2021.01.20
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介護の仕事を職員と一緒に楽しむ
~NPO法人代表~

実践者に聞く!
デキる介護管理職のモチベーションアップ術 vol.4

 

編集部より

ますます需要が高まる介護現場において、施設管理やスタッフ勤怠管理など管理職の方たちに求められるマネジメントスキルも高まっています。しかし、必ずしも「管理職になりたくてなった」とは限らず、また、十分な管理職教育を受けられるとも限らず、孤独になりがちな介護管理職に向けたマネジメントに関する情報はこれまで多くは語られてきていません。

本連載では、看護師・保健師を経て現在は人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍されている久保さやかさんが、「介護管理職のモチベーション」をテーマに、医療介護業界で活躍する管理職や経営者に実際にお話を伺いながら、そのありかを探っていきます。介護業界の管理職の楽しさがわかる、明日からのモチベーションが上がる、そんな気持ちにさせてくれる全6回のコラムです。

 

執筆/久保 さやか(thoughts代表/看護師・保健師)

編集/メディカルサポネット編集部

「介護業界の管理職のモチベって、なんだ?」

そんな単純な疑問から、この連載は始まりました。

あれやこれやと苦労が絶えない管理職のモチベーションのありかを探す、そんな旅のような企画です。

 

NPO法人居宅介護支援事業所等 法人代表 ヒンちゃんの場合

 

今回お話を聞かせてくれたのは、NPO法人で居宅介護支援事業所等、3つの事業所の代表であるヒンちゃん。

ヒンちゃんの事業所は、障がい者と高齢者の支援業務に対応できることから、“困った時の駆け込み寺”として地域を支えています。また、ヒンちゃん自身も、主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)として、数多くの利用者をバッチリ担当するだけでなく、複数の団体で代表や監事も担っています。まさに、「地域のキーパーソン」としても、その存在感はとても大きい方です。

そんなヒンちゃんのモチベは、一体どこにあるのでしょうか。


介護は天職!

私自身の介護業界のスタートは、ヘルパーでした。その後、仲間たちと一緒に、地域の居場所として良いデイサービスを創ろうと、今のNPO法人を始めたんです。その間にケアマネジャーの資格をを取得して、主任ケアマネジャーになりました。

現在は、居宅介護支援事業所、障がい者相談支援事業所、ヘルパーステーションの3つを運営しています。職員は、ケアマネジャーやヘルパーなど全部で10人。部下というよりも、みんな横並びみたいな感じですね。

 

息子から「介護は天職だね」と言われるほど、私は介護の仕事が大好きです。歴史ある人たちから戦争の話や波乱万象の話を聞いたりするのが、とても楽しい。自分の親の話は聞けないのに(笑)、利用者の話はずっと聞けるし、もっと聞きたいと思います。自分のモチベーションの1番は、ここにあると思います。

 

 


にぎやかな職場と定着率の高さ

NPO法人であることから、そこまでお給料は高くありません。それでも、職員の定着率は高く、継続勤務年数も長い。辞めないですね。みんな、楽しいんじゃないですかね?

いつも事務所はにぎやかです。町の猫が集ってきたりもするんですよ。利用者との出来事を話したり、仕事を通じて、みんなで楽しい気分を共有できる職場です。言いにくいことや、何かがあっても言いやすいし、「仲間」としていてくれるので、ありがたいとも思います。


大切なことは利用者が教えてくれる

もちろん、苦労もあります。コミュ力が低いというか、利用者とは話せるのに、組織の中だと、言えばいいことをちゃんと言わない職員も多い。最初はイライラしていましたね。出来ないなら出来ないと言え!と。

しかし、同じ利用者を一緒に担当したことで、変わってきました。介護は拒否するし、大変な事例だったけれど、その大変さや仕事の楽しさを一緒に経験したことが大きい。その経験が、私とその職員を育ててくれたのだと思います。

私たちの仕事は、利用者に学ばせてもらう仕事なんです。

 

介護の仕事の楽しさを職員も知り、いきいき働くようになるのを見るとモチベーションが上がります。いわゆる“オタク”仲間の感覚に近いのかもしれません。介護の仕事の楽しさ、嬉しさについて、意気投合できて、盛り上がれる。そういうエネルギーが職場にはありますね。

 


ケアマネジメントの視点を職員の育成にも活かす

事務所はワンフロアなので、職員の電話応対なども含めて、見られるだけ全部見るようにしています。情報収集して、分析、アセスメントする、という点は利用者との関りにも似ているのかもしれません。

育成する時の工夫ですか?

職員と接する時は、なるべく否定はしないようにしていて、感謝を伝えるようにしています。あとは、成長を促すために、役職を任せてみたり。任せてみたら、自分から質問が出来るようになったり、一生懸命やるようになりました。

ガチガチなマネジメントはしません。本人のやる気が盛り上がらないと結局ダメなんですよね。「本人の意欲を高める」という点でも、利用者のケアマネジメントに似ているかもしれません。

 


さまざまな役職をこなすことで、モチベーションを維持し、高める

法人の代表以外にも、多くの地域活動をやっています。まわりからは、何でそんなに出来るの?と聞かれることもあるけれど・・・

さまざまな活動をやっているからこそ、1つ嫌なことがあっても気持ちの切り替えができる。自分の切り替えスイッチのためでもあります。何より、自分が楽しいんです。結果として、モチベーションが維持できているのだと思います。

  

介護の仕事について、本当に楽しそうに話すヒンちゃん。インタビューが終了するや否や、利用者の家族から電話が入り、飛ぶように去っていきました。

インタビューの中で、「私たちの仕事は、利用者に学ばせてもらう仕事」と話していたように、医療・介護の専門職は、「患者・家族との関り」から、コミュニケーションやメンバーシップ、死生観や看護観を学び、その学びは、いわゆる熟達したベテランであっても継続され、ますます学習が活性化するとも言われています。1)

その学習に楽しさを見出し、“仲間を増やす”視点で、介護のテクニックを職員の育成やマネジメントに活用する、まさにヒンちゃんの天職ぶりが見て取れました。

 

そして、驚いたのは職員の定着率の高さ。ヒンちゃんは事もなげに言っていましたが、職員が殆ど辞めないというのは、昨今の医療介護業界の中では、驚くべきことです。

介護職の仕事観の特徴として、「やりがいや達成感を得るため」「自分を成長させるため」「社会のために役立ちたいため」といった、内発的な動機づけに強く牽引されています。2)

一方で、この「やりがい」や「達成感」など、仕事で得られる良い側面については、とかく個人の中で消化されがちではないでしょうか。反面、ヒンちゃんの職場というと、いつもにぎやかで、利用者との話をオープンに共有しているとのこと。

 

もしかしたら、職場全体で、仕事の楽しさを共有し、モチベーションを高めあっていることが、職員が長く働き続ける職場を作っているのではないかと思いました。

 

参考文献

1)松尾睦著 医療プロフェッショナルの経験学習 同文館出版株式会社 2018

2)パーソル総合研究所 何が介護職を<成長>させるのか―「クリエイティビティ」と「他者」をキーワードに

https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201812060001.html

プロフィール

久保さやか(くぼ・さやか)
THOUGHTS代表。看護師・保健師、人材育成・組織開発コンサルタント。
慶應義塾看護短期大学卒業後、慶應義塾大学病院混合病棟勤務を経て、慶應義塾大学看護医療学部に編入学し保健師免許取得。大学卒業後は、大手小売業にて人事部所属の産業保健師として産業保健体制の立ち上げに携わる。その後、弁当チェーン運営会社の総合職として役員秘書、人事部、経営戦略部などで勤務する。現在は中小企業の産業保健師として勤務すると同時に、医療職やビジネスパーソン向けの人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍している。


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