2021.07.07
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セラピストが活躍する訪問看護ステーションの強みとは?

~マネジメントの視点から考える~

 

編集部より

在宅医療の現場で、リハビリテーションを必要としている対象者の方は少なくありません。現状では訪問看護師が担うケースが多いようですが、ケアプロ訪問看護ステーション東京(中野区、足立区)では「その道のプロ」であるセラピストを採用し、より専門性の高い介入をめざしています。足立ステーションで理学療法士として活躍する星野真二郎さんに在宅ならではのやりがいについて、管理者のお2人にセラピスト採用のメリットや他職種との連携について、それぞれ伺いました。
 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

 

メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 画像1 

 

お話を伺った方々

星野真二郎さん(写真上ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション

総合病院のリハビリテーション科からケアプロ訪問看護ステーション東京に転職。現在は訪問看護チームのリーダーを担う。

  

高田雄貴さん(写真左下ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション/慶友サテライト所長

都内大学病院のICU病棟での勤務後、ケアプロ訪問看護ステーション東京に入職。副所長を経て所長となる。 

 

金坂宇将さん(写真右下ケアプロ株式会社在宅医療事業部事業部長 ケアプロ訪問看護ステーション東京管理者

島根県立看護短期大学を卒業後、松江赤十字病院に入職。心臓血管センター(循環器内科および心臓血管外科)で5年、ICUで4年勤務したのち、2015年よりケアプロ訪問看護ステーションにおいて訪問看護師の経験を重ね現職に携わる。

 

 

柔軟な対応が求められる在宅の現場

    私は以前から在宅医療に興味があり、個別の日常生活動作(ADL)だけに注目するのではなく、利用者さまの気持ちやご家族の背景まで視野に入れ、生活全体を見据えたケアに挑戦したいと考えていました。そこで、総合病院のリハビリテーション科で14年間の経験を積んだ後、自分の仕事の集大成を築く舞台としてケアプロを選び、2020年9月に入職しました。入院生活から自宅に戻った利用者さまが、その人らしく過ごせるようにサポートすることをめざし、日々の業務に取り組んでいます。

     

    病院ではさまざまな職種が患者さまに関わりますが、それぞれの役割が固定化されがちで、他職種の仕事に手を出すのがためらわれることもありました。しかし、在宅の現場では、基本的に自分1人で利用者さまの自宅を訪問するので、必要に応じて幅広い業務に対応することになります。理学療法士であっても、内服確認、食事・水分の摂取状況、排泄や睡眠状況の確認を行ったりもします。だからこそ、利用者さまの全身状態の変化を観察したり、看護師に報告して指示を受けたりする力が求められます。

     

    また、訪問中には何が起こるか分からないので、救命救急のスキルを磨いておくことも欠かせません。最初は戸惑いもありましたが、新しいスキルを習得して成長することが喜びにつながっていきました。臨機応変に学び、現場の状況に対応しようとする柔軟性を持っていなければ務まらない仕事だと思います。

     

    メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 秋山愛

     

     

    「訪問のセラピスト」だからこそ実現できること

      人間は誰しも「ちょっとした動作の不具合」を抱えているものです。健常な人であれば、余分のエネルギーが必要になるくらいで大きな問題にはなりませんが、利用者さまの場合は「まったくできない」「何とかできるが痛みが生じる」といったレベルで問題になることがあります。だからこそ、その人ならではの生活環境に適応するための、具体的なケアやアドバイスが大切です。

       

      セラピストが利用者さま宅を訪問すれば、物品の配置や高さ、段差の有無、動線などを含めた生活環境を詳細にチェックすることができ、適切な介入が可能になります。例えば、手を置く位置をほんの少し変えるだけでも、動作全体がグッと楽になるケースは少なくありません。訪問中にそうした点を見出し、より良い身体の動かし方が定着するよう働きかけることは、「訪問のセラピスト」だからこそ果たせる役割だと思います。

       

      社内では、理学療法士として持っている知見を共有するため、看護師を対象にした勉強会で講師を務めることも多いです。関節の動かし方やベッド上でのポジショニングのポイントなどについて、「おむつ交換のときには脚をこのように動かすと安全です」などと、看護師の具体的な業務に結び付けながら説明しています。看護師の皆さんにとって業務改善につながるほか、お互いの職務を理解し合い、より良いケアをめざして意見交換する意味でも有意義な取り組みだと感じています。

       

       

       

      リハビリテーションの本来の役割を追求したい

        一口にセラピストと言っても、職種により得意分野が異なります。例えば、自力での食事摂取に課題を抱えた利用者さまに対して、私たち理学療法士は、肩や肘、腕などの動き、あるいは首の傾きなど、運動機能を主にチェックします。

         

        一方で、作業療法士は「スプーンや皿の形状を変えることで対応できるかもしれない」といった発想から、より細かいADLを支援します。目的は同じでも、アプローチに差があるわけです。また、作業療法士は精神領域のリハビリテーションもできるため、理学療法士が介入できない利用者さまを支えることもできます。

         

        言語聴覚士は、失語や嚥下機能などに関する支援が中心です。在宅でも誤嚥性肺炎は大きな問題になるので、咀嚼や飲み込みなどを正確に評価できる言語聴覚士は貴重な存在だといえます。

         

        訪問看護ステーションのセラピストについて、介護報酬引き下げの動きがあることは残念ですが、これを機にセラピストの役割を問い直すことも大切だと思います。明確な目標もなく訪問して機械的にマッサージするだけでは、本来の職能を十分に発揮しているとはいえないでしょう。より意義のある訪問の実現を通して、機能維持・改善に対する正当な評価を訴えていくことも、これからのセラピストに課せられた使命だといえるかもしれません。

         

        メディカルサポネット 出向看護師 ケアプロ 

         

         

         

         

        管理者インタビュー(1)

        看護師とセラピストの多面的な視点がケアを底上げ

          金坂宇将さん(ケアプロ株式会社在宅医療事業部事業部長 ケアプロ訪問看護ステーション東京管理者)

           

           

          当社は「総合訪問看護ステーション」の確立を推進しており、大規模化する中で多様性のある組織になることを目指しています。その理由は、幅広い年齢層や経験値の人間が関わることで、より深く対象者を理解することにつながるからです。セラピストの採用もその一環であり、異なる専門性を持つスタッフが協力し合うからこそ、多面的な議論が可能になります。

           

          当社では2017年に1人目のセラピストを採用しましたが、看護師と同行訪問する中で、利用者さまの困り事を的確に解決するコンサルタントのような役割を担ってくれました。ケアの質が向上したことを実感し、その後も積極的に採用を続け、現在では11人のセラピスト(理学療法士8人、作業療法士3人)が活躍しています。年齢層としては、5~6年の経験がある中堅どころから40歳代のベテランまで幅広いですが、共通しているのは「ワンチームでケアを構築する」という思い。身体的な機能訓練だけに興味があるというよりも、多職種と協働しながら利用者さまの「生活の基盤」を作り、その上でリハビリテーションを提供するという意識がある人を採用しています。

           

          採用後の教育は、独自開発した看護師向けの教育ラダーを応用して行います。特に意識しているのは、セラピスト同士だけでなく、看護師との同行訪問も体験してもらうことです。独り立ちすれば、基本的には単独で訪問することになるので、セラピストでも利用者さまの全体像をとらえる力が欠かせません。看護師と一緒に動く中でそうした点を学び、同時に看護師にも新たな知見を提供してもらいたいと考えています。

           

          また、社内では多職種混合のチームを編成して毎日のカンファレンスを行うなどし、職種による壁ができないように配慮しています。お互いの個性や強みを生かすことで、さまざまな背景を持つ利用者さまを支えらえるステーションを実現したいです。

           

           

          管理者インタビュー(2)

          地域でも活躍の場が広がる「在宅に強いセラピスト」

            高田雄貴さん(ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション/慶友サテライト所長)

             

            当社のセラピストはさまざまな訪問先で活躍していますが、特に多いのが神経難病を抱える利用者さまのケースです。次第に病気が進行する難しいケースですが、セラピストが関わることで身体機能やQOLの維持・向上を目指せるようになりました。

             

            例えば、人工呼吸器を装着したばかりの筋萎縮性側索硬化症(ALS)の利用者さまが外出を希望されたとき、看護師とセラピストを中心に入念なアセスメントをしたことで、わずか退院2週後のタイミングでの外出支援につながったことがあります。また、同じくALSの利用者さまが自宅入浴を希望されたときは、セラピストが介助方法を事前に練り上げ、足の着き方1つひとつにまで気を配ったことで、2階にある浴室まで階段で上がってゆっくりとお風呂を楽しんでもらうことができました。

             

            看護師とセラピストが密に連携することで、緊急性の高い事例に対応しやすいというメリットもあります。例えば、セラピストが訪問中に褥瘡を発見したときは、看護師から電話でケアの方法を教わることで適切に対処できます。逆に、看護師が訪問中に利用者さまが足を痛めているとわかったときは、セラピストから電話で観察の視点を教わることで適切に対処できます。そのほか、療養環境の整備もセラピストの重要な役割であり、福祉用具の選定や業者とのやり取りの多くを担っています。

             

            2020年4月には、整形外科およびリハビリテーションを専門とする足立慶友リハビリテーション病院(医療法人社団新潮会)にサテライトを開設し、入院中から当社のセラピストが介入することで、病院から在宅へのシームレスな移行をめざしています。同院には整形外科疾患を抱えた高齢の患者さまが多く入院しており、退院後のリハビリテーションや生活環境の調整が重要です。そこで、セラピストが退院カンファレンスなどに参加して退院支援・調整を行い、スムーズな在宅生活のスタートをサポートするイメージです。訪問セラピストが地域で果たす役割は大きく、素晴らしい実践がたくさん生まれています。こうした活躍を世に発信していくことも、今後の課題の1つだと考えています。

             

             

             

            ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション

            ケアプロ訪問看護ステーション東京
            足立ステーション

            事業所番号:1361390048
            所在地:〒121-0815 東京都足立区島根3-5-8 コーソカラオケ 201
            最寄り駅:東武スカイツリーライン 西新井駅 徒歩5分
            URL:https://carepro.co.jp/zaitaku/
            TEL:03-5851-8809
            FAX:03-5856-5233

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