけど、「もしかしたら経管栄養がとれるかもしれない」と思いました。

 

岩本:なぜそう思ったのでしょうか?

POINT

江沢CMご家族からの「なんで身体がこんなに良くなっているのに口から食べられないの?」という言葉が強かったです。最初から最後までこれがキーワードです。

私はケアマネジャーになる前から栄養士でもあるので「食」にこだわっているという部分もあります。一緒に在宅で取り組んでくれる看護師さんが必要になって、ウィルの看護師さんと一緒にご本人の様子を見に行き、状態を確認しました。また、何回も何回もサービス担当者会議を開催しました。

 

岩本:様子を見に行ったのは「在宅導入の確定」ということではなく「とりあえず一旦様子を見に行く」ということで、看護師と一緒に行って評価したということですね。

 

江沢CM:「なんとなくできそうじゃない?」という可能性だけでしたが、まだ機能の回復する伸びしろが三浦さんには残っているという予測が立てられました。もう1つ、ウィル訪問看護ステーションと一緒にチームを組んで取り組めばいけるかもしれないと思いました。

 

岩本:“可能性”と“資源”の両方で「できそうだな」ということがわかってきて、少しずつ具体化していきますね。

 

江沢CM:次の施設に行くまでに機能が向上していれば、そこでもっと楽な生活ができると思ったんです。ご家族の介護体制もしっかりしていたし、意見を持っていたということもあります。

 

岩本:ご家族の言葉もあるし、実際に三浦さん自身も可能性を秘めているのではないかというアセスメントがあったし、それに対応できるチームもみつかったし、すべてが整ったということですね。実際に1月末に退院されて、1ヵ月間の在宅生活がスタート。訪問診療、訪問看護、デイサービスなどは退院直後の2月からスタートしました。訪問診療の石永先生(Dr)が最初に入られた時の印象はどうでしたか?

 

石永医師:これまでの経過を聞いて、あまり麻痺はないし割と動けるなと思いました。食べられるかどうかはわかりませんが、最初に「何か食べたいものがありますか」と聞いたら、「トロトロでもいいからうどんが食べたい」とおっしゃいました。僕は栄養の専門家ではないですが、以前に嚥下の偉い先生から「管が抜けるかどうかは本人が“こういうものを食べたい”と声を出して言えば抜ける」という話を聞いたことがあって、これは名言だと思っているので、後押ししてくれました。

 

利用者である三浦さんご本人からも入院時の気持ちが語られた 三浦さんの意志を知って「管を抜ける!」と信じた訪問診療医の石永医師(写真左から2人目の男性)

三浦さんの意志を知って「管を抜ける!」と信じた訪問診療医の石永医師(写真左から2人目の男性)

 

三浦さん:食事を食べたいと思ったのは、先生から「好きなものを食べましょう」という促しがありまして。私はうどんが大好きなものでそう言ったら、「じゃあやりましょう」と何回か煮込んで作ってくれて。おいしかったですね。

 

岩本:三浦さん、僕たちはその言葉のためにこの仕事をしているところがあります。ありがとうございます。石永先生(Dr)の介入は退院直後からですね。訪問看護も退院直後からスタートして、最初は坂本さん(Ns)が関わってくれました。

 

坂本看護師:聞いていたよりすごく動けるな。こんなに動けるのに食べられないだけで施設に行くのはもったいないなと思ったのが正直なところです。たぶん、施設に行ったら、経管栄養を抜くトライさえしないと思うので、なるべく1ヵ月の間に抜けないかなと思いながら、もし施設に行くとしてもなるべく抜いて行ってもらいたいという思いがありました。

 

岩本:訪問歯科は2月の第1週からですが、初回訪問の時は何を見てどういうことを思いましたか?

