2020.11.18
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介護報酬大改定をめぐる攻防
~見直される”加算”と”人員配置基準”~

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.2

 

編集部より

今、介護事業所の経営には、新型コロナウイルス感染症への対応と制度改正を見据えた長期的な戦略という2軸が求められています。

先が見通しにくい時代に、介護経営支援に携わってきた小濱介護経営事務所の代表、小濱道博さんが「先手必勝の介護経営」と題して、一歩先行く経営のヒントを1年間にわたってお伝えします。第2回は、来年4月の改定を前に、議論が進む介護報酬改定会議での審議のポイントについて解説いただきます。報酬アップが期待される一方で、その実現は厳しい状況にあると予測されているようです。2024年は、診療報酬と介護報酬の同時改定が予定されており、そこでは「大転換の厳しい改定」が実施される見込みであることから、来年度の介護報酬改定はそのプロローグとしてしっかりと自施設で把握する必要性がありそうです。コラム後半では11月16日の審議会で議論された最新の情報を掲載しています。介護施設経営者・管理者必見です!

介護報酬改定での財政制度分科会の立ち位置

 

介護業界からは、コロナ禍の影響も大きいことから、大幅なプラス改定を期待する声が日増しに大きくなっている。しかし、大きなプラス改定は難しく、良くても1%程度の改定になると思われる。政府の予測では、コロナ禍の影響は遅くても来年の夏場以降にはワクチンが許認可されて、終息するとされている。しかし、介護報酬を引き上げた場合の影響は、コロナの終息以降も継続する。そのため、コロナ禍対策は特例措置で対応して、介護報酬は現実路線で行くと考えるのが自然だ。

 

財務省は、11月2日の財政制度分科会において、「令和3年度介護報酬改定についてはコロナ禍が国民生活にもたらしている影響を考えると、令和3年4月から更なる国民負担増を生じさせる環境にはない」と、報酬の引き上げムードにくさびを刺している。さらに、10月30日に出された介護事業経営実態調査結果で、収支差率が前回平成30年度改定でプラス改定であるにも関わらず、2.4%と平成29年度調査から0.9%のマイナスとなっている点についても、「介護施設・事業所の経営状況は同じく中小企業と同程度の水準であって、特別損失である「事業所から本部への繰入」を除いた収支差率で見ると介護施設・事業所の収益率は更に上昇するのだから、少なくとも介護報酬のプラス改定(国民負担増)をすべき事情は見出せない」とした。

 

財務省の厳しい指摘は例年通りであって、それ自体は珍しいことではない。今回の注目すべき点は、従来からの介護給付の削減一辺倒の姿勢が後退していることである。これは、従来から主張している介護事業の収支差率が中小企業と同レベルに落ち着いたことと、やはりコロナ禍の影響を考慮しての2点がポイントであると思える。これから、厚生労働省と財務省の駆け引きが行われるのであるが、注目の令和3年度改定率は年末までに出される見込みだ。

 

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.2

 

2巡目が終了した介護給付費分科会の審議~厳しい改定の気配~

 

介護給付費分科会での介護報酬改定審議は、2巡目が終了して3巡目に入っている。その審議内容の大部分は、既存の加算や人員の配置基準の検証と見直しの議論に多くの時間が費やされている。過去において、サービス毎の加算の算定状況を分析して、算定要件の緩和や基本報酬への包括化、場合によっては加算の廃止に時間を掛けた審議は無かった。介護保険法が始まって20年経ったことで、一区切りを付けているような状況である。もちろん、コロナ禍の影響で大鉈を振るう改定には出来なかったことも原因であろう。

 

しかし、2000年に介護保険制度がスタートして以降、加算の数は14倍に膨れあがっている。また、年々その算定要件は複雑で分かりにくいものになっている。ここで1度、現行の介護報酬を棚卸しして再構築することは必然であった。介護保険法も、多くの論点が先送りされて次期2024年改正に持ち越しとなり、介護報酬への大鉈も同様であることから、2024年は6年に一度の診療報酬改定と同時改定を迎えることを含めて、大転換の厳しい改定が予想される。今回の社会保障審議会での審議経過をしっかりと把握して分析する必要がある。それが次回改正の事前準備となるからだ。すなわち、令和3年度改定と令和6年度改定はペアで考える必要があるのだ。では、これまでの審議のポイントをまとめておこう。

  

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.2

 

これまでの審議のポイント(11月16日開催の審議会データに基づく)

1.地域密着型サービス

定期巡回随時対応型訪問介護看護

①人員基準の緩和措置で、計画作成責任者と管理者の兼務を可能とすること

②オペレーター及び随時訪問サービスを行う訪問介護員は、必ずしも事業所内にいる必要はないこと

上記2点を明確にする。

夜間対応型訪問介護

①オペレーターは、 特養、老健などの併設施設の職員と兼務し、随時訪問サービスを行う訪問介護員等と兼務出来ること

②複数の事業所間で、随時の対応サービスを集約出来ること

③地域の訪問介護事業所等に対し、事業を一部委託出来ることなどである

基本報酬

区分1の出来高の部分にメリハリをつけることなどが検討される

グループホーム

①受入要件:緊急短期利用で、定員を超えた受入要件を、7日を限度から、7日以内を原則として、やむを得ない事情がある場合には14日を限度に見直す

②人数要件:ユニット数に関わらず、「1事業所1名まで」の人数要件は、「1ユニット1名まで」に見直す

③個室:パーティションなどでプライバシーが確保される場合には個室以外も認める方向

④サテライト型事業所の創設、ユニット数を3ユニットまで弾力化

⑤基本報酬:2ユニットと3ユニットで区分する方向

⑥計画作成担当者:最大3ユニット分まで兼務を可能とする事もポイント

⑦夜勤職員の配置人数:以前の2ユニットで1人配置に戻すことが検討されているが、反対意見も多い

小規模多機能型居宅介護

低い設定となっている軽度者の基本報酬の引き上げが検討される

訪問体制強化加算

現状:月に200回以上という訪問サービスの実施回数の算定要件

今後:200回、300回、400回などに細分化し、200回に満たない事業所は報酬を減額するなどが検討される

総合マネジメント体制強化加算

①上乗せ評価を行う新たな区分の新設

②登録者以外のショート利用の条件の緩和

などが検討される

2.通所サービス

通所介護

ADL維持等加算の報酬単位数の引き上げや、CHASEへのデータ提供の報酬への評価、算定要件の新規利用者15%以下などを緩和することが審議される

生活機能向上連携加算

インターネット会議などICTの利用を認める方向

個別機能訓練加算

区分ⅠとⅡを統合で一本化、機能訓練指導員の常勤要件を外す

入浴介助加算

新たに機能訓練に居続けた加算の新設、従来分は減額

通所リハビリテーション

リハマネ加算Ⅰは基本報酬に包括、Ⅳは廃止、ⅡとⅢにVISITへのデータ提供を義務化、基本報酬は3類型に変更

社会参加支援加算と生活行為向上リハビリテーション実施加算

社会参加支援加算は、移行支援加算に名称変更。生活行為向上リハビリテーション実施加算は6ヶ月以降の減算の廃止、6ヶ月通じて同じ報酬単位へ

入浴介助加算

新たに機能訓練に居続けた加算の新設、従来分は減額

基本報酬

前回の改定で大規模事業所の報酬が下げられた事に対して、国の大規模化の方向に逆行しているなどの意見も多く、見直しの方向へ

次回は、訪問サービス、居宅介護支援、介護施設の論点をまとめる予定だ。

 

  

※次回は12月中旬公開の予定です。

Profile

小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所 代表/C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問/C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

日本全国対応で介護経営支援を手がける。介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。昨年も、のべ2万人以上の介護事業者を動員した。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。 
■著書
「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」(第一法規) 
「これならわかる <スッキリ図解> 実地指導」(翔泳社)
「まったく新しい介護保険外サービスのススメ」(翔泳社)
「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」(日本医療企画) 他多数
■定期連載
「日経ヘルスケア」「月刊シニアビジネスマーケット」「Visionと戦略」他

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