2019.08.01
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サービス担当者会議
<アルツハイマー型認知症の利用者の場合>

多職種連携ものがたり vol.2【後編】

在宅医療をはじめ、チーム医療を円滑に進めるために、多職種連携は欠かせないものとなっています。しかし、「連携」と一言で言っても、職場も職種も対象者への視点も異なる人たちがどのように連携をはかり、ケア実践へとつなげているかはケースによって様々です。日々開催される多種多様な会議の中で、各医療職者および利用者・家族との間でどのようなやりとりが繰り広げられているのか、また会議の雰囲気、その後の連携方法について、詳細を知る機会は多くありません。本連載では、多職種連携の実情について、さまざまなケースを紹介し、リアルな姿に迫ります。

取材・撮影・編集/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

 

前編に続き、多職種連携ものがたりvol.2、アルツハイマー型認知症の利用者の方のサービス担当者会議をお届けします。

 

2人いれば始まる情報共有

よどんだ空気の中、次の予定があるショートステイ担当者がひと足先にBさん宅を後にします。見送るご主人とケアマネジャーの3人が玄関先で話をしている間、2階では会議でしか会う機会のない、デイサービス担当者と訪問看護師が情報共有を始めました。Bさんは訪問看護師と手をつなぎ、室内を歩いたりソファに座ったりしています。

  

デイサービス担当者(以下、デイ担当者):訪問看護でうまく排便コントロールできていますか?

 

訪問看護師:週1回の訪問に排便のタイミングを合わせることはなかなか難しいのですが、あまりためすぎず習慣になればと考えています。今までは1週間いつ出るのか気が気でなく、ご主人の休まる時がなかったので、訪問看護をきっかけに1~2日で出てくれるならご主人の負担が軽くなりますかね。先ほどご主人から「排尿回数が少ない」と伺ったのですがデイサービスではどうですか?

 

デイ担当者:少ないですね。色も濃いし、水分が足りていないんでしょうか?

 

訪問看護師:トイレに座っても出ないこともありますか?

 

デイ担当者:あります。根気よく待っているんですけどね。

 

訪問看護師:2~3時間ごとに座る感じですか?

 

デイ担当者:そうですね。

 

訪問看護師:もう少し水分をとれたらと思うんですけど、逆に多すぎると夜眠れなくなってしまうので。朝起きた時に水分をしっかりとってもらえるようなサイクルにしたいなと考えています。今日栄養剤のサンプルをお持ちしたので、それを飲んで栄養状態も良くなればと思っています。

 

デイ担当者:今日はとても穏やかに座っていらっしゃいますね。デイサービスではなかなか座っていられなくて……。

 

訪問看護師:訪問中は、食事の時間も比較的座っていられることが多いですね。

 

デイ担当者:やっぱりご自宅だからですかね。

 

訪問看護師:それはあるでしょうね。

 

デイ担当者:お家では落ち着かれていますもんね。

   

4月にせたがや訪問看護ステーションに就職し、今回会議の独り立ちをした訪問看護師の石田さん

  

訪問看護介入による効果

ショートステイ担当者を見送ったご主人とケアマネジャーが2階に戻り、会議が再開されました。Bさんは時折立ったり座ったりしながらも徐々に落ち着きを取り戻し、訪問看護師と歌を歌いご主人が戻るのを待っていました。予定時間をだいぶおして、最後に訪問看護の様子が共有されます。

  

ケアマネジャー(以下、ケアマネ)お待たせしました。5月から訪問看護に入っていただいていますが、様子はいかがですか?

 

訪問看護師:まず排便コントロールについてですが、ご主人とこまめに連絡をとり前日の状況をみながら対応しているものの、私の訪問中には出せていないのが現状です。訪問前日に下剤を内服していただいているので、ある程度便が下りてきているのですが、ここ2週間は私が帰った後に出ています。1週間分たまっている上に水分が少なくて硬いので、ご本人も大変ですし私も大変です。今日は私が来る前に3回出ているので、少しずつ習慣づいてくるといいと思っていますが、まだ探りながらの状況ではあります。訪問翌日にもご主人に電話して、排便状況の確認をしています。「木曜日はお通じを出す日」として刺激を与えながら出てくれればと思っています。

 

 水分に関しては、ゴクゴクと3~4杯飲める時もあれば、難しい時もあるので、合間にトイレに行ったりお食事を食べていただいたりして、また水分摂取、というように1時間の訪問で排便と水分・食事摂取両面のケアをしています。今後栄養状態が悪くなることも考えて、先ほど栄養剤の試供品を試したところ1本全部(200ml)飲めたので、今後うまく取り入れていければと思います。

 

ケアマネ:それでは、Bさんの今後についてですが、昨日小規模多機能施設の相談員に面談に来ていただき、ご主人と私と3人で話した結果、そちらにお願いすることになりました。早ければ1カ月後から利用できる予定です。それに伴って利用サービス全般、およびケアマネも先方に移行します。ただ、先方の希望もあり、訪問看護は週1回引き続きせたがや訪問看護ステーションさんにお願いできればと思っていますがいかがですか?

 

訪問看護師:こちらは大丈夫ですので予定しておきます。

 

ケアマネ:デイサービスもそれまでの間よろしくお願いします。

 

ご主人:大変だと思いますけど、新しいところが決まるまではよろしくお願いします。

 

ケアマネ:ショートステイの利用日程がずれた場合、デイサービスの利用をお願いすることはできますか?

 

デイ担当者:大丈夫です。決まり次第連絡下さい。今日はここ1ヵ月のバイタルサイン表を持ってきたので、どうぞご覧ください。

 

ケアマネ:ありがとうございます。近々訪問美容の利用も予定しています。6月中は今のサービスを継続ということで皆さんよろしくお願いします。ありがとうございました。

   

訪問看護ステーション内では利用者さんの情報共有が積極的に行われています

   

<訪問看護師・石田和子さんのコメント>

今回のサービス担当者会を振り返ると、会そのものは関連部署のスタッフが顔を合わせて会話する担当者会の重要性を痛感する結果となり、また、私自身は利用者の新たな一面をみる機会となりました。会の雲行きが悪くなると共に、認知症である利用者の顔から笑顔がなくなり、自ら席を立ちました。私は彼女に付き添い部屋を歩いていると、小声で「ごめんなさいね」という言葉が発せられました。続けて私が「大丈夫ですよ」と伝えると、ずっと繋いでいた手をさすりながら「大丈夫?ありがとう」と。彼女は話の詳細は分からなくても、会の雰囲気から自分の話をしているのだと感じこの発言となったように思います。利用者やその家族にとって良くない内容を話す場合、精神的な配慮を行うべく事前の準備をするべきであったと振り返りました。

 

<管理者・松井知子さんのコメント>

5月中旬の初回訪問時、最初のサービス担当者会議があり、今回が2回目でした。初回のサービス担当者会議の時はデイサービスの方が参加されて、最近の本人の行動の様子で「見守りも大変」と発言がありました。デイや入所施設では、家のように1対1の対応が難しいことも十分理解できます。家族の疲労も蓄積していく中で、デイサービスやショートステイの利用は唯一家族がホッっと出来る時間でもあります。今後もこのような事例はあると思うので、各部署が情報を共有し、早めに対処できるようにしていくことが大切であると新ためて感じました。

<取材を終えて>

 穏やかな雰囲気の中始まった会議でしたが、このような展開になるとは誰も予想していなかったでしょう。普段はとても温厚で優しいご主人に「心中するしかない」と言わせてしまったことが、とても切なく感じられました。ご主人が毎日必死にBさんのケアをしているかわかる一方、それに伴う負担がかなり大きくなっていることもこの一言からみてとれます。

 このケースの問題点はケアマネとショートステイ担当者の認識のズレにある考えました。

  1.ショートステイ担当者が「受け入れられない」ことを「受け入れが難しい」という曖昧な表現をした

   ➡ ケアマネに「受け入れられない」と事前に的確に伝える必要があった

  2.ショートステイ担当者の「受け入れが難しい」を「なんとか受け入れてくれる」と解釈した

   ➡ 「サービス担当者会議で様子を聞いて6月の受け入れを判断する」とケアマネは事前に聞いていたので

     「受け入れられない」と判断された場合の対応策を用意した上で会議に臨む必要があった

 多職種連携では、各関係者が日常的にやりとりすることが多くないため、一つひとつのコミュニケーション機会を大切にしなければならないことを改めて感じました。利用者と家族、多職種が一堂に会して情報共有・意見交換するこの会をきっかけによい方向に進むはずが、事前の準備次第では利用者と家族のその後を左右させてしまう可能性もあります。

 

 今回の会議は、コミュニケーション不足が垣間見えるケースとなりましたが、連携の難しさについて、石田さんはある利用者さんを挙げ、話してくれました。「認知症初期で1人暮らしをしている女性を週1回訪問しています。他に介護ヘルパーを利用していますが、現在の情報のやりとりは連絡ノートのみです。症状はゆっくりゆっくり進行していきますから、何かが突然できなくなるわけではなく、少しの"?"という変化が積み重なっていくわけです。それを訪問看護師が感じとり、多職種で共有することでこの方の将来を予測できたり、方向性を考えたりすることが可能になります。ですから、そのちょっとした"?"を伝えられるツールがほしいと日々感じています。まだこの方のケアマネジャーと会ったことがないのですが、この利用者さんができるだけ長く住み慣れた自宅で生活できるよう、機会を待って情報共有や提案ができればと思っています」。このような想いを会議や連絡調整等の機会を活用して各職種が共有し、利用者さんのケアにつなげていくためにも、多職種連携は大きな役割を担っています。

【協力施設】

株式会社みゆき  せたがや訪問看護ステーション


154-0017 東京都世田谷区世田谷3-3-3 グランドステータス世田谷2階

TEL 03-6413-7393

管理者:松井知子

在籍看護師12名(内1名は家族支援CNS)

ターミナル・小児の利用者を積極的に受け入れている

URL:http://setagayast.com/index.html

元同僚が育てていたポトスと手作りの人形がステーションを見守る

 

スタッフの皆さん/前列右から2人目が管理者の松井知子さん

 

  
取材・編集/メディカルサポネット編集部

(取材日:2019年5月30日)

 

 

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