 

齋藤歯科医師:最初に訪問した時、階段を上がった2階が三浦さんの部屋なのですが、1階で普通に歩いていました。だから「寝たきりじゃなくて、歩いているんだ」と思いましたね。ベッド上にしっかり座って座位もとれたし、お話もきちんとできるので「やっぱり抜けるな」と。その時すでに、ゼリーの類は食べていました。改めて目の前でゼリー食べてもらったら、しっかり食べられることがわかりました。嚥下障害は「飲み込みが悪い嚥下障害」と「咀嚼ができない嚥下障害」に分けられますが、ゼリーがしっかり飲み込めていたので、これは「咀嚼が原因の嚥下障害」だと見当がつきました。

 

岩本:その時に評価されたのですか?

 

齋藤歯科医師:ゼリーを食べてもらっただけですが、三浦さんの口の中を見たら、しっかり自分の歯が残っていらっしゃるので咀嚼が原因の嚥下障害だから、「リハビリすれば食べられる」と評価しました。

 

三浦さんの嚥下の評価について話す斉藤歯科医師

三浦さんの嚥下の評価について話す齋藤歯科医師(DDr)

 

岩本:デイサービスの牛山さん(ST)もこの頃からの介入ですか?

 

ST:2月の第1週目からです。

 

岩本:ちなみにSTさんがいるデイサービスはあえて選んだわけですね。

 

江沢CM:ご家族が先に見つけてきました。10か所くらい探して、経管栄養を受け入れてくれるところは2か所だけでした。言葉(言語療法)があるのは知っていましたが、嚥下の方は齋藤先生(DDr)たちに任せるつもりだったので、日常生活の部分を私は1番始めに頭に浮かんでいました。

 

岩本:2月の第1週からもう通われ始めて、その時から介入が始まったのですか?

 

ST:はい。先生からの指示があり、その範囲を守って直接訓練に入りました。

 

岩本:STさんがいらっしゃるデイサービスってとても珍しいですね。三浦さんとの介入が始まった時にどういう印象を持って、これからどうしようと考えましたか?

 

ST:私たちの施設には、言葉のリハビリに週1回、身体のリハビリに週2回いらっしゃることになり、言葉の方は回数が少ないこともあったので、基本的に身体のリハビリのフロアでお過ごしいただくことをメインにしていこうと考えました。1日型のデイサービスだったこともあってお疲れのご様子が非常に強かったので、まずは1日過ごすことに慣れて、少しずつ嚥下訓練ができればと思っていました。

 

岩本:入院していたこともありますから、まずは体力や持久力にアプローチしていこうということですね。

 

多職種連携Vol.4 三浦さんのリハビリを担当した言語聴覚士

三浦さんのリハビリを担当した言語聴覚士(ST)の牛山さん

 

家族の“戸惑い”が“自信”に変わるものがたり

岩本:1月末に退院したと思ったら、2月から急にいろんな人がおうちに出入りするわけです。ご家族は戸惑いませんでしたか?

 

娘さん:ものすごく戸惑いました(苦笑)。

 

岩本:そうですよね。その時はどういうことを思ったり感じたりされたのでしょうか?

 

娘さん:江沢さん(CM)が「絶対に治るようになるから」と力強く言ってくれて、江沢さん(CM)が紹介してくださる看護師さんや先生方ならきっとしっかりやってくれるだろうと信じてついていきました。

 

岩本:ちなみに介入されたみなさん、「1ヵ月間だけだから」と最初の依頼の時点で聞いているわけですよね。通常の依頼から考えるととても短期間です。でもやろうと決めた。断らなかった理由はありますか?

 

石永医師:おそらく「よくなる!」「どうにかするんだ!」という江沢さん(CM)の強いパワーが伝わってきたのだと思います。

 

齋藤歯科医師:始まりは確か江沢さん(CM)からの依頼でした。回復期リハビリ病院で「もう経管栄養は抜けない。ゼリー以外は食べられない」と言われたけど本当にそうなのか評価してほしい、と。先ほど話したように、初回である程度の評価ができたので、「リハビリすれば抜けると思うよ」と伝えました。 

POINT

岩本:実際見てみたら、いけるんじゃないかと。江沢さん(CM)の見立てが補強されていく感じだったんですね。「絶対大丈夫、いけるよ」という、この言葉は確約する意味じゃなくて本人家族との関係性の中で「やっていこう」という決意をともにしたってことですよね。

 

娘さんそういう気持ちが、「在宅でも大丈夫だ」という後押しをしてくれたような気がします。

 

岩本:退院直後からこれだけ多職種が揃っているのが結構珍しいですよね。江沢さん(CM)の優れた手腕があったのだろうとなんとなく想像できます。いよいよ在宅生活がスタートして、各職種の訪問が始まりました。齋藤先生(DDr)は週に1回、月4回です。最初の1か月くらいはどのような介入をされましたか?

