2021.01.29
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介護報酬改定とBCP 
~シミュレーションと未来への投資で介護経営を生き残れ~

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.4

 

編集部より

今、介護事業所の経営には、新型コロナウイルス感染症への対応と制度改正を見据えた長期的な戦略という2軸が求められています。

先が見通しにくい時代に、介護経営支援に携わってきた小濱介護経営事務所の代表、小濱道博さんが「先手必勝の介護経営」と題して、一歩先行く経営のヒントを1年間にわたってお伝えします。第4回は、介護報酬改定で示されたBCP策定について解説いただきました。「経営者は運営ではなく経営をしなければ生き残っていけない時代」に向けて、これから3年間で経営者がいかに現場に沿ったBCPを策定できるかが、今後の施設経営の明暗を分けるといっても過言ではありません。

実質0.65%のプラス改定で生き残る策はシミュレーション

 

1月18日の社会保障審議会介護給付費分科会で令和3年度介護報酬単位が答申された。前回のコラムでもお伝えしたが、今回の改定率は0.7%のプラス改定であるものの、そのうちの0.05%は、コロナ対策での特例措置であるので、実質的な改定率は0.65%のプラスということになる。コロナ対策での特例措置は令和3年9月までの限定措置であり、4月から9月までの半年間、全サービスの基本報酬が0.1%上乗せされる。予想していたとはいえ、基本報酬の上げ幅は小さい。平成30年10月に消費税が増税された時と同程度のプラスといえる。

 

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.2

 

改めて各分野における基本報酬の上げ幅を確認しておこう。

●訪問介護・訪問看護:1単位の上乗せ

●デイサービス・デイケア・介護保健施設など:7単位から数十単位のアップ

●デイサービス・デイケア:入浴介助加算で上位区分新設により10単位マイナスの40単位

●デイケア:リハビリテーションマネジメント加算330単位が基本報酬に丸められた

●介護施設:栄養マネジメント加算が基本報酬に丸められた分がプラスとなったに過ぎない

 

さらに、サービス提供体制強化加算である。今回の改定で、上位区分が設けられたことに伴って、従来の加算Ⅰロ、加算Ⅱ、加算Ⅲが統合された。

同時に従来の加算Ⅱの算定要件である「勤続3年以上の介護職が30%以上」の要件が、「勤続7年以上が30%」に変更された。これによって、6単位/回の加算が算定出来ない事業所が出てくる。

 

令和3年度介護報酬改定は、一律で収入が0.7%上がる訳ではない。同じサービスの中で、2極化が大きく拡大する介護報酬改定だと言える。早期にシミュレーションをすることをお勧めする。

 

進む「科学的根拠に基づいた介護」への評価

 

また、ケアの質を向上させるためのエビデンスの構築を目的としたデータベースであるVISIT、CHASE(4月からはLIFEに統一)へのデータ提供が、この3つのキーワードに関連する加算の算定要件に上位区分、もしくは算定要件の一部として位置づけられた。

 

さらに科学的介護推進体制加算が創設された。これらのLIFEデータベース関連の加算単位は、決して高いものではない。その手間を考えると収支が合わないだろう。

 

ただ、以前からの問題として存在した手入力の手間は、記録ソフトを使うことでCSVデータとして抽出して伝送するだけとなる。あとは、フィードバックデータをいかに有効に活用するかが重要なテーマとなるだろう。それによって、提供サービスの質が向上し、利用者満足が向上するのであれば、それは大きな差別化に繋がる。

 

 

3年間でBCPを策定せよ!にみる背景

 

そのような中で、運営基準の見直しで作成が義務化された業務継続計画(BCP)に注目している。これには3年間の経過期間が設けられている。しかし、3年間も何もしないことは、本当にもったいない。これは、早期に着手して作成を終えるべきだ。

 

