2020.10.27
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アフターコロナでも選ばれる薬局とは~オンライン服薬指導やICTを活用した社員教育~
狭間研至さん(ファルメディコ株式会社)

第11回メディカルフォーラム講演レポート【第3部】

2020年9月16日、医療業界のデジタル化をテーマに開催された「第11回メディカルフォーラム」(マイナビ主催)。第3部は薬局関係者向けに、医師で薬局経営者である狭間研至さんが登壇しました。調剤報酬改定、薬機法改正および厚生労働省による0402通知、そしてCOVID-19など、薬局経営を取り巻く状況は大きく変わりつつあります。こうした中、経営者はどのように時代を見極め、戦略を定めるべきか――。ファルメディコ株式会社代表取締役社長の狭間研至さんが、新たな時代の薬局経営について講演しました。

取材・文/横井かずえ
編集/メディカルサポネット編集部

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プロフィール

ファルメディコ株式会社 代表取締役社長 

狭間 研至(はざま けんじ)


昭和44年 大阪生まれ。平成7年 大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。平成12年 大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究および臨床業務に携わる。平成16年 同修了後、現職。医師、医学博士、一般社団法人 日本外科学会 認定登録医。
現在は、地域医療の現場で医師として診療も行うとともに、一般社団法人 薬剤師あゆみの会・一般社団法人 日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育や薬学教育にも携わっている。

 

すべてのビジネスモデルには寿命がある 薬局は51年周期で動いている

始めに簡単に私の薬局をご紹介します。大阪市を中心に7店舗を展開していて、1日当たりの外来患者は7店舗合計で140人、残りは2501人の居宅療養管理指導と204人の特養入居者の訪問をしています。割合でいうと外来の処方せん比率は28.7%と3割を切っています(2020年5月)。7店舗のうち5店舗はほぼ外来なしで、訪問のみで経営しています。

 

ウィズコロナの時代、ありがたいことに業績は非常に伸びています。私はコンサルタントではありませんので、今日は、私自身が自分の薬局で実践していることをお話したいと思います。

 

これまでの調剤薬局の戦略は、極めてシンプルでした。「顧客の流れを太くする」「薬剤師1人当たりの生産性を上げる」「対物業務に特化して経費を最小化する」、この3つを考えればよかったわけです。しかし、こうしたシンプルな経営が成り立つ時代は終わりました。その理由を説明します。

 

すべてのビジネスモデルには必ず寿命がありますが、私は、薬局の場合はそれが51年周期と考えています。51年を1サイクルとして17年ごとに「導入期」「成長期」「成熟期」がやってきて、その後、衰退していくのです。

 

現在のように保険調剤が主流になる前、いわゆる町の薬局もやはり51年周期で衰退していきました。1970年が分業元年と呼ばれますが、保険調剤の導入期のスタートを1974年頃と考えると、そこから51年目となる2025年をピークに調剤は衰退期に入ります。市場全体が縮小していくからです。

 

新たなビジネスモデルはすでに到来している

一方で、薬局の新しいビジネスモデルも到来しています。新たなビジネスモデルは、実は2003年頃から始まっているのです。それは何でしょう。介護施設や在宅ケアなど地域と一体化した、いわば「薬局3.0」です。これまでは病院や薬局に自分で来ていた患者さんが、高齢化で来局できなくなり、薬剤師が地域へ出ていくことが求められるようになります。この10年間での外来患者数が約2割減少していることは、このことを裏付けています。

 

今はまだ在宅・地域医療は導入・成長期ですから、薄利多売で経営的には厳しくなります。導入期はハイリスク・ハイリターンなので、苦しくて当たり前なのです。実際に、現在業績を上げている大手チェーン薬局の多くは、まだ調剤で利益を上げることが難しかった1970、80年代に調剤事業を開始しています。

 

今はまだ在宅では採算があわないかもしれませんが、保険調剤も導入期はそうでした。しかし保険調剤が成長期に入った2000年以降「保険調剤では採算が取れない」という薬局があったでしょうか? ひとつもありません。私は在宅や地域薬局も数年後には、かつての保険調剤のように採算が合う仕組みになると予測しています。

 

その時に求められるのが、これからお話する「対物」から「対人」へ、調剤後のフォローアップなどに対応できる薬局です。

 

調剤報酬や薬機法改正 その根幹にあるのは「薬局ビジョン」

調剤報酬改定や薬機法改正などいくつかの制度改正を経て、薬剤師業務が「対物」から「対人」へと大きくシフトしました。変化の根幹にあるのは2015年に厚生労働省から出された「患者のための薬局ビジョン」です。薬局ビジョンではすでに「立地から機能へ」、「対物業務から対人業務へ」「バラバラからひとつへ」という大きな流れが示されています。

 

それでは、具体的に薬剤師のあり方、そして薬局経営はどのように変化していくのでしょうか。その例として挙げられるのが、調剤後のフォローアップやポリファーマシー対策です。

 

薬が増えてしまう理由のひとつは、医師は何らかの症状があれば、その原因を病気と考えるからです。症状に変わりがなければ「Do処方」で同じ薬を出し、問診で「ふらつく」といわれれば、対症療法でめまいの薬を追加します。そのため何も介入しなければ、薬は増える仕組みになっています。

 

一方で、薬剤師は患者さんを薬学的視点で捉えます。お薬手帳があれば、他の診療科から処方されている薬も含めて、服薬している薬の全体像を把握できるのです。つまり、患者さんが訴える不調の原因は「もしかしたら薬かもしれない」と気づくことができるのは、薬剤師だけなのです。

 

服薬後のフォローアップについてはどうでしょうか。今回、薬機法が改正されるとともに、薬剤師法25条の2では「患者の当該薬剤の使用状況を継続的かつ的確に把握する」という文言が盛り込まれました。この「的確に」というのは、言い換えれば「数字で」ということ。単に「血圧が高めです」ではだめなのです。数字でフィードバックするには、やはりバイタルサインやフィジカルアセスメントのスキルが必要です。

 

今は薬学部でもフィジカルアセスメントを教えるようになりました。しかし大学の先生ご自身が「なぜ、薬剤師にフィジカルアセスメントが必要か」をしっかり理解されないまま教育をしているので、学生に必要性が伝わっていないことは残念です。

 

ウィズコロナにおける患者ニーズは「顧客体験」

次にCOVID-19に関連する話題です。厚生労働省や日本薬剤師会のデータによれば、3月以降、病院も薬局も大きく患者が減り、完全に元に戻るのは難しい状況です。同時に0410通知が発出されて、電話やオンラインによる服薬指導が可能になりました。これによって何が起こったのでしょうか。一言でいうと、これまでの立地に依存した、マンツーマンによる集客というゴールデンルートが機能しなくなったのです。

 

来院しなければ医療が受けられない時は、流行っている病院の門前に立地しているだけで患者さんを集めることができました。しかし患者さんがオンラインで受診し、FAXで処方せんを送るのであれば、門前を選ぶ理由はなくなります。つまり、立地依存の経営をしていれば、放っておくと患者さんの流れは細くなる一方です。

 

ならばどうするか。私は「この薬局に行けば、このような体験が味わえる」という顧客体験を提供することが重要になると考えています。

 

例えば0410通知以降、私の薬局でも配送の準備をしましたが、結果的にほとんどの患者さんは来局して取りに来ることを選びました。薬局の“密”が嫌なだけで、やはり馴染みの薬剤師と薬について話して「ここに来れば安心できる」という“体験”を得たいのです。

 

立地以外の理由で薬局を選ぶとすれば、「そこでしかできない体験」があるからです。今後はAmazonによる薬の配送も出てくるでしょうが、薬によるちょっとした体調の変化を相談し、安心感を得るのは薬局でしかできません。

 

ここまでみてきたように、薬局経営としては門前ではなくて面で患者を集める発想は必須になります。そしてこれだけOTCが増える中、改めて保険診療以外にも目を向けなければなりません。さらに薬剤師自身の取り組みとしては、服用後のフォローアップをし、その結果を的確に医師へフィードバックするスキルなどが求められるようになります。

 

薬剤師以外ができる業務を明示した0402通知

ここまで新たに求められる薬局・薬剤師像について話してきました。ここでひとつ問題があります。それは、上記のことすべてを既存の業務に加えて薬剤師に求めれば、薬剤師はあっという間につぶれてしまうということ。現場ではすでに既存の業務で手いっぱいだからです。

 

そこで、業務的には重要であっても、薬学的専門性は低い仕事を、薬剤師以外のスタッフに任せる発想が必要になります。厚生労働省が出した0402通知では、まさにこうした、薬剤師自身が行うべき業務とそれ以外が示されました。例えば薬の取り揃えや一包化の個数確認などは、薬剤師の指示の下で行うことが可能とされたのです。

 

重要な点は、0402通知は都道府県の薬務課に向けて発出されたものということ。薬局でこれらの業務を薬剤師以外が行っていても指導してはいけない、と薬務課に対して通知しているのです。

 

すでに私の薬局では薬剤師以外の「パートナー」と呼ばれるスタッフが、調剤機器の操作や医薬品の取り揃え、持参薬の整理と報告、お薬カレンダーの準備などを担当し、薬剤師が専門業務に専念できる環境を整えています。そのためにはもちろん、パートナースタッフの教育が必須です。当社のマニュアルは「ハザマ薬局業務マニュアル」として公開しています。なぜならすべての患者さんを当社で引き受けることはできず、みんなで底上げしていかなければならないと考えるからです。

 

最後になりますが、経営者として考えるべきことは「戦術」ではなく「戦略」である、と私は考えます。機械化をして効率化する、生産性を上げるなどは戦術の話で、戦略ではありません。かつて町の薬局から保険調剤に舵を切る時、誰もが不安を感じました。今は同じように、保険調剤から次のステップへ進むことを考えなければなりません。今こそ大きな時代の変遷を見極める時期なのではないでしょうか。

 

 

 

メディカルサポネット編集部(講演日:2020年9月16日)

 

 

 

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