2019.07.30
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サービス担当者会議
<アルツハイマー型認知症の利用者の場合>

多職種連携ものがたり vol.2【前編】

在宅医療をはじめ、チーム医療を円滑に進めるために、多職種連携は欠かせないものとなっています。しかし、「連携」と一言で言っても、職場も職種も対象者への視点も異なる人たちがどのように連携をはかり、ケア実践へとつなげているかはケースによって様々です。日々開催される多種多様な会議の中で、各医療職者および利用者・家族との間でどのようなやりとりが繰り広げられているのか、また会議の雰囲気、その後の連携方法について、詳細を知る機会は多くありません。本連載では、多職種連携の実情について、さまざまなケースを紹介し、リアルな姿に迫ります。
 
取材・撮影・編集/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

 

 多職種連携ものがたりvol.2では、アルツハイマー型認知症の利用者の方のサービス担当者会議を2回に分けて紹介します。介護認定更新によって要介護度が「要介護2」から「要介護4」に変更し、今後の介護サービス利用の検討を主旨として会議が開催されました。今回は、週1回の訪問看護の時間に合わせて各医療職者が集まっています。訪問看護介入後のサービス担当者会議は2回目です。会議中、予想外の事態が待っていました。

【ケース紹介】

◆利用者:Bさん 女性 70歳代

◆疾患:アルツハイマー型認知症

◆参加者:Bさん、ご主人、ケアマネジャー、訪問看護師、デイサービス担当者、ショートステイ担当者

◆利用サービス:デイサービス3日/週、ショートステイ5日/月、訪問看護1日/週

        (訪問看護は5月から利用/他サービスは数年前から利用)

◆開催場所:Bさん自宅

◆会議時間:1時間15分

◆会議開催の主旨:介護認定更新で、要介護度が「要介護2」から「要介護4」に変更したため

  

進行する病状の対応に苦悩する家族・医療職者たち

日当たりがよく、たくさんの書籍に囲まれた2階の洋室に6名の参加者が集まり、全員が自己紹介を終えたところで、ご主人がBさんの最近の様子について話し始めました。Bさんには訪問看護師が寄り添っています。

  

ご主人:相変わらず1日を通して動き続けています。今の心配ごとはやっぱり排尿・排便のケアかな。睡眠については、夜11時過ぎに寝て、朝6~7時に起きるので、薬のおかげもあってそれなりに眠れていると思います。最近は、だんだん認知症の症状がひどくなってきていて、じっとしていられず、手を離すとどこかに行ってしまうので、手を握りながら何かをやるのが大変ですね。

 

ケアマネジャー(以下、ケアマネ):ありがとうございます。デイサービスでの様子はどうですか?

 

デイサービス担当者(以下、デイ担当者):歩行状態が以前より悪くなってきており、前傾姿勢で歩いていることが多いです。その姿勢のままガラス戸にぶつかってしまうと危険なので、カーテンを閉めて対応しています。また、転倒リスクも高いのでスタッフ1人が常時付き添っています。排泄は、入浴前・食事前等のタイミングで2~3時間ごとに声掛けし、時間はかかるものの実施できることが多いです。また、テーブルの角に緩衝材として張ってあるクッション材や、新聞紙をボール状に丸めたものを口にする「異食」が多くみられるので注意しています。入浴は衣服の着脱に時間がかかりますが、ご本人のペースを守りながら対応しています。

 

ケアマネ:ショートステイ担当者が次の予定があるので先に情報共有をお願いします。

 

ショートステイ担当者(以下、ショート担当者):前々回利用時、前傾姿勢でずっと歩行していましたが安定していたので、転倒の心配はあまりしていませんでした。しかし前回は、来所時からフラフラで、でも「立ちたい」「歩きたい」という気持ちが強く、対応が難しくなっていました。1日中座ったり立ったりが続くので、夕方には足元がフラフラで、それでも歩きたい気持ちは変わりませんから、常に誰か付き添う状況でした。

 

ご主人:それは主治医から「薬の副作用でしょう」という説明があったので、最近は飲ませていないんですね。私から見ると、前傾が少し改善したかなと思います。前回のショートステイは、ちょうど38℃の発熱があった時期だったので、確かにその時はフラフラでした。

 

ケアマネ:それも重なって余計にフラフラしたのかもしれませんね。今は上体は起きていて、首だけ曲がっている状況ですものね。ショートステイの6月申し込みはしていますが、受け入れ準備はどうですか?

 

ショート担当者:先ほどデイサービスでの様子も伺いましたが、今お伝えした通り、付きっきりでないとみられない状況になっているように思います。前回は24時間スタッフ1人が付き添いました。夜間帯は2人勤務ですが、夜11時に寝るまで付きっきりで、他のどなたかを介助しなければならなくなった際、その場に「行けない」という状況が発生しました。朝、最も忙しい起床介助の時間も、Bさんはすでに起きていらっしゃるので、スタッフが一緒に連れて介助にあたっており、非常にリスクが高かったです。次回も同じような状況が続くのであればご利用は難しいですね。職員が1人とられてしまうので、日中はなんとかやりくりできても、夜間帯は難しくて……。

 

ケアマネ:本当にそうですよね。次回の利用日が間もなくですが、そこはどうでしょう?

 

ショート担当者:前回のご利用後にケアマネジャーにもお話ししましたが、おそらくその時と同じ対応をすることになると思うので、受け入れは難しいです。施設としては安全管理が最優先ですので、Bさんの対応ができたとしても、他の方に影響を及ぼす可能性が非常に高くなってしまいます。事故が発生する状況は絶対に避けなければなりません。

  

会議前に情報を確認するBさん担当訪問看護師の石田さん

 

え……4日後に予約しているショートステイが利用できない!?

