2020.12.28
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医療材料の調達の極意!【供給編】
コロナ禍の舞台裏――医療資材のサプライチェーンを守り抜け!

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックを引き起こす中、混乱する医療現場を陰から支え続けた存在――。それが、医療資材を「最前線」へ届け続けたサプライチェーン各社です。ここでは、世界中に手術準備キットや個人防護具(PPE)などを供給してきたメドラインの日本法人で、グローバルオペレーションを担う伊藤亜希子さんに取材し、コロナ禍での調達・供給に尽力した舞台裏を語っていただきました。
 
取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)
編集/メディカルサポネット編集部

 

伊藤 亜希子(いとう・あきこ)

メドライン・ジャパン合同会社グローバルオペレーション部 部長

2000年に入社し、サプライチェーンを基礎から学ぶ。需要予測、購買、在庫管理、輸出入、倉庫管理などの経験を積み上げ、製品マスターデータマネジメント及びサプライチェーン、物流センター統括責任者として現在に至る。

 

■複雑化する国内流通にも柔軟に対応

――COVID-19の流行初期、グローバル企業であるメドラインではどのような対応を取ったのでしょうか。

 

メドラインのサプライチェーンでは、センターコントロールの機能が置かれた中国の上海拠点が中心となり、全世界の需要を踏まえてグローバル購入を行っています。平時から医療資材の安定的な供給に努め、過去の感染症の流行時にも負けずに調達・コントロールしてきましたが、COVID-19が世界中に感染拡大してパンデミックとなったことによるインパクトは極めて大きなものでした。

 

そうした中、センターコントロールのメンバーが尽力し、世界中の需給バランスを見ながら、各国のニーズを満たせるよう協力し合う体制を整えていきました。調達が困難な国があれば別の国から融通するなど、平時に増して柔軟な対応でピンチを乗り越えようとしたのです。ただし、国によって薬事関連法制は異なりますから、それぞれの基準に応じた製品を調達しなければなりません。日本は世界的に見ても医療資材に対する要求が厳しいほうだといえるので、より高品質で信頼性の高い製品を確保できるよう、細かく調整を図っていきました。 

 

――コロナ禍で、日本国内の流通にはどんな変化があったでしょうか。

 

実は、「代理店を通してエンドユーザーに製品が届く」という医療資材の流通スタイルを採用している国は少数です。メドラインの本社がある米国では、製品は直接メーカーなどから医療機関に届けることがスタンダードですね。コロナ禍においては、私たちだけでなく代理店側でも在庫を持っていたことが「保険」として機能し、プラスに働く場面もあったと思います。

 

一方で、自動分配により注文通りの納品が難しい故に、2次店や3次店から当社へ直接追加注文が入るケースが相次ぎ、エンドユーザーである医療機関が直接取引を要望するケースもあり、現場では混乱をきたしました。医療資材の不足は「手術やケアができない」といった最悪の事態に直結しかねないので、現場欠品は絶対に避けなければなりません。お客様の注文の中でも、そうした緊急性の高いものについては、「特別枠」として別途キープしてある在庫を払い出すなどして対応しました。

 

  

■既存客の需要を満たすオペレーションに専念

――コロナ禍で、医療資材の製造・調達量はどの程度の影響を受けたのでしょうか。

 

安定供給を重視する当社では、平均的な需要の約2~3か月分の在庫を常に保有しています。また、中国、タイ、マレーシア、ベトナムなど、アジア圏を中心に複数の国から物資を調達しており、日ごろから不測の事態に備えた体制を整えていました。加えて、2020年1月~2月は中国では春節の時期で、大勢の人々が連休に入り、故郷などをめざして大移動するタイミングであり、それに備えて仕入れを多めにしていたところだったので、感染拡大初期からすぐに在庫が底をつくということはありませんでした。

 

ところがその後、中国国内で移動規制が敷かれたため、里帰りしていたスタッフが製造所に帰って来られない事態となりました。さらに中国以外の地域でも厳しい状況が続き、生産量が落ち続けてしまったのです。こうした影響から、製品の調達が最も厳しくなったのは2020年3月~4月ごろ。工場が再開してからも、検査、滅菌、パッケージ化といった工程が交通の分断などによりスムーズに進まず、全体的にどの製品も2割程度は生産量が落ちた印象です。

 

 

 

――一方で、需要は急増したと思いますが、どのようにオペレーションしたのですか。

 


愛西物流センターで出荷を待つ医療資材

コロナ禍で受注数が急増し、マスクや検査用手袋といったPPEを中心に、平時と比べて最大で2倍程度まで出荷量がアップしました。新規のお客様が急増したことに加えて、既存のお客様も不安な気持ちから多めの購入を希望される傾向があり、大量の注文につながりました。

