2019.11.27
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突出した人をバッシングで潰さない世の中に

引き寄せる脳 遠ざける脳【脳科学者・中野信子】第2回

「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質・オキシトシンにフィーチャーした最新刊『引き寄せる脳 遠ざける脳—「幸せホルモン」を味方につける3つの法則』が話題の脳科学者・中野信子さん。
そのオキシトシンには、ポジティブな側面とネガティブな側面があるそうです。そのネガティブな側面が出て、「国家百年の計を立てられる人」を排除してしまうことを防ぎ、多くの人でそれらの人を支えていくことが、これからの日本を変えていくかもしれないと語ります。
本書からの一節を抜粋し、3回に分けてお届けするシリーズの2回目です。
 
構成/岩川悟(slipstream) 写真/佐藤克秋

引き寄せる脳 遠ざける脳【脳科学者・中野信子】 突出した人をバッシングで潰さない世の中に(第2回)

 

利他的な行動は気持ちいい

なぜ、人は自分の貴重な時間や体力といったリソースを使って、自分ではない他人のために、わざわざ面倒な行動を起こすことがあるのでしょうか?

 

本来であれば、自分にとっても気分のいいものではないのに、それを「気持ちいい」と感じる仕組みが、ほぼすべての人に備わっているのは不思議ではありませんか? たとえば、ボランティアをはじめ、人の役に立つことをすることに気持ち良さを感じることもあるでしょう。このような「利他的行動」は、損得でいえば圧倒的に損なはずです。でも、なぜか自分のリソースを使って、見ず知らずの人のために行動します。

 

引き寄せる脳 遠ざける脳【脳科学者・中野信子】 突出した人をバッシングで潰さない世の中に(第2回)画像1

 

なぜなら、気持ちいいから。

でも、なぜ気持ちいいのか?

脳の仕組みがそうなっているから。

 

では、なぜそんな仕組みが脳に備わっているのか? 答えは、そんな仕組みがあるほうが「生存確率」が高くなるからです。

 

自己犠牲であるにも拘わらず、自分が損をする行動を取ったほうが生き延びるのに有利だったということです。ここでいう、生き延びるというのは、個体として生き延びるのではなく、種として生き延びるということ。そういうなかで、「いいやつ」だと思われたいという気持ちを利用して、人類という生物種は生き延びてきたのです。

 

だからこそ、人間にとって利他的な行動はとても気持ち良くなくてはならないのです。

 

「百年の計」を立てられる人を活かせるか

引き寄せる脳 遠ざける脳【脳科学者・中野信子】 突出した人をバッシングで潰さない世の中に(第2回)画像2

 

ただ、利他的行動のなかには、自分の行いが「いつの日か多くの人に役立つだろう」と考えてするものもあります。

 

どのくらい遠くの他者を思えるのか。

どのくらい遠くの未来を見据えるのか。

 

そのように配慮できる心の尺度を「配慮範囲」といいますが、世の中には広い関係軸と時間軸を持って、後世のために利他的な行動をする人がいます。

 

そんな人のことを、通俗的な言い回しでは「国家百年の計を立てられる人」と表現します。明治〜大正時代に第一国立銀行や王子製紙をはじめ、500を超える会社の設立に関与した実業家の渋沢栄一は、まさにそうした人だったのでしょう。

 

日本は欧米に比べて中産階級の厚みが大きいのですが、資本主義国のなかでは、むしろ日本は例外的な国といえます。資本主義が進んでいった果てには、ごくわずかな大富豪と大多数の貧民という極端な経済格差が生まれやすいのです。実際に韓国などではかなり格差が大きいですし、アメリカでも所得上位1%が、国家の富の約40%を独占しているとされています。

 

しかし日本では、2000年代初頭の小泉改革で新自由主義的(※)な政策を積極的に導入して以来、格差は広がりつつありますが、資産が10億ドルを超えるようなビリオネアは少なく、いまだ中間層に厚みがある社会です。

 

そんな国であるのは、もしかしたら2024年度の1万円札の図柄にもなる、渋沢栄一の功績なのかもしれません。なぜなら、明治のころに、何者でもない個人が有利な金利でお金を借りられる仕組みをはじめ社会の雛形をつくっておいたので、その後の日本が格差の激しい国にならずに済んだという背景もあるからです。

 

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