2020.12.24
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審議終了!介護報酬改定で見えたものとは?!
~喜べない”+0.7%改定”の裏側~

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.3

 

編集部より

今、介護事業所の経営には、新型コロナウイルス感染症への対応と制度改正を見据えた長期的な戦略という2軸が求められています。

先が見通しにくい時代に、介護経営支援に携わってきた小濱介護経営事務所の代表、小濱道博さんが「先手必勝の介護経営」と題して、一歩先行く経営のヒントを1年間にわたってお伝えします。第3回は、先日審議が終了し、プラス改定で決着した介護報酬改定の解説と考察です。プラス改定といえども、増収獲得ののための道のりには多くの困難が設定されました。各介護施設は、人材確保と定着・職場環境改善・感染症対策委員会の開催や事業継続のための計画策定など多岐にわたる対応を迫られることとなります。「経営者は運営ではなく経営をしなければ生き残っていけない時代」が間もなく始まります。介護経営者たちよ、生き残れ!!

微増のプラス改定で終了した介護報酬改定審議

 

令和3年度介護報酬改定は、改定率が+0.7%と2期連続でのプラス改定となった。うち0.05%はコロナ禍対策として令和3年9月までの限定措置であるため、実質0.65%のプラス改定となる。しかし、近年の介護職の人件費の高騰を勘案するとそれに見合った改定とは言えず、介護事業者は厳しい事業運営を強いられる。

  

また、今回のプラス改定については、健保組合や経団連などから国民負担増について厳しい意見も出ており、いずれも介護事業者側の自助努力、革新を求めるものである。プラス改定は、40才以上が支払う介護保険料の更なる上昇をもたらし、家計や企業の負担が増える。また、利用者の自己負担による支払額も増えることになることも忘れてはならない。

 

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.2

 

 

介護事業者の2極化が進む懸念

 

プラス改定であることが、一律にすべての事業者の収入が増えると考える事も出来ない。令和3年度介護報酬改定は同じ介護サービスであっても、2極化が進む改定であるとも言えるからだ。

 

デイサービスを例に、その詳細をみていく。

1.上位区分設定に伴う算定変更

今回、入浴介助加算が機能訓練を主体とした上位区分が設けられ、既存の50単位の介護報酬単位は減額されることが決まった。

 

■個別機能訓練加算:実質的に区分Ⅰが廃止され、区分Ⅱに統合

■区分Ⅱの算定要件:専従の機能訓練指導員が直接、個別もしくは5人以下の小集団で機能訓練を行うこと

⇒ポイント集団体操などでは算定出来なくなる

  

また、類似の目標を持ち同様の訓練内容が設定された利用者の小集団であって、ただ利用者を5人毎の括りにしただけでは算定出来ない。これで個別機能訓練の算定を諦める事業所も出てくるであろう。

2.サービス提供体制強化加算にも上位区分が設定

デイサービスにおける区分算定要件は以下のようになった。

 

■区分Ⅰ:介護福祉士が70%以上(現在は50%以上)または勤続10年以上の介護福祉士が25%以上(現在は介護福祉士が50%以上)

■区分Ⅱ:介護福祉士が50%以上

※従来の区分の区分Ⅰ(ロ)、区分Ⅱ―Ⅲは区分Ⅲとなる

 

ここで問題となるのはその算定要件である。改めて確認したい。

CHECK

■従来の要件:勤続3年以上の介護職員が30%以上であること

■改定後の要件:勤続7年以上の介護職員が30%以上であること

つまり、改定後は勤続3年以上ではサービス提供体制強化加算が算定不可となる

 

①入浴介助加算の減額、

②個別機能訓練算定せず、

③サービス提供体制強化加算算定不可となった場合の減収は、以下の計算で予測できる。

CHECK

減収額=入浴介助加算の減額分+個別機能訓練Ⅰ(46単位)+サービス提供体制強化加算Ⅱ(6単位)の相当分

3.区分支給限度額の計算も変更

■有料老人ホームなどに併設されるなどして、同一建物減算の対象となっている場合

従来:同一建物減算を適用した後の報酬単位で限度額の計算を行う

改定後:減算を適用する前の報酬単位で限度額計算を行う

 

■大規模型ⅠまたはⅡを算定する通所サービス

改定後:限度額の計算においては、通常規模の介護報酬単位に置き換えて計算

例えば、同一建物減算の対象で、区分支給限度額の消化率が高い利用者の場合

⇒最大で同一建物減算10%相当分が限度超過

⇒サービス量を減らすことを余儀なくされる

※大規模事業所の利用者も同様

 

これらに該当する事業所は大きな減収となる可能性が高い。逆に、加算の上位区分を算定出来る事業所は、収入が大きく増加するであろう。これによって、同じサービスを営む事業所間の2極化が加速する。

 

  

 

感染症対策など全サービスへの義務化

 

加えて、すべてのサービスにおいて、以下の3点が義務化され、事業所側の事務負担も大幅に増加することが予想される。

いずれも3年間の経過措置が設けられているが、早急な対応をすべきだろう。

 

①感染症対策員会の開催:指針整備、指針に基づく職員研修・訓練(シミュレーション)

②事業継続のための計画策定(BCPなど):指針整備、指針に基づく職員研修・訓練(シミュレーション)

③虐待防止委員会の開催:指針整備、職員研修、専任担当者の配置

CHECK

この中で注目すべきは、事業継続のための計画の策定(BCPなど)である。BCPは中小企業庁が主導で進めている事業継続計画である。地震や台風などの自然災害によって事業活動を行う電力・ガス・水道・インターネット等のインフラ環境や施設設備が損傷することになっても、早期に回復ができるように対策をまとめた計画書やマニュアルを指す。事業継続力強化計画として認定制度も設けられ、認定後の優遇制度もある。

今回の改定で、どこまでのレベルが求められるかは、今後のQ&Aなどを待たなければならない。しかし、インターネット等で簡単にコピペ出来るものではないのは確かだ。その地域特性や事業内容、利用者層、経営理念などが基本となって個別に作る必要がある。介護事業経営に、しっかりとしたマネジメントが求められている。経営者は、運営ではなく、経営をしなければ生き残っていけない時代となった。

 

  

 

働きやすさと定着率向上の職場環境の改善策

 

職場環境の整備では、働きやすさ、定着率アップなどを目的に、新たな措置が設けられた。

 

■常勤配置が求められる職種の職員が出産・育児で一定期間の休職をする場合

⇒その期間の代替職員は非常勤職員の配置を認め

⇒その職員が復職後の一定期間、週30時間の勤務で常勤扱いとする

 

■介護職員処遇改善加算の算定要件で、職場環境等要件については、過去に実施したものではなく、当該年度に実施することを求める

⇒要件達成のためには、以下を含む、定着率アップのための取り組みが必要となる。

①キャリアアップ体制

②メンタルヘルス

③ストレスケアなどの対策

④モチベーションアップ

⑤コミュニケーション促進

 

また、ハラスメント対策を就業規則などで定めることが義務化される。

 

今回の介護報酬改定は、働きやすさと定着率向上の職場環境の改善策にも力の入った改定となっている。

 

 

※次回は2021年1月中旬公開の予定です。

Profile

小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所 代表/C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問/C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

日本全国対応で介護経営支援を手がける。介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。昨年も、のべ2万人以上の介護事業者を動員した。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。 
■著書
「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」(第一法規) 
「これならわかる <スッキリ図解> 実地指導」(翔泳社)
「まったく新しい介護保険外サービスのススメ」(翔泳社)
「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」(日本医療企画) 他多数
■定期連載
「日経ヘルスケア」「月刊シニアビジネスマーケット」「Visionと戦略」他

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