2016.10.14
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Vol.01 早わかり法律講座
~会社は勤務態度が悪い薬剤師を解雇できる?~

【コラム/薬読】

メディカルサポネット 編集部からのコメント

経営者といえども、解雇を行うことは簡単にできません。研修や異動を行っても問題が解決しない場合、弁護士などの専門家に相談してください。対象者との紛争を回避するためにも、慎重な対応が必要です。

 
 

 

近年は薬剤師が不足していることもあり、薬局の経営や採用に携わる方は「ちょっと気になるな……」と感じながらも薬剤師を採用することもあるかもしれません。しかし、採用した薬剤師の勤務態度が思っていた以上に悪く、雇用を続けるのが難しくなることもあるようです。例えば遅刻ばかりしている、患者や従業員とトラブルを起こす、ルールを守らず調剤ミスを多く起こす、など。このような場合、雇った会社は、その薬剤師を解雇することはできるのでしょうか

そもそも「解雇」ってどういうこと?

解雇とは、使用者の一方的な意思で労働契約を解約することをいいます。一般的に正社員は、特に働く期間を定めず定年まで働くという「期間の定めのない契約」をしています。このような契約では、会社側はいつでも解約の申入れをすることができ、申し出てから2週間が経過することによって、労働契約が終了するのが法律上の原則です(民法第6271)。

 

しかし、雇用されて給与で生計を立てている労働者が、何の理由もなく解雇されてしまうと、生活ができなくなって困ってしまいます。そのような考えに基づき、使用者が労働者を解雇できるケースは、労働契約法16で制限されているのです。 

労働契約法16
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

わかりやすくいうと、客観的合理的理由」「社会通念上の相当性」2つの条件を満たしたときに、初めて解雇が相当だと認められるということです。 

勤務態度が悪い薬剤師を解雇できるか

では、冒頭で紹介したような職務態度が悪い薬剤師を解雇することはできるのでしょうか。まず、「客観的合理的理由」にあたるかどうか。これは、職務態度の悪さが軽微なものではなく、一般的にみて著しく悪いようなケースでは、「客観的合理的な理由」になると考えられます。次に、「社会通念上の相当性」があるかどうかです。社会的に見て「解雇することが労働者にとって苛酷ではないか」という観点から判断されることなり、これについては参考になる判例があります。

事案(最高裁判決 昭和52131日 労働判例26817頁)。
Xは、放送事業を営むY会社のアナウンサーであったが、担当する午前6時から始まる10分間の定時ラジオニュースにつき、2週間の間に2度寝過ごしたため、ニュースを全く放送できない、放送が5分間中断されるという放送事故を起こした。そして、Xは2度目の放送事故は直ちに上司に報告せず、事実と異なる事故報告書を提出した。そこで、Yは、Xの行為を理由に普通解雇をした。

上記の事案において、最高裁は、「被上告人に対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある」として、解雇を無効と判断しました。この事案を見てもらえればわかる通り、裁判所は解雇の適法性を厳格に判断しています。具体的には、解雇事由が軽微ではなく、会社に与える不利益が大きいなど重要な程度に達しており、解雇を回避する手段が他になく、労働者に有利な事由がない場合に、解雇の相当性が認められます。

解雇は簡単にできない

 以上のことからおわかりいただけたかと思いますが、労働者の解雇は簡単にできません遅刻を数回したとか、調剤ミスが数回あったという程度では、解雇はできないと考えられます。ただし仮に、その薬剤師が自分の意思で態度を改める気がないような場合には、解雇が認められやすくなるかもしれません。

 

また薬剤師は、専門職として高度の知識を持っていることを前提に採用しているわけですから、それに伴う能力や技術がない場合には、解雇を認める要素にはなりえます。しかし、教育訓練をして能力を向上させることを要求される場合もあり、解雇できないことも考えられるでしょう。さらにいうと、他の店舗への配転等が可能な場合は、対応することを求められるケースもあります。いずれにしても、解雇を適法にするのはケースバイケースであり、判断は容易ではありません。労働者を安易に解雇してしまったために、重大な紛争になることも考えられます。したがって会社としては、採用段階で慎重に判断することが必要することはもちろん、仮に実際に解雇をする場合には、弁護士などの専門家に事前に相談した上で、アドバイスを受けながら進めるべきでしょう。

 

なお、労働者を解雇する場合には30日以上前に予告するか、そうでなければ30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。あとでトラブルにならないよう、こうした点にも注意が必要です(労働基準法201)。

 

 

プロフィール

赤羽根 秀宣(あかばね ひでのり)
弁護士


昭和50年生。中外合同法律事務所所属。

薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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