 

出荷調整が困難になる中、私たちが最も大切にしたのは「既存のお客様の本来的な需要を守る」ことです。過去の実績から、その医療機関における平時の需要を割り出し、限られた在庫量の中で各施設に分配し、既存のお客様に継続した提供ができるよう力を尽くしました。コロナ禍では出荷調整が必要な品目が多岐にわたり、お客様の事情を加味しつつ、自動調整ではなく人間の判断を入れてコントロールする必要があったことから、大変なマンパワーを要することになりました。加えて、従業員の安全確保の為、全社的な在宅勤務に切替えたタイミングであったこともさらなる困難を極めました。その環境下でなるべくマンパワーを減らす為にカスタマーサービスと物流センター、ITや私達オペレーションが協力し、自動出荷調整システムの採用を実現することができました。

  

医療現場を支える皆さんも、医療資材の不足にはずいぶん悩まされたことと思います。少しずつ状況は改善しつつあるものの、第2波・第3波の到来やインフルエンザなどとの同時流行を考えると、再び品薄になる可能性は十分に考えられます。医療資材を適切に管理・購入するためには、やはり自施設内の需要をいかに正確に読むかがキーポイントになるはずです。「たくさんあるに越したことはない」と考える気持ちは分かりますし、多めに入手できれば安心ではありますが、こんな状況だからこそ「ストックしておきたい数量」と「絶対に使用する数量」を切り分けて考えることが大切だと思います。

 

 

■今後も医療資材の安定供給に全力

――貴社では、平時から「医療現場での教育」にも注力しているそうですが、コロナ禍において変わったことはあったでしょうか。

 

当社では、医療従事者向けの教育ツール(PPEの正しい使用方法を解説するものなど)の作成に力を入れているほか、営業担当者が医療機関での勉強会を精力的に展開しています。現時点ではそうした活動も控える傾向にありますが、依頼があった場合は対応させていただく場合もあります。

 

コロナ禍の状況では、当社の公式ウェブサイトから無料で閲覧できる教育コンテンツに注目していただきました。春ごろから問い合わせが急増し、特にPPEの着脱方法を説明したコンテンツは、ページビュー数が3割ほどアップしました。医療機関だけでなく、企業の産業医や保健師などからも「社内で手指衛生の指導をする際に役立ちました」といった声が届いています。限りある医療資材を大切に使うという意味でも、ぜひ多くの皆さんに研修などで活用していただければうれしいです。

 

使用法に認識の違いがあったり我流になっていたりしても、スタッフ間で指摘しづらい環境であることなどが少なくありません。「最新のスタンダード」を第3者であるメーカーがご案内することで、心理的な抵抗なくスタッフの皆さんに受け入れてもらいやすいという意義もあると感じています。

 

 

――最後に、医療施設の経営や管理に携わる皆さんへ、メッセージをお願いします。

 

まずは、未知のウイルスへの不安を抱えながらも現場に立つ医療従事者の皆さん、そしてそれを支える経営者や管理者の皆さんに、心からの感謝をお伝えしたいです。私たちは、皆さんが安心して治療やケアを提供できる環境を整えるため、これからも医療資材の安定供給に全力を尽くしていきたいと思います。

 

その一環として、同業他社との連携も積極的に拡大しているところです。これまでもPPEなどを扱う企業が加盟する職業感染制御研究会やAMDD(米国医療機器・IVD工業会)などを通して横のつながりはありましたが、コロナ禍を受けてワーキンググループを立ち上げ、定期的に情報交換などする中で、より強力に助け合う雰囲気が醸造されていったように思います。営業担当者同士でも現場交流を密にし、万が一どこかで欠品があれば、企業の垣根を越えてでもサポートできるようにしています。苦しい時代だからこそ、「医療従事者が医療に専念できるパートナーとなる」という私たちのミッションの実現に挑み続ける覚悟です。

メドライン・ジャパン合同会社

■住所:東京都文京区小石川1-4-1 住友不動産後楽園ビル15F

■代表電話番号:03-5842-8800

■URL:https://www.medline.co.jp/

■設立:1999年11月

■代表執行役員社長:長谷川 智裕

全米最大規模の医療機器メーカーであるメドライン・インダストリーズの日本法人。

医療機関向けに手術準備キット、手術用・検査用手袋、ガウン、ドレープ、個人防護具など医療用品の製造・販売を行う。

適正品質の製品を、適切な価格かつ付加価値のある製品販売により、医療従事者の感染防止と患者ケアによるQOL向上に貢献している。

  

※関連記事:『医療材料の調達の極意!【調達編】マスク不足に陥らないために医療機関ができること』こちら

 

 

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