2019.10.28
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【後編】 声の大きさひとつで人生を変えることができる

坂上忍「かけひきする勇気」

新入社員の3人にひとりが、就職後3年以内に転職するといわれる時代です。それだけ離職率が高い状況において、各企業は若い人材の確保に頭を悩ませています。
 
企業・組織というのは、結局のところ「人・人材」がすべてだといっていいでしょう。そして、マネジメント側に立つ人間たちが、彼らをどう理解し、接していくべきなのか――。いまの時代、中堅・ベテランの社員が若い世代の人間たちを理解することこそが、強い組織をつくっていくのかもしれません。
 
最新の著書『かけひきする勇気』(セブン&アイ出版)のなかで、自らを凡人だと言い切り、独自の人生処世術を明かした坂上忍さんが、若い世代の人たちに向けてアドバイスを送っています。若い社員にアドバイスする際の参考になる、鋭い考察です。
 
構成/岩川悟(slipstream) 

坂上忍「かけひきする勇気」【後編】 声の大きさひとつで人生を変えることができる

経験を怖がってはいけない

この世界にごくごくわずかしかいない天才と呼ばれる人たちには、どんなふうに世界が見えているのでしょうね? 僕が番組で共演したIQが高い青年は、海の波を見ただけで、そのかたちや動きが数式で見えるということでした。でも、ただの凡人である僕には、凡人のものの見方しかできません。僕なんて、「ああ、今日も海は綺麗だな。波も穏やかでいい感じ。仕事、ばっくれちゃおうかな」なんて、現実逃避するのがオチです。

 

ただ、僕自身は決して天才ではありませんが、長く芸能の仕事をし続けてきたこと、つまり経験によって一般の人とはちがうものが見えるということもあります。映画やドラマの台本をもらって、まずはタイトル、監督、主演、その他の配役を見る。現場にいけば、ほかの役者と監督との相性などを見つつ、自分がどういう芝居をすれば監督が納得してくれるのか、あるいはどうすれば自分を際立たせられるのか――そういったことの答えは見えています。パズルではないですが、「これだ!」と「カチッ」と音がしてはまるような感覚が身についているのです。

 

そういうものの見方ができるのは、小さなころから役者をしているという経験があるからにほかなりません。台本を見た段階である程度の現場の想定や答えらしきものを想像することができるのです。ところが、それはあくまでも「机上空論」ですから、現実はまったくちがうということもよくある話。撮影現場では思いもしないトラブルが起きるので、そこでどう対処すべきなのか。

 

そういったことも含めたあらゆる経験が僕にはあるので、それらのトラブルなども踏まえた「机上の空論」を描けるのです。だからこそ、その場、その瞬間で戦法や武器を変えていくことができる。いわば僕は、経験豊富な「現場作業員」みたいなものです。

 

結局、人は経験がすべてなのです。僕とは職業がちがっても、それぞれの経験によってその業界以外の人間にはできないものの見方ができるという人はたくさんいます。しかしいまの時代、とくに若い人には経験を怖がる人が多いように感じています。

 

僕は教育の専門家ではありませんが、これには「失敗しちゃダメ」というスタイルの教育が影響を及ぼしているのではないでしょうか。結果、「失敗するくらいだったら最初からやらない」という人が増えているのです。

 

ただ、経験することが怖いのなら、僕は「ずっと見ている」ことも一手だと考えます。ただ、ここで重要になるポイントは、ただ傍から眺めるのではなく、「強い興味を持って見る」ということ。

 

これからの時代は、ITだのAIだのの進化で人間がやれる仕事が減っていくなんてことがいわれていますが、ほとんどの仕事は他人と交わらないと仕事になりません。結局のところは「人」なのです。つまり、自分を成長させていい仕事をしようと思うのなら、人間に興味を持つことがいちばんの近道だと言い換えることができる。

 

人と実際に交わればたくさんの摩擦も生まれてくるし、経験を怖がる人なら腰が引けるかもしれません。そうであっても、「生態観察」ならできますよね? 本来であれば実際に経験をして身をもって知っていくことがベストだけど、「どうしてこの人は、こんなに虚勢を張るのだろう?」「なぜこの人は、トラブルなくいつも仕事を成功させることができるのだろう?」でもなんでも構わないので、なんらかの疑問や興味を持って他人をじっくり観察することです。そうすることで、人と交わる力は少なからず上がっていきます。

 

人を知る努力はいつもしておくことです。

 

いまの時代は空前の大チャンス

また、いまの若い人には出世欲がないという話を聞きます。「出世して何人も部下を抱えるのは面倒」なのだそうです。たしかに、仕事よりプライベートに重心を置くのもひとつの生き方でしょう。でも、それってすごくもったいないことだと感じます。

 

なぜなら、いまの時代は空前の大チャンスだと思うからです。「過去のビジネスモデルは通用しない」だとか、「AIの発達で仕事がなくなる」だとか、近年のビジネスをめぐるニュースを耳にすれば、自分の将来に夢を見ることは難しいと考えることもうなずけます。

 

でも、一方では人手不足や少子高齢化も深刻な問題。そんななか、世代人口が少ない若い人たちには、出世欲がないというではありませんか。だとすると、出世欲を持っていて、明確にやりたいことがあるという人間にとっては、これ以上ない「おいしい時代」だと考えることもできます。

 

いま、芸能界でも、それからビジネスの世界でも、その中心にいるのは僕くらいのおじさんやおばさんたちです。いつの時代も変わらないことですが、そういう彼らや彼女らが求めるのは、活きがいい若者なのです。にもこだわらず、本来ならライバルになるはずのまわりの若者たちが勝手に戦線離脱していくわけですから、意欲的な若者からすればそこらじゅうにチャンスが転がっている状況だと見ることができます。

  

では、そのチャンスを確実につかむためにはなにが必要でしょうか。ひとつは人です。といっても、友だちをたくさんつくりましょうということではありません。友だちなんて、ひとりかふたりもいれば十分でしょう。友だちではなく、自分の「味方」をできるだけ多くつくるのです。仕事で味方になってくれる同期や後輩、先輩はいくらいてもいいではありませんか。

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