2020.10.21
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介護業界のコロナ対策は新たなフェーズに シミュレーションが大切

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.1

 

編集部より

今、介護事業所の経営には、新型コロナウイルス感染症への対応と制度改正を見据えた長期的な戦略という2軸が求められています。

先が見通しにくい時代に、介護経営支援に携わってきた小濱介護経営事務所の代表、小濱道博さんが「先手必勝の介護経営」と題して、一歩先行く経営のヒントを1年間にわたってお伝えします。第1回は、2021年度介護報酬改定の内容から2040年問題(※)に向けた対策の流れをくみ取り、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行の可能性がある今冬の業務シミュレーションの必要性を訴えています。

 

(※)2040年は、団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)が高齢者となり、日本の高齢者人口(65歳以上)がピークになり、約4000万人に達するとされる年です。

 

1.介護事業の倒産が最多更新とコロナ関連での訴訟事件

 

東京商工リサーチが2020(令和2)年10月8日に公開したデータによると、2020年1月から9月の「老人福祉・介護事業」倒産は94件(前年同期比10.5%増)で、最多を更新した。小・零細事業者が大半を占めていて、今後コロナ禍の支援効果の息切れから倒産が加速することが危惧されると結ばれている。

 

そのような中で、10月2日、広島県三次市のコロナ感染で死亡した高齢者の遺族が、発熱などの症状があったホームヘルパーにサービス提供を担当させたのが原因だとして、訪問介護の運営会社に4400万円の損害賠償訴訟を起こしたとの報道があった(10月12日に和解が成立)。これまでも介護上のミスを理由とした訴訟は多数起こされている。それらの多くは転倒や誤嚥によるものだ。

 

今回の件では、担当のホームヘルパーがコロナウィルスの陽性が判明したのは、利用者の陽性が判明した翌日である。

運営会社が、日頃から職員の体温チェック、風邪などのコロナ感染が疑われる症状の管理や感染症の職員研修とマニュアル化をどこまでやっていたかが問われるであろう。介護事業の経営に新たなコンプライアンスリスクが生まれている

 

 

2.総合事業の利用者が要介護者に拡大

 

そのような中で、粛々と社会保障審議会介護給付費分科会において、2021年度介護報酬改定の審議が進められている。年内に審議が終了し、1月には新しい介護報酬単位が公表される。

介護保険法等は、6月5日の通常国会で既に成立している。その改正介護保険法は、一般的なイメージとして、重要な改正案件は先送りとなり、骨抜きの制度改正との見方が強い。確かに国民や利用者負担を求める案件は先送りとなっている

 

しかし、先を見据えた案件の多くは成立している。例えば、8月25日公示、9月23日締切のパブリックコメントが出されていたのをご存じだろうか。

 

案件番号495200199「介護保険法施行規則の一部を改正する省令について」である。その内容は、「改正の概要 (1)第1号事業に関する見直し」として、

① 第1号事業の対象者の弾力化(則第 140 条の 62 の4関係)。第1号事業について、要介護者であっても、本人の希望を踏まえて地域とのつながりを継続することを可能とする観点から、市町村が認めた場合には、要介護者であっても第1号事業を受けられることとする。

② 第1号事業のサービス価格の上限の弾力化(則第 140 条の 63 の2関係)。 第1号事業のサービス価格について、現行は、国が定める額を上限として市町村が定めることとされているところ、この規定を改正し、国が定める額を勘案して市町村が定めることとする。

この2点である。平成27年度まで予防訪問介護、予防通所介護であったものが第1号事業(介護予防・日常生活支援総合事業)である。この利用者は、要支援認定者であり、要介護認定を受けた時点で、介護サービスに移行するために利用ができなくなる。

 

これが、今回の改正で、本人が総合事業の利用を希望することで総合事業の利用が可能となった。正式な通知は10月中旬に公示され、2021(令和3)年4月1日より施行される。令和3年度介護保険法改正での先送り項目に、訪問介護の生活援助および通所介護の軽度者を市町村事業に移行する論点がある。

 

この論点が先送りとなった理由は、総合事業の整備が進まない中で、市町村事業に移行しても介護難民になる恐れがあるため、受け皿としての総合事業の整備を進める必要があることが大きい。その一環として、住民主体の通いの場の整備を進めるのであるが、将来の軽度者の総合事業への移行に備えた制度改正と言えるのではないか

いずれにしても、着々と2040年問題に向けた対策が取られていることを実感せざるを得ない。

 

 

3.慰労金等の手続はローカルルールに注意

 

すでに多くの施設・事業所は手続きが終わっているであろう、慰労金手続も自治体のバラツキが顕著である。

多くの自治体では7月の後半、もしくは8月17日から受付が開始した中で、鹿児島県などは9月以降の開始となった。申請方法も、ローカルルールが多い。

この辺りは、介護保険行政同様に地方分権の弊害が確実に出ている。慰労金の申請手続では、施設・事業所が職員の申請を取りまとめ、国保連に伝送請求する。翌月に介護報酬の入金される通帳に総額が振り込まれ、施設・事業所が職員に対して手渡し、もしくは振り込むことで支給されるものだ。

 

しかし、一例として、大分県や長野県は、県が職員個人に対して振込手続を行う。そのために、国保連への手続きではなく、直接に県庁の指定する期間に書類を提出する形を取った。

また、申請手続の締め切り日も都道府県によってマチマチである。大分県は9月30日ですでに締め切っている。東京都は11月30日、長野県は12月25日といった具合である。慰労金の申請を終えていない場合は、早急な確認が必要である。

れは、かかり増し経費の申請も同様で、東京都のように、一回に上限額で申請して、全額を使い切るように依頼する自治体もあれば、実際の支出に合わせて都度申請を求めるところもある。概算で上限申請した場合は、半額のみを振り込み、残りは実機報告の確認の上で振り込む自治体もある。

今、介護報酬改定で、加算算定の簡素化が問われているが、諸々の行政手続におけるローカルルールについても見直しが必要ではないか。

 

 

4.コロナ禍の中でこれから何が起こるのか

 

コロナウィルスの感染者数が減らない中で、秋冬の季節を迎える。これからの時期は風邪やインフルエンザの患者も増えることから、その風邪の症状が、ただの風邪なのかコロナなのかの判断が難しく、対応に苦慮することが考えられる。

また、職員の勤務シフトにおいても、37度5分以上の熱がある場合は出勤させてはならないとの通知があることから、風邪の症状での欠勤者が増える事が予想される。今から、対応マニュアルなどの整備が必要である。

 

また、政府は新型コロナウイルス対策本部で、施設・事業所の利用者、職員全員を対象として定期的に検査を行う考えを示している。検査対象の拡大によって施設職員の感染者数は増加するであろう。自分の施設・事業所で感染者が発生した場合の対応もシミュレーションする必要がある

いずれにしても、介護業界はコロナ対策では新たなフェーズに入ったと言える。そんな中で、粛々と次期介護報酬改定の審議が進められている。あと一月もすれば、各サービスの介護報酬の動向が見えてくる。

  

次回は、二巡目の審議を踏まえて、令和3年度介護報酬改定がどうなるか。各サービスの大胆予想を行う予定だ。

  

※次回は11月下旬に公開の予定です。

 

Profile

小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所 代表/C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問/C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

日本全国対応で介護経営支援を手がける。介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。昨年も、のべ2万人以上の介護事業者を動員した。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。 
■著書
「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」(第一法規) 
「これならわかる <スッキリ図解> 実地指導」(翔泳社)
「まったく新しい介護保険外サービスのススメ」(翔泳社)
「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」(日本医療企画) 他多数
■定期連載
「日経ヘルスケア」「月刊シニアビジネスマーケット」「Visionと戦略」他

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