BCPとは中小企業庁が主導で進めている事業継続計画のことである。地震や台風などの自然災害によって事業活動を行う電力・ガス・水道・インターネット等のインフラ環境や施設設備が損傷することになっても、早期に回復ができるように対策をまとめた計画書やマニュアルを指す。

 

これは、インターネット等で簡単にコピペできるものではない。厚生労働省からは、すでに基本的なガイドラインやひな形が出されている。ガイドラインは<感染症BCP>と<自然災害BCP>に分かれて、施設・通所・訪問ごとに区分される。

 

厚労省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」より引用

 

その地域特性や事業内容、利用者層、経営理念などが基本となって事業所毎に作る必要がある。自然災害直後やコロナ禍で職員が濃厚接触者に認定された場合は、出勤できる職員数は大きく減少する。通常と比較して出勤者が減った場合に、どのようなサービスや業務を優先して提供を始めるかを考える必要がある。

 

例えば・・・

・出勤率20〜30%の場合:優先するサービス・業務はどれか

・出勤率50%の場合:優先するサービス・再開できる業務はどれか

・出勤率80%の場合:どこまでのサービス・業務を再開するか

このように有事の時に再開する優先業務を決めておくことで、素早く業務を再開することができる。また、水道の断水や電気のブラックアウト、ガスの停止、道路の破損などの要因によっても優先順位が異っていく。これらのことを、職員を交えてじっくりと計画にまとめていく。

 

しかし、制度的に義務化と言っても、BCPの壁は高く、その意味を知らずに策定する事業者も多いと思われる。実際、BCPを防災計画と勘違いしている経営者が多いが、それは誤りだ。

 

<図 防災計画とBCPの違い>

厚労省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」より引用

 

BCPは防災より経営戦略の性格が強く、ただ策定すれば良いのではない。BCPは全社で取り組むもので、各部署の職員で検討しながら作る必要がある。そして年1回は見直して精度を高めていく。そして、介護事業のBCPは一般企業の策定プロセスとは異なり、感染症対策やコロナ対策など一般企業には無い要素を多く盛り込む。通所サービスに至っては、「休業」という要素を盛り込まないといけない。

 

制度上で必要という面を抜きにしても、介護事業でBCPは早期に全体で取り組むべきだ。そのメリットは、利用者や職員に安心感を与える。また全社で取り組むことで、風通しの良い企業風土が醸成されて、定着率がアップし、良い人材が集まる。

その作成過程で、職員を交えて活発な意見交換が行われ、自分たちの課題を共に解決する課程を共有することが重要なのだ。検討会議の課程で、自社の生き残り策を主体的に考えて戦略的に検討する中で、職員の帰属意識が高まる。

その結果、平常時から取組むことで業務改善に繋がり、小さなリスクが現実化した場合も、事前の想定した準備が有効に機能する。

 

 

BCP成功の鍵となるもの

 

BCPの成功の鍵は、その施設・事業所の経営理念、クレドにある。利用者家族、職員、地域での自分たちの存在意義の明確化がしっかりと出来ていないと、中核事業の決定や重点業務の選択を誤ることになる。そして、そのBCPは実際の被災において機能せず、ただの絵に描いた餅になる。職員を育てるという側面でもBCPを全体で策定することは重要な役割を果たすだろう。

 

介護事業経営は、しっかりとしたマネジメントが求められている。経営者は、「運営」ではなく、「経営」をしなければ生き残っていけない時代となったことを認識すべきだ。

 

 

※次回は2021年2月中旬公開の予定です。

 

Profile

小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所 代表/C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問/C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

日本全国対応で介護経営支援を手がける。介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。昨年も、のべ2万人以上の介護事業者を動員した。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。 
■著書
「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」(第一法規) 
「これならわかる <スッキリ図解> 実地指導」(翔泳社)
「まったく新しい介護保険外サービスのススメ」(翔泳社)
「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」(日本医療企画) 他多数
■定期連載
「日経ヘルスケア」「月刊シニアビジネスマーケット」「Visionと戦略」他

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