何やら雲行きが怪しくなり、4日後のショートステイの利用ができない可能性が出てきました。訪問時笑顔で出迎えてくださったご主人の表情が一変して険しくなっています。Bさんも空気の変化を察したのか、落ち着きがなくなり立ったり座ったりし始めました。一体何が起こったのでしょうか? 連携の難しさ・コミュニケーションの重要性がわかる場面です。

  

ケアマネ:今お話を聞いたところ、6月のショートステイ利用は難しい状況なのですが……。

 

ご主人:え? 6月はもう連絡きていますけど。

 

ケアマネ:きていますが、前回と同じような対応をしなければならないとなると、施設側としては難しいと。

 

ご主人:だって、昨日送迎時間の電話連絡がきましたよ。

 

ショート担当者:ご予約は入れていただいているので、送迎の予定を組んでご連絡しました。前回ご利用後もケアマネさんにお話ししたのですが、前回は今までと同じような状態だと伺ったので受け入れましたが、実際は大きく変化しており、事故を起こさないように必死でした。当施設では30名のショートステイを受け入れており、皆さんの安全を確保しなければなりませんから、前回と同じ対応ができないのが現実です。最近の自宅やデイサービスでの状態をうかがった上で判断させていただきたいということは以前からケアマネさんにお伝えしていたんです。

 

ケアマネ:ショートステイの利用を4泊5日でお願いしていますが、少し期間を短くしても難しいですか?

 

ショート担当者:施設管理者としては、絶対に事故を起こせないので、前回と同じような状況になってしまうのであれば、1日を通してリスクが高いと思っています。6月もスタッフ1人が常時付き添うと、他の利用者の介助ができない状況になり、Bさんと他の利用者さんの安全が確保できなくなってしまいます。

 

ケアマネ:期間を短くしても難しいですか?

 

ショート担当者:私もできることなら受け入れたい気持ちですが、人の命を預かる以上「ケガしてしまいました、すみません」では済まないので、「難しい」という答えを出させていただきました。

 

ケアマネ:ご主人、この期間に何か予定はしていますか?

 

ご主人:もちろんしています。普段妻を連れて出かけられないので、その期間を利用して買い物に行ったり、いろいろな用事を済ませたりする時間に充てています。私自身の健康の問題もありますし。利用できないならもうあとは心中するしかなくなります。

 

ケアマネ:今回は別の施設を利用してみるというのはどうでしょう?

 

ご主人:どういうことですか? 昨日は送迎の連絡があったのに、今日になってキャンセルということですか?

 

ケアマネ:そういうことです……。

 

ショート担当者:施設から送迎の連絡をしたことについては申し訳ないのですが、ケアマネさんには「前回と同じ状況では受け入れが難しい」とずっとお伝えしていたんですが……。

 

ケアマネ:私のところには6月の利用予定がきています。7月はまだですね。

 

ショート担当者:6月に受け入れができてご本人の状態が安定していると確認できれば7月も受け入れようと考えていました。今日お話を伺って、前回と同じような対応をしなければならないという状況では、心苦しいですが難しいです。

 

ケアマネ:6月も難しいと……6月はなんとか受けてくださるのかなと考えていました。

 

ショート担当者:いや、でもお伝えしたじゃないですか。前々回の時も前回も、利用中も退所の時もお伝えしました。

  

ケアマネ:でもそちらが送迎の時間の連絡をしましたよね。

 

ショート担当者:それは申し訳なかったんですが、でもケアマネさんに「今回確認させていただいた上で」ということは伝えていました。施設としても安易に受け入れることはできないんです。

 

ケアマネ:受け入れ期間を短くしても難しいですか? 私も施設勤務をしていたので、施設側のお気持ちや実情はよくわかるんですが、ご主人のところに送迎の連絡をしたということであれば、少し期間を短くしてでも対応していただくことは難しいですか?

 

ご主人:自宅でも1日中対応に追われていますから、事情はよくわかります。ただ、家ではもう私の体がもたないので、デイサービスやショートステイをお願いしているわけです。6月の予定も昨日の段階で連絡きているので、そのつもりで予定を考えているのに、それが急になくなったら路頭に迷ってしまいます。

 

ショート担当者:少なくとも予定通り受け入れることは難しいです。本来であれば状態に合わせて寄り添ってご本人に合った介助ができればと思いますが、Bさんの状態が変わってしまった以上、当施設の介護力では難しいのが現状です。申し訳ありません。

 

ケアマネ:わかりました。それでは私が他の施設を探します。 

 

ご主人:それだったら、前回の時に様子わかっているんだから、その段階で言ってもらわないと。

 

ケアマネ:私は聞いていました。ですが、今日のご様子を見てそれで判断するというお話だったので……。私もちゃんと伝えられなかったことについては申し訳なかったです。

 

ご主人:そうですね。一番ひっかかるのは昨日連絡を受けて、一夜でひっくり返ったことですよ。

 

ケアマネ:あまり日にちがないので急いで入れるところを探して利用できるように調整します。

 

   

ご主人の納得できない気持ち、ショートステイ担当者の切実な現場事情、そして両者に挟まれたケアマネジャー。これまで築かれた3者の信頼関係が崩れかねない、そんな暗雲たちこめた空気が漂っていました。

 

後編に続く

 

【協力施設】

株式会社みゆき  せたがや訪問看護ステーション


154-0017 東京都世田谷区世田谷3-3-3 グランドステータス世田谷2階

TEL 03-6413-7393

管理者:松井知子

在籍看護師12名(内1名は家族支援CNS)

ターミナル・小児の利用者を積極的に受け入れている

URL:http://setagayast.com/index.html

 元同僚が育てていたポトスと手作りの人形がステーションを見守る

 

スタッフの皆さん/前列右から2人目が管理者の松井知子さん

 

 

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