 

齋藤歯科医師:最初は評価に時間をかけました。飲めない原因がどこにあるのか、唇の力・噛む力・舌の力を測ったりして探りましたね。

 

岩本:デイサービスでは体力をつけてもらうことから始めた、ということでしたが具体的にどんなことをされていたのでしょうか?

 

ST:身体のリハビリでは筋力トレーニングをしたり、言葉のリハビリではコミュニケーションの時間をとり、とにかく関わる時間を増やすことを意識しました。

 

岩本:訪問看護師はそのころ・・・

 

坂本看護師:最初の1ヵ月は嚥下体操と、誤嚥性肺炎を防ぐために、状態観察・口腔ケア、食べる時の姿勢も修正しました。

 

増田看護師:当初はベッドに端座位で食べていらっしゃいました。これだと食事の姿勢としてあまり適切でないという判断をしたので、自宅の中にある椅子を用意使って、そこにいい姿勢で座れることを確認して、食べていただきました。

 

岩本:ちなみに誤嚥性肺炎を防ぐことに優先順位を高く置いたのはどうしてでしょう?

 

坂本看護師:肺炎を起こしたら直接訓練できる頻度が少なくなりますし体力も落ちてしまいます。さらに、もしも状態が悪化したらそのまま入院になる可能性もあるので、優先順位を高くしました。

 

多職種連携ものがたり 画像

大学院で診療看護師の学びを修め、日々の実践に活かしている坂本看護師(Ns)

POINT

岩本ここはとても重要な部分です。評価しながらゼリーを食べるという“攻めていくケア”と、それをやっていくためには“守るためのケア”もすごく大事だということですね。江沢さん(CM)は最初の1ヵ月での介入や気を付けていたことは?

江沢CM:備えるだけで精一杯ですよね。“こういう状態だ”とわかる入院中のビデオや情報をあっちに渡したりこっちに渡したりする日々でしたね。スタートしたらみなさん専門職の方たちを信頼してお任せして、私は重要な関係機関に橋渡しの調整をしていました。

 

岩本:情報のハブとして、他職種をつなぐ架け橋として、江沢さん(CM)は活躍されていますね。最初の1ヵ月はみんな動き始めた感じがあります。その頃、ご家族の気持ちの変化はどうでしたか?

 

娘さん私としてはいろいろな人の出入りが毎日あって戸惑いましたが、でもすごく心強かった。というのは、病院を退院して自宅介護をしなきゃいけないという怖さがありましたが、皆さんが来てくれることですごく安心できました。

家族としては痰の吸引が一番怖かったんです。それが、自宅に戻ったら2~3日で痰が出なくなりました。病院では毎晩やっていたものが、1週間のうちにやらなくてもよくなりました。それは江沢さん(CM)からのアドバイスで、「寝る前に睡眠導入剤を飲むと深く寝入って自分で痰を出しにくい状態になるから、それをやめたら改善するかもしれませんね。医師と相談しましょう」と言われて、先生に相談の上で実際飲むのをやめたんです。そしたら本当に痰吸引が必要なくなって、家に帰るとこんな風に改善できるんだという自信や安心につながりました。それが私にとって大きなきっかけで、施設に行くよりも家で過ごした方が良い結果が出てくるんじゃないか、と退院1週間目から思い始めました。

 

【後編】につづく。

 

ウィル訪問看護ステーションに関する記事はこちらから

 

「多職種連携ものがたり」の記事一覧はこちらから

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP