2021.05.07
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【セミナーレポート】報酬改定に対応できない介護事業者は、ゆっくりと沈んでいく

――講演「最終確認!令和3年度 介護報酬改定のポイントと次期改定に向けた対応策」より

 

令和3年度介護報酬改定では多くの加算で算定要件が変わり、すべてのサービスに感染症対策、事業継続計画、虐待対策が義務化された上、人員基準や運営基準などの見直しも多く、大幅な変化に急ピッチでの対応が迫られています。メディカルサポネットでは、介護経営支援の経験豊富な小濱道博氏を講師にお招きし、「介護報酬改定のポイントと次期改定に向けた対応策」を解説いただきました。その講演の内容を抜粋してお届けします。

  

 

 4月21日(水)~5月18日(火)期間限定配信 ※配信終了いたしました。

 

介護報酬大改定5つの柱

 

介護保険法が2000年4月に施行されてから、丸20年が経過しました。1つの節目ということもあり、過去に類を見ない介護報酬の大改定が行われています。今回の改定には以下の5つの柱があります。

 

(1)感染症や災害への対応力強化

(2)地域包括ケアシステムの推進

(3)自立支援・重度化防止の取組の推進

(4)介護人材の確保・介護現場の革新

(5)制度の安定性・持続可能性の確保

 

これら5つの柱に含まれる、特に重要なキーワードは、事業継続計画(BCP)科学的介護推進体制加算(LIFE)です。

 

 

感染症や災害への対応力強化――事業継続計画(BCP)とは?

 

POINT

感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、すべての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等を義務付ける。その際、3年の経過措置期間を設けることとする。

この業務継続に向けた計画(=業務継続計画)は、一般的にBCP(business continuity plan)と呼ばれます。COVID-19のような感染症しかり、様々な自然災害しかり、業務継続が危ぶまれるような事態に備えて、サービス継続の計画を事前に練っておくわけです。現在、厚生労働省より、「新型コロナウイルス感染症発生時」と「自然災害発生時」という2パターンについて、業務継続ガイドラインとBCPのひな形が公表されています。

 

BCPの作成は非常に大変です。なぜなら、事業者によって事業内容や人員等の状況が異なりますし、立地によって自然災害リスクも変わってくるので、オーダーメイドで作らなければならないからです。中小規模の事業者でも数か月~半年程度、大規模なら1年はかかるでしょう。現状のアセスメントから始まり、問題の抽出、解決策の検討をして計画に落とし込んでいくわけで、時間が必要です。3年の経過措置期間がありますが、すぐにでも着手しなければなりません。

 

 

<自然災害発生時のBCP記載例>

※講演資料より抜粋

 

 

 

自立支援・重度化防止の取組の推進――科学的介護推進体制加算(LIFE)とは?

 

POINT

施設系サービス、通所系サービス、居住系サービス、多機能系サービスについて、CHASEの収集項目の各領域について、事業所のすべての利用者に係るデータを横断的にCHASEに提出してフィードバックを受け、それに基づき事業所の特性やケアのあり方等を検証して、利用者のケアプランや計画に反映させる、事業所単位でのPDCAサイクルの推進・ケアの質の向上の取組を評価する新たな加算を創設する。その際、提出・活用するデータについては、サービスごとの特性や事業所の入力負担等を勘案した項目とする。加えて、詳細な既往歴や服薬情報、家族の情報等より精度の高いフィードバックを受けることができる項目を提出・活用した場合には、さらなる評価を行う区分を設ける。

今回の改定では、多くの加算の算定要件として科学的介護推進体制加算(long-term care information system for evidence;LIFE)の活用等が盛り込まれています。施設サービスでは、LIFEデータベースを活用しないという選択肢はまずありません。在宅サービスでもほとんどそうですが、訪問サービスは例外となっています。唯一、訪問リハビリテーションのリハビリテーションマネジメント加算の算定要件に含まれているだけ。

 

ただし、次回改定では間違いなく、訪問サービスの加算の多くにもLIFEが絡んでくるはずです。実際、すでに厚生労働省において、それを視野に入れた研究部会がスタートしています。

 

LIFEが絡んだ加算をみると、「個別機能訓練」「栄養」「口腔」に関するものが目に付きます。これらは自立支援に関わるという共通項がありますね。そして、これらの加算については、LIFEデータベースの活用を前提とした新たな区分が設けられました。

 

※講演資料より抜粋

 

すなわち、LIFEデータベースを活用すれば収入が増えます。この方向性が極めて明確になっています。もちろん、LIFEデータベースを活用できなければ、その事業者は周りに後れを取り、ゆっくりと沈んでいくでしょう。

 

 

 

その他の主な介護報酬改定のポイント

 

