2020.10.16
5

リーダーの成長と組織の成長は相関する

裵英洙のマネジメントのちから~人事で悩むあなたへ~
vol.1

 

編集部より

医師で、医療機関コンサルティング会社、ハイズ株式会社代表の裵 英洙(ハイエイシュ)さんの連載「マネジメントのちから~人事で悩むあなたへ~」が今月から始まります。裵さんは勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感したそうで、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)でMBA(経営学修士)を取得し、現在は各地の病院の経営アドバイザーとして活躍しています。病院経営で重要な「人事」を切り口に、組織マネジメントのポイントを毎月お伝えします。

どの組織やチームにも必ずリーダーは存在します。人が複数集まると組織やチームとなり、一組織・一チームには必ず一人のリーダーがいます。ただ、すべてのリーダーが意識高く、能力が素晴らしいとは限りません。部下から尊敬されず執務能力が低いリーダーが居座ると部下の仕事ははかどりませんし、モチベーションは下がってしまいます。どんなに素晴らしい部下やメンバーがいても、それを十分に活かせるリーダーがいないと、組織・チームのパフォーマンスは上がらないものです。

 

本連載はさまざまな視点で人事や人材マネジメントに切り込んでいきますが、第1回の本稿は“リーダーの基本姿勢”をみていきましょう。

 

リーダーは組織の鏡である

リーダーの勤務態度が悪かったり、不正をしたり、コンプライアンス違反を平然と続けていると、組織やチームの士気は下がります。それだけならまだ被害は大きくありませんが、部下達がそれを常態と思うようになり、部下自らが同じようなことを始めると収集が付かなくなります。筆者の経験からは、ハラスメントを例に取ると、セクハラやパワハラが多い組織はリーダー自らもそのようなハラスメントをしている、または看過している組織が多いのです。つまり、リーダーがだらしないと組織もだらしなくなるものです。リーダーが「これくらい、ま、いいか」と自分に甘くなると、それが組織全体に伝染していくのです。組織に蔓延したら「ま、いいか」のレベルで済まなくなります。一事が万事で、悪い流れは組織の隅々まで行きわたります。リーダーはあらゆる階層の部下から見られ、影響を与えているものです。リーダーは模範であり、理想であり、憧れの存在でいたいものです。

 

リーダーが生み出すブレは下に行くほど大きくなる

振り子を想像してみましょう。支点が小さく揺れただけでも、それにつながる振り子の揺れは大きくなります。つなぐ糸が長ければ長いほど、ブレは大きくなります。この原理は組織にも当てはまります。リーダーの評価軸や基準がブレると下は大きく振り回されるのです。組織が大きければ大きいほど、末端の部下の動揺や行動のずれは大きくなります。昨日言ったことと今日言うことが異なると、部下はどれを信じていいのか分からなくなります。例えば、「なんでも早めに相談してね」とリーダーが部下に言っておきながら実際に部下が相談にくると「すぐに持って来ずにじっくり自分で考えなさい」と叱責すると、部下は何を信じていいか分からなくなります。また、叱責を恐れるがあまり、積極的行動が減り、指示にも従わなくなり、「学習性無気力」の状態になっていきます。リーダーの評価軸のブレは部下にとっては苦痛なのです。それに耐えきれず、振り子のように糸がぷつりと切れてしまい、離職につながることもあるのです。

※学習性無気力:努力を重ねても望む結果が得らない状況が続いた結果、何をしても意味がないと考えるようになり、積極的行動や努力を行わなくなること。

 

組織はリーダー以上にはなれない

リーダーが何もせずに、ただ部下に頑張れと言っても、部下は納得しません。リーダーが部下以上に汗と知恵を出してこそ、部下は奮起するものです。汗をかかないリーダーほど「うちの部下は動かない」と愚痴を言っていることが多いように思います。リーダーの表面的な言葉よりも、リーダーの汗が部下を動かすことは意外に多いものです。組織やチームを強くしようと願うのなら、まずはリーダーが成長する必要があるのです。

組織の力量はリーダーの力量。組織の質はリーダーの質。「組織」と「リーダー」、この二者は相関し、その相関係数はかなり強いのです。この相関関係に気付いているリーダーほど、自己研鑽と自己成長に敏感です。管理職や経営層になったからと言って学ぶことを休憩してはいけません。組織やチームの成長はリーダー依存性であり、リーダーが学んでいると部下も学びます。特に、組織やチームの規模が小さいとリーダーの行動が目に付く頻度が高いのでこの傾向は顕著です。

 

リーダーは部下を選べますが、部下はリーダーを選べません。仕事人生において部下の幸せも不幸せも、どのリーダーにつくかで決まる部分が大きいのです。もの言える優秀な部下はリーダーに勇気を出して上申し、優秀なリーダーはそれを受け入れます。逆に、残念なリーダーはスルーします。部下は勇気を出して意見したことが効果ないと判断しリーダーに呆れた時点で、「離職」という伝家の宝刀を抜くのです。優秀な部下ほど物足りないリーダーに呆れるスピードは速いものです。そして、「なぜ彼・彼女は離職したんだ?」と、残念なリーダーは最後まで気付きません。

 

リーダーが変われば組織が変わります。そう、人材マネジメントはリーダーの意識改革がスタートなのです。

 

※次回は11月中旬に公開予定です。

Profile

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長、慶應義塾大学 特任教授、Keio Business School 特任教授、 高知大学医学部附属病院病院長 特別補佐、高知大学医学部 客員教授、横浜市立大学医学部 客員教授。

奈良県出身。1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科に入局、金沢大学をはじめ急性期病院にて外科医・病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院 経営管理研究科(慶應ビジネススクール)に入学。首席で修了し、MBA(経営学修士)を取得。現在、ハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザーとして活躍中。 また、アカデミックの分野では慶應義塾大学 特任教授はじめ複数の客員教授を務め、病院経営に関して教鞭を取る。 さらに、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」や「医師需給分科会」の公職を歴任。日経メディカルや日経ヘルスケア等で連載を書き、発刊された書籍は通算15万部以上のベストセラーとなっている。

 

↑ recommend ↑

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP