2021.01.26
3

【識者の眼】「新型コロナのワクチン接種の展開に向けて」和田耕治

メディカルサポネット 編集部からのコメント

国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治氏が新型コロナウイルスのワクチン接種に向けて今後大きな論点になりそうな、自治体や接種現場へのワクチンの「供給速度」について述べています。ワクチンの接種を開始している海外では、既に供給の遅れが報じられており、日本でも同様なことが起こりえるだろうとしています。必要量と供給量に差が生じた場合、どのように対応するのか、今回のワクチン接種事業を通じて、「次」の接種事業も想定したプラットフォーム作りも考えておきたいと見解を示しています。

 

筆者は2013年に厚生労働科学研究「新型インフルエンザ等発生時の市町村におけるワクチンの効率的な接種体制のあり方の検討」に関わっていた。当時の資料なども参照し、今後大きな論点になりそうなところを紹介する。

 

事業の遂行に最も影響する要因は自治体や接種現場へのワクチンの「供給速度」だ。海外のワクチンメーカーから日本への供給がどのような速度でなされるのか。現段階では供給のスケジュールは未定となっている。海外でも、既に供給の遅れが報じられている。

 

2009年の新型インフルエンザH1N1においても、自治体において必要量と供給量に差が生じ、混乱が生じた。既に英国でも2回目接種の時期を遅らせ、まずは幅広く多くの人に1回接種させる方針が報じられている。こうした議論は当然日本でも起こりえるだろう。

 

ワクチンが足りないとしたらどこの誰から接種するのか、という議論が起こりえる。そもそも供給の提供スピードが緩徐であったとしたら、現在想定されているような大規模施設である体育館などでの接種ではなく、医療機関や高齢者施設が接種の主な場となるかもしれない。

 

自然災害でも時々みられるが、例えば「○○を高齢者優先に配布」と書かれたものを自治体が受け取ったとする。普通に考えると、手っ取り早く配って、1人でも早く恩恵を受ければ良いと思うが、自治体として、対象となる人口の十分な量が集まるまでは提供を開始すらしないという考えは、まだまだあると聞く。ワクチン接種でも同様のことが起こりえるのか。

 

このワクチン接種事業は大きなチャレンジであるが、ワクチンを接種するだけでなく、プラスアルファを得られるような仕掛けができないであろうか。ワクチンに関する教育はもちろんのこと、効率よく市町村が災害などの有事に対応できるような仕組みであったり考えであったり、民間との連携などが、この機会に構築されるとよい。

 

この大規模なワクチン接種事業は、今回の1回だけやれば良いというわけにはいかないかもしれない。長期的なワクチンの効果も不明である。そのため、「次」の接種事業も想定したプラットフォーム作りも考えておきたい。

 

最後に、筆者はワクチンの効果に大変期待している。反ワクチン的なコメントも見られているが、正しい情報の共有も引き続き行っていきたい。

 

 

 

【参考文献】

▶宮村達男(監), 和田耕治(編):ワクチン. 新型インフルエンザ(A/H1NI)わが国における対応と今後の課題. 中央法規, 2011. (無料公開中)[https://www.chuohoki.co.jp/products/topic/images/3513_9.pdf]

※北海道と鎌倉市の事例にはとてもリアルな教訓が多く含まれている。

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症 ] 

 

出典:Web医事新報

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP