2021.03.17
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「Nursing Nowフォーラム・イン・ジャパン」レポート

―― 全国の看護職が集い、コロナ禍を経て求められる「看護の力」を議論
編集部より

2021年1月21日、「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200周年記念イベント「Nursing Now:看護の力で未来を創る」が開催されました。忘れられない看護エピソードの表彰式などが行われた午前の部に引き続き、午後に実施された「Nursing Nowフォーラム・イン・ジャパン」(主催:日本看護協会/笹川保健財団)の概要と、感染者200万人以上、犠牲者6万人以上を出したイタリアにおける、感染初期の状況や医療従事者の奮闘や倫理的ジレンマについてご紹介します。  

  

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

編集/メディカルサポネット編集部

    https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/nursing_now/nncj/event/より引用

   

世界的キャンペーンNursing Nowの一環として開催

「Nursing Now:看護の力で未来を創る」は、「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200周年を祝し、日本看護協会が開催したイベントです。看護職をはじめとした医療関係者や一般の方などが個人で視聴したほか、約260か所のパブリック・ビューイング会場も設置され、合計で約4900人が視聴する大盛況のイベントとなりました。

 

午後のプログラムでは、看護職が持つ可能性についてテーマごとに議論を繰り広げる「Nursing Nowフォーラム・イン・ジャパン」が開催されました。オープニングセッションでは、Nursing Now共同議長のナイジェル・クリスプ卿、WHO主任看護官エリザベス・イロ氏、国際看護師協会(ICN)会長アネット・ケネディ氏からのビデオメッセージにより、COVID-19に立ち向かう看護職へ力強いメッセージが届けられました。

 

また、Nursing Now事務局長であるバーバラ・スティルウェル氏による基調講演では、世界の看護職の地位と認知度の向上により、世界の健康に貢献することを目的としたNursing Nowの活動内容や方向性が説明されました。

 

Nursing Nowは2018年に開始された世界的キャンペーンであり、世界127以上の国で700以上のグループが立ち上がるなど大きな広がりを見せています(2020年11月時点)。同氏は、看護職がその能力を最大限に発揮するためには、ナース・プラクティショナー(一定範囲の診療を行う上級看護師)のような行動実践を重ねるとともに、一人ひとりが影響力のあるリーダーであることが必要などと話しました。

  

コロナ禍で私たちが失ったもの、得られたもの

その後は3つの分科会に分かれて、それぞれのテーマに沿った熱い議論が交わされました。中でもここで注目したいのが、「災害に強いコミュニティ、安全・安心な社会の構築に向けた看護の貢献」をテーマにした分科会3。各種の災害対応で看護師に期待される役割や、これまでに行われた特徴的な取り組みについて発表・議論されました。ここでは、イタリア看護師協会会長のウォルター・デ・カロ氏による講演について、その概要をご紹介します。

 

 

「COVID-19対応からの教訓:イタリアからの報告」

――ウォルター・デ・カロ氏(イタリア看護師協会 会長)

 

COVID-19により欧州はひどい状況に陥り、私たちは世界に関する見方を変える必要に迫られました。欧州において最初に感染拡大したイタリアの、拡大初期の状況をお伝えします。

 

  

■感染者200万人以上、犠牲者6万人以上のイタリア

最初に政治の場でCOVID-19が取り上げられたのは2020年1月22日のことであり、その後、中国への渡航が禁止されました。3月には緊急事態宣言が発令され、65日間のロックダウンが実行されました(現在でも北イタリアなど一部地域はロックダウン状態です)。イタリアでは、これまで200万人以上がCOVID-19に感染し、すでに6万人以上が亡くなっています。第1波では約10%の医療従事者がPCR陽性となりましたが、それ以降は個人防護具の供給状況などが改善されたことで陽性率が微減しています。12月末には、看護師などへのCOVID-19のワクチン接種もスタートしました。

 

■イタリアでの医療提供状況と倫理的ジレンマ

この緊急事態において、国・地域・病院それぞれのレベルで、様々な対策が取られてきました。例えば、北イタリアではコンベンションセンターをCOVID-19専門の病院にして、トリアージなどを行っています。また、医療従事者にPCR検査を実施する際に看護師が不足したため、軍の医療チームやボランティア、引退した医療従事者に声がかけられました。さらに、フィールドホスピタルが屋外に設置されたり、航空医学チームにより国内外での患者搬送が飛行機を使って行われたりしました。

