2020.04.14
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2020年度診療報酬改定の行方と経営の在り方を解説!
急性期病院を中心にした地域医療連携と看護必要度のポイント

第9回メディカルフォーラム講演レポート/株式会社メディフローラ代表取締役 上村久子さん

2020年度診療報酬改定では医療従事者の働き方改革が示されました。また急性期病院に影響を与える重症度、医療・看護必要度にも大きな変更点が加わりました。2025年の地域包括ケアシステム、高齢化がピークを迎える2040年まで見据えた今回の診療報酬改定のポイントについてまとめました。
 
※2020年3月11日に開催を予定していた「第9回メディカルフォーラム」は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を鑑み、中止しました。本レポートは、講師の上村久子さんに無観客で講演をしていただき、その要旨をまとめたものです。
 
取材・文/横井かずえ
編集・撮影/メディカルサポネット編集部

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株式会社メディフローラ代表取締役 上村久子(うえむら・ひさこ)

東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

  

改定のいの一番に「働き方改革」

まず基本方針です。今回の改正は2025年の地域包括ケアシステムの改定まで、残すところあと2回という改定になります。政府からは高齢化がピークを迎える「2040年を見据えた社会保障」というキーワードも出されました。地域包括ケアシステムでは多すぎる急性期病床を減らしていこうという流れがありますが、実際に総病床数をみると年々減っていることがわかります。一方で国が目指しているほどには急性期の病床数は減っていません。このことから考えるとどこかのタイミングで、かなりインパクトのある改定が行われるということを覚悟しておくべきだと思います。

   

今改定では改定項目の一番初めに医療従事者の働き方改革が示されました。これは医師や看護師を増やすという内容ではなく、医師事務作業補助者などを増やすことで人材を確保するという内容です。改定率とからめてみていくと、診療報酬の医科本体プラス0.55%のうち0.08%は、救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応に対する手当となっています。勤務医等の働く環境を改善するためにお金を使ってくださいという政府からのメッセージとして受け取っていただきたいと思います。

 

無観客講演でカメラに向かって語り掛ける株式会社メディフローラ代表取締役の上村久子さん

   

「地域医療体制確保加算」が新設

今回の改定は目玉となるものが少なく、少々わかりにくい改定となっています。ですが「地域医療体制確保加算」(520点)の新設は大きなポイントのひとつであり、病院によっては非常に大きな影響がある項目です。算定要件は救急搬送数が年間2000件以上で、かつ勤務医の負担軽減策を取っていることとなっています。

 

もうひとつのポイントは高度急性期、急性期病院における重症度、医療・看護必要度に関する改定です。特に急性期一般入院料の1をとっていた医療機関にとっては、変更に注意が必要になりますので、重点的に解説していきたいと思います。

  

注意しなければならないのは、今はこの看護必要度が急性期度合いを測る主な指標ですが、今後、看護必要度以外の部分でも急性期度合いをはかる指標が出てくる可能性があるということです。それが在院日数なのか手術件数なのか何なのかは現時点ではわかりませんが、すでに研究班も立ち上がっていて、プラスアルファの指標が検討されていることは理解しておいていただきたいと思います。

 

看護必要度から「A項目1点以上」かつ「B項目3点以上」かつ「診療・療養上の指示が通じる」または「危険行為」が除外

具体的な変更点を4つ挙げていきます。

 

まず、重症度・看護必要度の判定基準から 「A項目1点以上」かつ「B項目3点以上」かつ「診療・療養上の指示が通じる」または「危険行為」 が除外されました。「診療・療養上の指示が通じる」と「危険行為」はいずれも認知症を評価する基準で、2016年改定で新たにできたもので、判定基準に上記のようにこの認知症の項目が加わったのが2018年の改定です。

  

なぜこの基準が除外されたかというと、急性期の状態にある患者の状態として相応しくないという結論になったからです。厚労省が上記の基準に該当する患者について、ほかの基準と重複しているか調べた結果、約4割は重複がありませんでした。さらにモニタリングおよび処置のA項目では何が実施されているかというと、心電図モニターが最多でした。

 

またこれらの患者は「要介護度が高い」「経口摂取割合が低い」「看護提供度が高い」「入院継続の必要性が低い」「退院支援困難が多い」などの傾向があり、こうした患者が果たして急性期の患者像といえるかが問題視されました。その結果、「介護と医療を混在すべきではない」となり、重症度・看護必要度の判定基準から削除されたのです。

 

これにより新制度上のあるべき急性期患者像は、「A項目2点かつB項目3点以上」、「A項目3点以上」、「C項目1点以上」のいずれかにあてはまる患者になりました。病院機能によりB項目に大きな差異は出ないため、値を左右するのはA項目とC項目です。新制度では在院日数が伸びると看護必要度「あり」の患者が減ります。つまり入院単価を考えたベッドコントロールが重要になるわけです。

  

A項目とC項目の評価日数が大幅延長

2つ目として、モニタリング及び処置に関するA項目の中の救急搬送の評価の日数、そしてC項目の手術等の医学的状況の評価日数が、大きく延長されました。現行制度では在院日数の2~3割が評価されていましたが、新制度では在院日数の約半分の日数が評価されるようになります。例えば開腹手術は4日間から7日間へ、骨の手術は5日間から11日間へと大きく評価日数が延長されました。このうちC項目についてはすべての手術が対象ではないという点に留意してください。

 

B項目は根拠となる記載が不要に

3つ目は看護業務の負担軽減に関係します。これまで看護必要度は根拠となる記録が必要でしたが、B項目については根拠となる記録が不要になり、チェックだけで大丈夫になります。これによって必要なケアに時間をさけるようになるはずですので、しっかりとシフトしていけるようになってほしいと思います。

 

「せん妄ハイリスク患者ケア加算」が新設

4つ目は認知症ケア加算が2段階から3段階になり、「せん妄ハイリスク患者ケア加算」(100点)が新設されました。せん妄のリスク因子の確認およびハイリスク患者に対するせん妄対策を行った場合、入院中1回に限り算定できます。4月にむけて加算が取れる体制を作っていきましょう。

 

なお看護必要度における院内研修の指導者は「院外研修」が必要、という文言は除外されました。もし認知症ケア加算の外部研修参加者が多くないのでしたら(詳しくは後述)、ぜひとも積極的に認知症ケア加算の研修に参加していただきたいと思います。

   

大きな流れは看護必要度Ⅱへ

施設基準と看護必要度については、これまで急性期一般入院料2と3では看護必要度Ⅰは取ることができませんでしたが、今回改定では取ることができるようになりました。一方で看護必要度Ⅱにも救急搬送が追加されるなど、ⅠとⅡの差異は小さくなりました。その他、400床以上の病院は看護必要度Ⅱの評価が必須になっています。経過措置は半年間ですからそこまでで対応する必要があります。全体として、看護必要度Ⅱに流れていくような方向性が読み取れます。

 

 

このほか重要なポイントをいくつかお示しします。

  

認知症ケア加算が2段階から3段階になったとお話しました。それによって現行の認知症ケア加算2が3になりますが、これまでは9時間以上の外部研修を受講した看護師配置が複数名、つまり2人以上だったのが3人以上になりました(うち1名は外部研修を受講したものが行う院内研修で代行可能)。また今回、初めて認知症とせん妄が別個の項目として取り上げられています。急性期病院にとってはせん妄対策は重要になるので多くの病院で対策を取っているところですが、まだ取り組みがなされていない病院もあるため、前述したせん妄ハイリスクケア加算が新設されました。

     

「救急搬送看護体制加算」が2段階へ

救急搬送の看護体制加算では「救急搬送看護体制加算」の評価が2段階になりました。救急搬送看護体制加算1(400点)の要件は、搬送件数が年間1000件以上、専任看護師を複数名置くこととなっています。

 

地域包括ケア病棟に関して実績要件がやや厳格化されましたが、大きな影響はないと考えています。ケアミックス病棟におけるDPC棟からの転棟は、入院日Ⅱまで引き延ばされました。このほか400床以上のケアミックス病院における急性期一般病棟からの転棟に制限がかかり、6割未満に関しては入院料が減算されます。同時に新規の届け出もNGとなりました。

 

回復期リハビリテーション病棟では、リハビリの実績を適切に評価に反映するため、実績指数にかかる要件が見直されました。入院基本料1のリハビリテーション実績指数は37から40へ、入院基本料3の実績指数は30から35へ厳格化されました。

 

療養病棟では中心静脈カテーテル挿入について、患者または家族への説明と他の医療機関へ患者を紹介する際の情報提供が要件に追加されました。中心静脈カテーテル挿入についての患者または家族への説明は、療養病棟以外でも必要になりますので注意してください。

  

退院時共同指導等はビデオ通話で算定も

入退院支援では地域包括ケア病棟の施設基準に入退院支援部門の設置が要件化されました。また退院時共同指導料等がビデオ通話でも算定できるようになっています。これまではやむを得ない場合というしばりがあったのですが、これがなくなったため算定が増えてくることが見込まれます。

 

入退院時支援加算も2段階になりました。点数としては30点の違いですが、栄養士や薬剤師等他職種との関わりが大事になるところで、病院全体として患者サービスを考える上でも体制を整えた方がいいと考えています。また、高齢者の総合的な機能評価を行った上での支援を評価する「総合評価加算」は名前を変え、「総合機能評価加算」として入退院支援加算の中に入ったことも押さえておきましょう。

  

入退院支援の強化を後押し

他にも、入退院支援に関して人員配置の緩和も行われています。これら改定項目からみえてくるのは、「入退院支援にしっかりと人員を割いてください」という行政からのメッセージです。入退院支援の強化は患者サービスのみならず病棟看護師中心に業務負担軽減につながっており、さまざまな医療機関で強化が進んでいます。おそらく今後、入退院支援加算1を算定する病院が増えていくと思われます。

  

「訪問看護・指導体制充実加算」が新設

2025年、そして2040年にむけて在宅医療や外来のあり方も変わりつつあります。1つには機能強化型訪問看護ステーションの要件が見直され、1人は非常勤でも大丈夫になりました。ぜひ積極的に非常勤の方でも受け入れていただければと思います。

 

また医療機関からの手厚い訪問看護体制を評価するために、「訪問看護・指導体制充実加算」(150点)も新設されました。

 

最後に他職種連携とICT化についてご紹介します。

 

経口摂取回復促進加算が他職種連携による嚥下リハの評価に変更されました。また薬剤総合評価調整加算では、結果だけではなく取り組みに対する評価も行われるようになったため、看護師等薬剤師以外の職種もチームの一員として活躍することが期待されます。ICTの活用では2回目以降の外来栄養指導について、情報通信機器を活用することができるようになりました。

 

診療報酬改定の大きな流れとして、正しいことを正しく行うことが評価される時代になってきています。ぜひ選ばれる病院になるために、データを蓄積し、正しい診療が行える体制を整えていただきたいと思っています。

 

 

 

メディカルサポネット編集部(講演日:2020年3月11日)

 

 

マイナビでは医療者の皆さまに向けたさまざまなイベントを開催しております。今後も求職者や管理者層の皆さまのご要望にお応えしてまいります。 

  

▽これまでに開催したメディカルフォーラムのレポートはこちら

・第8回メディカルフォーラム開催レポート「イキイキ働ける職場づくりには」

・第6回メディカルフォーラム開催レポート「経営課題解決に向けた人材定着のための組織作り」

 

 

 

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