2020.05.27
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ニューヨークの”父”と”母” 
~一時帰国の困難を乗り越え“両親”に誓う成長~

「看護×学び」で現場教育を変える! vol.8

人が学び・育つ過程において、ロールモデルの存在や家族・友人からのサポートは大切な要素となります。自分のキャリアを考える上で、影響を受けたという方も少なくないでしょう。寺本さんも例外ではなく、留学前に知り合った女性の存在が、留学生活を語る上で不可欠なものとなっているといいます。今回は、看護師のロールモデルとして、また、見知らぬ土地で支えてくれる日本人として、寺本さんの今後の成長にも大きなきっかけを与えてくれそうな、素敵なご縁のお話をお届けします。

執筆・写真/寺本 美欧(Teachers College, Columbia University)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

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ようやく春学期も終わり、長い夏休みに突入しました。春学期の後半はオンラインでの授業でしたが、無事に修士課程1年目を終えることができてほっとしています。「コロナのせいで」と落ち込んでいた日々でしたが、ようやく前向きに「コロナのおかげで」と思えることを増やそうと思うようになりました。そんな私を、いつでも遠いニューヨークから支えてくれているのは、ニューヨークの「父と母」。私の留学生活に欠くこのできない大切な2人です。

 

昨年の8月末、ニューヨークのJFK空港に降りたった私を待っていたのは1組の夫婦でした。「Welcome!」 と満面の笑みで出迎えてくれ、ホテルまで車で送ってもらったことを鮮明に覚えています。「よろしくお願いします」とこの時はまだ緊張でいっぱいでした。恥ずかしながら今回の留学を機に初めて実家を出た私は、人生初の1人暮らしがニューヨークとなり、家事はできるかな、部屋に虫がでたらどうしよう、困ったときは誰に頼ればいいのだろう、とぐるぐると不安のループの渦中にいました。そんなガチガチに固まっていた私の緊張をそっとほどいてくれたのは、まぎれもなく「ニューヨークの父と母」です。

 

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渡米した初日に撮った3人での初めての写真 

  

◆偶然が呼び寄せた「ニューヨークの母」との出会い

そもそもの出会いは渡米直前、偶然読んでいた看護系雑誌の巻頭記事「米国看護教育の改革 : コンセプト・ベースド・カリキュラム」を読んだことがきっかけでした。調べてみると、私が通うコロンビア大学から徒歩圏内の病院、しかも「恵子さん」という日本人女性看護師が執筆されているとわかり、勢いに身を任せ、記載してあった連絡先にメールを送ったことが、後に「母」となる恵子さんと私の出会いです。

  

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「飛行機の便を教えてください、夫と空港に迎えに行きます」と渡米前に連絡がきたものの、見ず知らずの私にどうしてこんなにも親切にしてくれるのだろうと、頼っていいのか迷いもありました。しかし、恵子さんは繰り返しこう言うのです。「わたしも、単身ニューヨークに来て、このお金がつきたら帰ろうと思っていたの。でも、本当にいろんな人に支えてもらって、繋いでもらって、今こうして残ることができている」と。

 

1人暮らしが始まってすぐ、環境の変化によるストレスから体調を崩してしまいました。どこの病院へ行けばいいかわからない、ドラッグストアに行くべきなのかもわからず途方にくれて恵子さんに電話をすると、仕事を終えてすぐにご夫婦で寮に寄ってくれました。顔を見てほっとした瞬間に涙が止まらず、「2人の前では絶対に我慢しないようにしよう、思いっきり甘えていいんだ」と思いました。その時から私にとっての「父と母」という存在に変わったように思います。恵子さんがニューヨークで受け取ったたくさんの愛情を、今度は私にたっぷり注いでくれていることが日々感じられました。

 

近所のレストランでランチをしながら看護の将来について話したり、恵子さんの仕事や私の学生生活の話など、いつも会う度にあっという間に時間が経ってしまいます。恵子さんは私の「母」であると同時に、看護師としてのロールモデル、人生の先輩としてのメンターでもあります。恵子さんの看護に対する信念と誇りは、私の目指したい目標そのものです。「日本の看護教育をより良くしたい」という共通した思いがある私たちは、母娘のような関係であると同時に「同志のパートナーだね」と話しています。

 

  

◆落ち込んだときの処方箋は「ニューヨークの父」とのブランチデート

私にとって「ニューヨークの父」である恵子さんの旦那様は、会うたびに大きな身体でギューっと抱きしめてくれます。学生にとって命の次に大切なパソコンが壊れて泣きながら電話をすると、すぐに車で修理屋さんへ連れて行ってくれ、修理の待ち時間にはベーグルを一緒に食べて寄り添ってくれたり。また、「将来が見えなくてどうしていいかわからない」と落ち込んでいるときには、「ブランチに行こう!」と言って「思いっきり食べなさい」と顔の大きさほどもあるハンバーガーをごちそうしてくれたり。美味しいごはんとニューヨークの父の温もりがあれば、帰る頃にはケラケラ笑うほど嘘のように心が回復しています。さらに、帰り際には1人暮らしでは到底食べきれないほどのフルーツを私に持たせ、「フルーツは体にいいからしっかり食べなさい!」と言ってくれ、「こんなに食べきれないよ」と笑いながら受け取る、ここまでが毎回のブランチデートコースです。ニューヨーカーがブランチ好きな理由、それは大好きな人と美味しいごはんを食べ、1日の始まりがぱっと明るくなるからだと思いました。

 

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ニューヨークの父と。今度会うときは卓球の真剣勝負をしようと約束しています。

  

◆支えられて気付く「ひとりぼっち」でないこと

ふと寂しいなと寮のベッドで横になっていると、まるで心を読み取られているように「美欧さん、来週ジャズに行きませんか?」と連絡をいただくので毎回タイミングに驚きます。同級生の多くが帰省し、留学生にとって孤独な日となるThanks giving day(感謝祭)には恵子さんご夫婦の友人宅に招かれて一緒に過ごし、クリスマス前にはご夫婦が通う教会でパイプオルガンと聖歌隊によるコンサートを一緒に楽しみました。

   

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教会のクリスマスコンサート。参加型のコンサートで、全員で賛美歌やクリスマスソングを合唱した素敵な時間でした。

 

挙げればキリがないほど、たくさんのイベントに連れ出してくれます。気づけば、「ひとりぼっち」じゃない自分がいて、私の隣には2人がいて、あたたかい思い出ばかりです。「いつでも頼ってね」「ひとりぼっちじゃないですからね」と何度も何度も支えてもらいました。

  

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で一時帰国の決断を余儀なくされたときも、「美欧さんは転んでもただでは起き上がらないから、どれだけ成長しているか楽しみに待っています」という恵子さんからのメッセージが、その後春学期を乗り越える心の支えになりました。離れている間に一回りも二回りも成長してニューヨークで元気に再会すること、それが最大の親孝行かもしれません。

 

 

     

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プロフィール

寺本美欧(てらもと・みお)
看護師、大学院生。上智大学総合人間科学部看護学科卒業後、都内大学病院ICU病棟に就職。その後、埼玉県の地域密着型病院脳卒中センターへ転職。2019年9月よりアメリカ・NY州にあるコロンビア大学教育大学院の修士課程に在学中。専攻は成人教育学とリーダーシップ。「すべての看護師に最高の教育の場を」をモットーに、看護師の継続教育のシステム構築を目指す。海外大学院留学記ブログ「看護師ちゅおのアメリカ大学院留学記」日々更新中。

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