2020.03.27
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【第1回】交代勤務が引き金になる睡眠障害

睡眠研究の権威・西野精治「現代の国民病・睡眠障害を考える」

二交代や三交代制のシフト勤務で働いている人は、どうしても体調不良になりがちです。睡眠が不規則ですから、睡眠障害に悩む人も必然的に多くなります。しかしながら、世の中がスムーズに機能するためには、このシフト勤務をなくすことはできません。どうすれば、体調を整えながら元気に働くことができるのでしょうか。スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長である西野精治先生が、そのポイントをレクチャーしてくれました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 

 

交代勤務の12時間のずれ、適応までに約2週間

外的要因で生体リズムが乱れる睡眠障害のひとつに、交代勤務睡眠障害が挙げられます。

みなさんのなかにも、またはみなさんの知人のなかにも、二交代や三交代制のシフト勤務で働いている人がいることでしょう。

日本では約2~3割の人たちが交代勤務で働いていると聞いたことがあります。その人たちの多くは、睡眠障害、消化器系の不調、勤務時間中の眠気、倦怠感などの体の不調を感じているそうです。

 

交代勤務によるこうした体調不良も、睡眠障害のひとつ。

体温が下がって「寝る時間ですよ」と体が言っているときに働き、覚醒系のホルモンが分泌されはじめて「起きる時間ですよ」と体が言っているときに寝る。そんなことでは、生体リズムが乱れて体に異変が起きるのは当然です。

この状態を、脱同調といいます。

 

交代勤務は圧倒的に体に悪い働き方ですが、交代勤務がなければ現代社会を支えられないのもまた事実です。

たとえば、救急指定病院や入院患者さんのいる病院では、24時間の対応は必須です。看護部門は日勤、準夜勤、深夜勤の三交代制、医師・薬剤部・検査部門は宿直勤務が多いようです。

警察署や消防署、民間の警備会社など、治安を維持する仕事も24時間対応にならざるを得ません。警察署や消防署では、2部、3部勤務が導入されていて、このシフトは医療機関の二交代、三交代の勤務体系とは全く異なるものです。

 

経済効率から交代勤務を導入し、24時間サービスを提供したり、24時間工場を稼働したりする企業はいくらでもあるし、その勤務体系もバラバラです。

交代制の善し悪しを語るのはむずかしいところがありますが、生体リズムの視点からすすめられないシフトはあります。それは、製造工場の生産ラインで多い、昼夜の二交代制を1~2週間で行っているケース。最初の2週間は日勤、次の2週間は夜勤といったタイプの交代制です。

わたしたちの体は、脱同調が起こっても、再同調させる機能が備わっています。これもホメオスタシス機能ですが、1日に修正できる時間は約1時間とされています。

つまり、二交代制で生活のリズムが12時間ずれると、適応するまでに約2週間はかかるということになります。完全にリズムが同調するまでには、あと1週間くらいは必要でしょう。そうなると、昼夜二交代制で1~2週間でシフト交代をしていると、年中、同調できないことになります。それでは、体に異変が起きてもおかしくありません。

 

 

体への負担を減らすシフトは「後ろへずらす交代」

交代勤務の負担を少しでも軽くするときのキーワードも「同調」になります。

まず、二交代、三交代を短い周期で行うのではなく、同じ時間帯での勤務をある一定期間続けることです。たとえば、夜勤を2~3カ月、もっと長期でも構いません。交代勤務ではなく、交代しない夜勤ということです。リズムを適応させていく最初の2週間は大変ですが、体が慣れてくると残りの日数は、比較的らくになります。

人間本来の生体リズムとはそぐわない時間帯での仕事になりますが、変化しないという意味では体に負担がかからないのです。

アメリカでは、長期間の交代勤務が多い傾向があります。なかには夜勤ばかり続けている人もいるほど。家族とのコミュニケーションの時間が少なくなるデメリットはありますが、日勤より高収入になるし、なにより体への負担が軽減されるというメリットがあります。

 

また、前へずらす交代ではなく、後ろへずらす交代にすることです。

たとえば、病院の看護師の日勤、準夜勤、深夜勤の三交代制の場合なら、深夜勤→準夜勤→日勤ではなく、日勤→準夜勤→深夜勤の順番でシフトを組むということです。後ろへずらすほうが、比較的同調させやすいと言われています。

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