1.地域包括ケアシステムの推進

(1)認知症への対応力向上に向けた取組の推進

・訪問介護、訪問入浴介護、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護について、他のサービスと同様に、認知症専門ケア加算を新たに創設する

・多機能系サービスについて、施設系サービス等と同様に、認知症行動・心理症状緊急対応加算を新たに創設する

・介護サービス事業者に、介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者について、認知症基礎研修を受講させるために必要な措置を講じることを義務付ける(経過措置期間3年)

(2)看取りへの対応

・看取り介護加算について、算定日数期間を超えて看取りに係るケアを行っている実態があることを踏まえ、現行の死亡日以前30日前からの算定に加えて、それ以前の一定期間の対応について、新たに評価する区分を設ける

・看取り期の利用者に訪問介護を提供する場合に、訪問介護に係る2時間ルールを弾力化し、2時間未満の間隔で訪問介護が行われた場合に、所要時間を合算せずにそれぞれの所定単位数の算定を可能とする

 

※講演資料より抜粋

 

 

(3)医療と介護の連携

・退所前連携加算について、入所前後から入所者が退所後に利用を希望する居宅介護支援事業者と連携し、退所後の介護サービスの利用方針を定め、その上で、現行の加算の要件である退所前の連携の取組を行った場合を新たに評価する区分を設ける

・かかりつけ医連携薬剤調整加算について、介護老人保健施設において、かかりつけ医との連携を推進し、継続的な薬物治療を提供する観点から見直しを行う

・退院・退所当日の訪問看護について、現行の特別管理加算の対象に該当する者に加えて、診療報酬上の取扱いと同様に、主治の医師が必要と認める場合は算定を可能とする

・訪問看護の看護体制強化加算について、医療ニーズのある要介護者等の在宅療養を支える環境を整える観点や訪問看護の機能強化を図る観点から見直しを行う

 

(4)ケアマネジメントの質の向上と公正中立性の確保

・居宅介護支援について、経営の安定化を図るとともに、質の高いケアマネジメントの一層の推進、公正中立性の確保等を図る観点から、特定事業所加算の見直しを行う

・居宅介護支援の逓減制において、一定のICTの活用または事務職員の配置を行っている事業者については、逓減制の適用を45 件以上の部分からとする見直しを行う

・居宅介護支援について、利用者が医療機関において医師の診察を受ける際に介護支援専門員が同席し、医師等と情報連携を行い、当該情報を踏まえてケアマネジメントを行うことを一定の場合に評価する新たな加算を創設する

 

 

 

※講演資料より抜粋

 

 

2.介護人材の確保・介護現場の革新

・介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算の算定要件の一つである職場環境等要件について、介護事業者による職場環境改善の取組をより実効性が高いものとする観点から見直しを行う

・介護現場において、仕事と育児や介護との両立が可能となる環境整備を進め、職員の離職防止・定着促進を図る観点から、各サービスの人員配置基準や報酬算定について見直しを行う

・介護サービス事業者の適切なハラスメント対策を強化する観点から、すべての介護サービス事業者に、男女雇用機会均等法等におけるハラスメント対策に関する事業者の責務を踏まえつつ、ハラスメント対策を求めることとする

 

3.制度の安定性・持続可能性の確保

・訪問看護の機能強化を図る観点から、理学療法士等によるサービス提供の状況や他の介護サービス等との役割分担も踏まえて、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が行う訪問看護および介護予防訪問看護について、評価や提供回数等の見直しを行う

・近年の受給者数や利用期間および利用者のADL等を踏まえ、適切なサービス提供とする観点から、介護予防サービスにおけるリハビリテーションについて、利用開始から一定期間が経過した後の評価の見直しを行う

 

 

今回の介護報酬改定では、従来と違って各種加算の上位区分が設けられることが多くなっていることから、その上位区分を算定できる事業者は収入が増え、2極化が拡大していきます。「今までと同じことをやっていては相対的に沈んでいってしまう」ということを、ぜひとも肝に銘じておいてください。

 

 

 

4月21日(水)~5月18日(火)期間限定配信  ※配信終了いたしました。

 

講師プロフィール

小濱介護経営事務所 代表

小濱 道博(こはま みちひろ)氏

小濱介護経営事務所 代表/C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問/C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事 ほか役職多数。日本全国対応で介護経営支援を手がける。介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間300件以上。昨年も、のべ2万人以上の介護事業者を動員した。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。 

■著書

「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」(第一法規) 、「これならわかる <スッキリ図解> 実地指導」(翔泳社)、「まったく新しい介護保険外サービスのススメ」(翔泳社)、「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」(日本医療企画) 他多数

■定期連載

「日経ヘルスケア」、「月刊シニアビジネスマーケット」、「Visionと戦略」他

 

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