2020.07.22
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コロナ対応で在宅医療機関あたり月48万円の支出が発生

~日本在宅医療連合会のアンケート調査結果~

在宅医療を行う医師らでつくる日本在宅医療連合学会が、2020年2月~5月に新型コロナウイルス感染症が在宅医療に与えた影響をアンケート調査したところ、新型コロナウイルスの感染予防と制御のために、316クリニックが支出した1カ月あたりの合計額が約1億5000万円となり、1医療機関あたり48万円の支出が生じていたことが分かりました。また、回答した施設の約16%で医師・職員の感染(疑い含む)または濃厚接触が発生していました。在宅医療の現場では感染リスクのある中、予防と制御のために診療と経営の両面に対して大きな負担がかかっていることが明らかになりました。

編集・構成/メディカルサポネット編集部

日本在宅医療連合学会は同学会の会員で有効なメールアドレスを登録していた医師2443人に対し、オンラインでアンケート調査「在宅医療における新型コロナウイルス感染症の影響の調査」を実施。回収率は12.9%で、316件の回答を得ました。なお、この316人が所属する医療機関が在宅療養支援に関わる患者数は5万3401人(居宅3万470人、施設2万2931人)で、日本全国の在宅患者の10%程度に相当します。

在宅患者は新型コロナウイルス感染による重症化・死亡のリスクが非常に高く、医師らは感染予防に細心の注意を払いながら新型コロナウイルス感染症の診断と治療を担い、通院困難な高齢者や重度基礎疾患のある患者を自宅や施設で療養支援を行っています。

 

【1】在宅医療における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応状況 

①COVID-19 の診断への関与(PCR 検査を検討・依頼または実施)

COVID-19 の診断に関与した在宅医は89人、関与しなかった在宅医は227人でした。関与したと回答した在宅医のうち、関与した件数の大部分は1件(47.7%)でしたが、10件以上担当した医師も7人いました。最大は180件。在宅医の診断への関与は、合計718件(居宅402件・施設 316件)でした。

 

(図1)診断に関与した件数

 

また、718件のうち 153件が、40人の在宅医により在宅(居宅または施設)でPCR検査が実施されていました。40人の在宅医のうち、17人が東京・埼玉・千葉・神奈川の一都三県で診療しており、実施件数の50%以上を占めていました。7人が大阪・京都・兵庫、4人が北海道の在宅でした。緊急事態宣言が発令された 7都府県と北海道で多い傾向があり、地域の検査能力の限界を在宅医が担っていた可能性があります。

  

(図2)在宅で実施した PCR 検査の件数

 

②COVID-19 の在宅療養支援に関与(COVID-19 およびその疑い・濃厚接触者を含む)

COVID-19(確定診断および疑い・濃厚接触者を含む)に対する在宅療養支援は、385件(居宅205 件・施設180件)行われていました。

  

[1]COVID-19 確定診断ケースに対する在宅療養支援

9人の在宅医により、25件(居宅13件・施設12件)が行われていました。うち6人が東京都の在宅医で、18件(居宅10件・施設8件)の COVID-19 確定診断ケースに対する在宅療養支援を行っていました。他に京都府 2 人、大阪府 1 人、北海道 1 人、福岡県 1 人の在宅医がそれぞれ 1 件の COVID-19 確定診断ケースに対する在宅療養支援を行っていました。

  

[2]COVID-19疑いケース(症状からCOVID-19を強く疑ったが、確定診断に至らなかったケース)に対する在宅療養支援

68人の在宅医により、256件(居宅138件・施設118件)が行われていました。COVID-19確定診断ケースに対する在宅療養支援は、ほぼ全国で行われていましたが、うち東京都の在宅医が12人(合計75件)、神奈川県8人(合計43件)、埼玉県4人(合計8件)、千葉県5人(合計7件)と一都三県で約半数のケースを占めました。大阪府6人(合計29件)、北海道4人(合計17件)と、患者数の多かった都道府県において、在宅療養支援も多く発生していたことがわかりました。

  

[3]濃厚接触者(無症状・PCR陰性または未検) 

41人の在宅医により、104件(居宅54件・施設50件)が行われていました。うち在宅医と患者の分布は、東京都が9人(合計34件)と最多で、神奈川県6人(合計13件)、京都府4人(合計8件)、北海道4人(4件)と続きました。千葉県・埼玉県はいずれも2人(合計で5件)で、ここでも一都三県が半数を占めました。

  

【2】COVID-19(疑い・濃厚接触者含む)の診断および在宅療養支援における課題と取り組み

①必要な個人防御具の不足・備蓄確保

 

 

あり:260/なし:55

約8割の在宅医療機関で、個人防御具が不足していたことがわかりました。

  

 

またガウンやN95(KN95)、フェイスガードなど、日常診療での使用頻度の低い資材の不足が深刻であったことがわかりました。また、サージカルマスクや衝動供養エタノール、グローブなど、日常の診療で刺胞頻度の高いものについても不足が顕在化していたことがわかります。資材の種類によっては供給状況が改善しつつあるが、ガウンやN95などは以前として不足が深刻で、流通ロットの非常に大きいものが多く、小規模医療機関の多い在宅医療においては事業所単位での資材調達は困難な状況が続いています。

  

②感染防御のための院内工事(パーティション設置などの配置換えを含む)

 

 

 

あり:166/なし:148

約半数の在宅医療機関において、感染防御のための院内工事等を実施していました。

 

③職員の勤務への特別な配慮(在宅勤務・直行直帰など)

 

 

あり:173/なし:140

約半数を超える在宅医療機関において、在宅勤務や直行直帰など、職員の勤務への特別な配慮を行っていました。

  

④普段より長時間 and/or 高頻度の診療・指導 

 

 

あり:114/なし:199

4割弱の在宅医療機関において、主に感染教育等のために通常よりも長時間または高頻度の診療・指導を行っていました。

  

⑤電話等による訪問診療前の状況把握や指導 

 

 

あり:253/なし:61

一方で、感染防御の観点から、訪問診療における滞在時間をできるだけ短くするために、電話による事前問診や、診療時の感染リスクを軽減するための事前の換気の指示などを行っている医療機関も多くありました。約 8 割の在宅医療機関が診療前に電話による状況把握や指導を行っていました。

  

⑥診療チームの組み換え・診療ルートの特別な調整

 

 

あり:145/なし:168

チーム内での感染拡大を防ぐために、診療チームを独立運行させる(他のチームとの接点をつくらない)、あるいは、重症化リスクの高い患者から診療し、発熱患者を最後に診察するなどのルート上の工夫も行われていました。また、体調不良の職員は診療ルートから外す必要があります。約半数の医療機関において、診療チームの組み換えやルートの調整を実施していました。

  

⑥医師・職員の感染(疑い含む)または濃厚接触 

 

 

あり:51/なし:263

51 件・16.2%の在宅医療機関において、医師・職員の感染(疑い含む)または濃厚接触が発生していました。これらの医療機関では、運営に大きな支障が発生していました。また、この 51 件中、4 件において診療の一時全面停止、8 件において診療の一部停止を余儀なくされていました。

  

⑦風評被害・職員の社会生活上の不利益など 

 

 

あり:54/なし:230

約 2 割の在宅医療機関において、風評被害や職員の社会生活上の不利益が発生していました。ありと回答した 54 件のうち、45 件において実際に経営上の損害が生じ、28 件において職員の出勤に支障が生じていました。

 

⑧感染対応に伴う人的変動に対する新規雇用の発生

あり:12/なし:293

感染対策に伴う人的変動に対する新規雇用は 3.9%で発生していました。

 

【3】COVID-19 への対応のために増加した月あたりの費用

新型コロナウイルスの感染予防および制御のために在宅医療機関に生じた支出は、1 カ月あたり 316クリニック合計で約 1 億5千万円となりました。1医療機関あたり月に48万円の支出が生じていました。

 

①材料費(感染防御具、抗体検査等保険収載されていない検査材料の購入等) 6286万円

 

②人件費(時間外勤務手当、危険手当、勤務停止時の手当、新規雇用など) 4707万円

 

③設備費1:増改築工事、院内簡易工事など 2139万円

 

④設備費2・情報通信機器購入、在宅勤務や遠隔医療のためのサービスの導入 1978万円

 

合計 1 億 5110 万円

 

【4】新型コロナウイルス感染拡大の第二波以降に備えて必要と思うもの

第二波以降への備えとして、95%の在宅医療機関が個人防御具の確保を挙げました。また、診療報酬面の担保、風評被害の防止のための市民に対する普及啓発活動、教育研修用の資料やプログラムの提供も過半数の在宅医療機関が必要だと考えていました。

必要な個人防御具の確保・支給――297

COVID-19 患者の診断および療養支援のための診療報酬面の担保――223

風評被害の防止のための市民に対する普及啓発活動――206

患者・家族・施設の教育研修用の資料やプログラムの提供――171

情報共有のための ICT――148

オンライン診療の普及――146

 

 

【参照元:日本在宅医療連合学会

 

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