 

第1波のときに大きな課題となったのが、ICUの不足です。一般病床の一部がICUに転換され、全体で約5000床から1万床まで増床しました。しかし、これはあくまでも転換であり、新しいベッドが追加されたわけではありません。一般病床を利用していた/するはずだった慢性疾患の患者さんなどを追いやることになってしまいました。

 

それでもICUの病床数や人工呼吸器の数は十分ではなく、「より回復しそうな患者さんを選択する」という厳しい判断を迫られる場面もありました。いわば、倫理的なジレンマが生じたわけです。

 

COVID-19対応の病床で働いた末に亡くなった看護師70人

医療従事者の不足も深刻でした。イタリアにはおよそ1万2000人の看護師がいますが、現状を考えれば5万人ほど足りません。その上、当初は個人防護具の不足が現場に大変な混乱をもたらしました。第1波の際にはマスクや防護服がまったく足りず、多くの看護師がCOVID-19に感染する事態となりました。例えるなら、「紙の洋服とプラスチックの銃で戦争に行く」ようなものです。

 

これまでにCOVID-19で亡くなった看護師は約70人で、そのうち5人は自殺とされています。これだけ多くの看護師が短期間に自殺したのは初めてのことで、職業上の問題と考えざるを得ません。亡くなった看護師たちはCOVID-19対応の病床で働いており、「家族に感染させたらどうしよう」といった心理的な負荷も非常に大きかったはずです。

  

 

■この危機からのレジリエンス

これまでにない困難に直面してきた私たちですが、一方で良い点を見出すこともできます。その1つが、看護師が「ヒーロー」として取り上げられるようになったことです。看護師に関する特集記事がこれだけ多く発表され、新聞の一面を飾ったのは、過去に例のないことでしょう。看護師のイメージが大きく向上した今だからこそ、不十分だったインフラや教育のアップグレードを呼びかけるチャンスともいえます。

 

また、パンデミックを経験したからこそ人々のレジリエンス(困難な状況からの復元力)が鍛えられ、看護師の役割も明確になりました。私たちは、十分なテクノロジーやリソースがない厳しい状況下でも、何とか対応しなければなりません。急性期のスキルを高め、感染管理の正しい知識を持ち、計画外の緊急事態に備える必要があります。そして今後、パンデミックへの深い理解を促すカリキュラムを教育に取り入れること、看護師の安全対策をより強固にすべくガイドラインを作成することが必要となるでしょう。

   

福井会長が「Nursing Nowニッポン宣言」を表明

一方、分科会1では「トリプル・インパクトと政策」をテーマに、SDGsの3つの目標※に看護職が貢献するため、政策推進におけるエビデンスの重要性が検討されました。また、分科会2では「在宅看護と持続可能な社会~看護師が社会を変える~」と題し、地域住民の健康維持・増進のために看護師がどのように活動すべきかが検討されました。

※SDGsの3つの目標:持続可能な開発目標(sustainable development goals;SDGs)における目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標8「働きがいも経済成長も」のこと。

 

看護職の「これまで」と「これから」に幅広く焦点を合わせ、数多くの有益な知見が共有されたこの日。クロージングセッションは、日本看護協会の福井トシ子会長による「Nursing Nowニッポン宣言」で締めくくられました。社会が大きな困難に直面する今だからこそ、あらためて「看護の力」を見つめ直す絶好の機会になったようです。

 

 

【Nursing Nowニッポン宣言】

・健康な地域・健康な社会づくり、人々の生涯を通した安心・安全で健康な暮らしに、これまで以上に貢献します。

・看護職が社会のニーズを満たし、あらゆる場でその力を十分に発揮できるよう、実践から政策まで、それぞれの変革を推進するための意思決定に参画します。
・利用可能な最善のエビデンスに基づく、よりよい意思決定に寄与するため、幅広くエビデンスの集積に取組みます。
・これらの日本における取組み・成果を世界と共有し、世界的な目標であるSDGsの達成、世界の人々の健康向上に尽力します。

 

 

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