2020.07.01
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【識者の眼】「総合診療におけるダブルボードの意味(1)」草場鉄周

メディカルサポネット 編集部からのコメント

基本領域の専門医を2つ以上取得する「ダブルボード」に関する議論が、日本専門医機構の総合診療専門医検討委員会で行われています。ダブルボード推進の理由としては、「患者を『全人的に診る』ことが可能になる」「医師の確保が困難な地方で、少ない医師で効果的・効率的な地域医療提供が可能となる」ことが挙げられ、22日の記者会見では、実質1年程度の追加研修で取得できる枠組みが示されました。しかし、日本プライマリ・ケア連合学会理事長であり、医療法人北海道家庭医療学センター理事長の草場鉄周氏は、若手医師がダブルボードを目指すのか、安易なダブルボードは総合診療領域を弱体化させることにつながる可能性があるのではないかと考えを示しています。

 

現在、日本専門医機構の総合診療専門医検討委員会でダブルボードに関する議論が行われている。その制度設計の概要について機構の寺本民生理事長が6月22日に記者会見で発表した。その骨子は「内科基本領域の新専門医資格を取得した医師が、併せて総合診療領域の新専門医資格を取得しようとする際には、改めてすべての過程・症例を学び、経験する必要はなく、救急医療や小児医療の一部などを履修すれば、総合診療専門医の資格取得を可能とする」というもので、実質1年程度の追加研修で取得できる枠組みが示された。

 

ダブルボード推進の理由としては、「内科専門医を取得した医師が、より広範な知識・技術を身に付けることで、患者を『全人的に診る』ことが可能となり、国民もその恩恵にあずかることができる。また、医師の確保が困難な地方では、こうしたダブルボードの専門医がいれば、少ない医師で効果的・効率的な地域医療提供が可能となる」ことが挙げられた。また、その前提として、総合診療専門研修プログラムを志望した専攻医が2020年度は222名であるのに対し、内科の専攻医が2922名であることが大きく、内科領域から総合診療領域に医師を引き込もうとする意図が明確である。おそらく、総合診療専門医が機構直轄の事業であることから、登録者の少なさに責任と焦りを感じていることも容易に想像できる。

 

しかし、ダブルボードを推進することで、医師の確保が困難な地方に総合診療能力を身に付けた医師がより多く定着するという見通しは正しいのだろうか? そして、多くの若手医師がこの内科と総合診療のダブルボードを目指すのだろうか? 筆者は否と考える。むしろ安易なダブルボードは総合診療領域を弱体化させることにつながる可能性すらあると考える。

 

理由は三つ。そもそも、内科領域を専門として選ぶ専攻医の多くは漠然とした〈内科〉ではなく、循環器内科、神経内科などのサブスペシャルティ領域も含めて進路を描いている。そしてその領域において充実した研修環境で腕を磨き、患者を救いたいという熱意を持っている。もちろん15年、20年経過して、生活環境や志向性が変化して総合診療に関心を持つ方はいるかもしれないが、かなり先の話である。要はダブルボードをとるニーズそのものが若手内科医にすぐには生まれない。さらに、二つの理由は次稿で説明する。

 

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

 

 

出典:Web医事新報 

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