2021.01.25
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緊急提言!看護系大学院生・大学教員による医療現場の支援のあり方

~厚労省通知「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う医療機関等への支援について」から考える~

出でよ、看護系大学院生・大学教員たち!?

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、再び緊急事態宣言が発令されました。毎日のようにメディアでは医療崩壊の危機・病床確保困難や自宅待機感染者の急変などのニュースが流れています。

看護系大学には12月25日に厚生労働省・文部科学省より日本看護系大学協議会に「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う医療機関等への支援について」という協力依頼の事務連絡がありました。これについて、一部の大学院生や大学に勤務している看護教員がメディアで反応していました。

 

この通知がなされる以前から、発熱に関する電話相談業務やホテルでの経過観察滞在者の看護など、学業と並行して臨床に協力する大学院生がいたり、授業で使用する演習物品からマスクや手袋などの医療物資支援を行う大学がありました。通知後の反応として、1月以降の教育に影響の少ない一部の教員(助教・助手)を大学業務の一環として附属病院の看護業務の応援にシフトチェンジする大学があったり、講義や実習・試験期間であり協力が難しい大学など反応はさまざまです。

また、附属病院を持たない大学では、協力のとりまとめが都道府県看護協会のナースセンターであり、教員個人での登録となるため、条件マッチングの困難が予測されるため困惑している現状です。

 

   

当事者である大学院生・大学教員はどう考える?

メディアでは大学院生と大学教員の「学徒動員」というキーワードで騒然となりましたが、今回の通知は厚労省も大学協議会も、あくまでも「お願い・お取り計らい」レベルと補足しています。

通知を出した背景として、新型コロナウイルス感染症により、従来から問題となっていた看護師不足に拍車がかかったこと、潜在看護師の再雇用が予想以上に進まない状況から、看護師免許を持っている即戦力になるであろう大学院生と大学教員に声をかけたというところでしょう。

 

しかし、現実的に大学院生は論文審査(大学院修了)の時期であり、研究に支障をきたす状況です。また、大学教員は、オンライン授業や臨地実習の中止に伴う代替学内実習、定期試験などの業務に例年以上に労力を取られ、リモートワークで自由が利くという環境にはほど遠い現状です。

また、どれくらいの期間、どのような場所で看護師として勤務するのか、勤務後は元の大学に同じ条件で戻れるのかなどさまざまな条件が整わないままにナースセンターに登録することは困難な現状です。

 

さらに複数の大学院生・大学教員からは以下のような声が挙がっています。

・全く経験のない領域で明日から看護をしてくださいと言われても二の足を踏んでしまう

【具体的な意見】いきなり重症者対応はできない、自分にできる看護領域が選択できないと不安

・受け入れ側の医療機関の体制が整備されていなければ、派遣されてもトラブルが起きるリスクが高い

【具体的な意見】看護はチームで行い、ひとりの単独行動で完結しない

・支援に出て自分が感染した場合どうなるのか

【具体的な意見】支援に出て(コロナ)感染者の看護をした場合、大学勤務前に2週間の自主隔離(健康観察)期間が生じる

・大学を離れている間の教育を担えるだけの人材が大学にはいない

【具体的な意見】自分の仕事を肩代わりできる人材はいない、学生への教育の質の低下が不安

・研究が中断することへの不安

【具体的な意見】派遣を受け入れた大学院生は無条件で審査時期を延長できるのか、そうなった際の学費の支援を国はしてくれるのか

・大学として方針を出していかないと、教員個人では動けない現状

【具体的な意見】退職して看護師に戻るしか選択肢がない、支援後の就職や復職の保証がない

  

今一度、大学院生・大学教員の医療機関への支援について、体制を整えて開示をお願いしたいものです。同様に、現在、支援に出向いている大学院生や大学教員の現状にも耳を傾けて欲しいものです。

 

 

【提言】大学院生・大学教員の医療機関への支援体制について

では、今回の通知から見えた課題に対してどのような支援をすればいいのでしょうか。メディカルサポネット編集部が考える5つの提言を挙げてみます。皆さんの施設に大学院生・大学教員が支援に来るとして、以下の提案についてどのように考えますか?

1.ナースセンターと別窓口の開設

①大学院生・大学教員個人からのエントリー窓口

②大学等団体からのエントリー窓口

 

2.支援希望の医療機関を具体的に提示

①〇〇地域のコロナ病棟・○○地域の何床規模(または2次救急)の発熱外来・〇〇地域の訪問看護師・○○地域のデイサービスなど

②エントリーする大学院生や教員が「この分野なら応援に行くことが可能・この分野なら看護力を発揮できる」と思えるような提示と最低での勤務期間の提示 ※例:3ヵ月限定、週1日でも可・2年間契約など

 

3.エントリーし採用された場合の処遇などを提示

①現職を休職する場合の給与保証

②現職からアルバイトで対応

③給与支給割合の提示など

 

4.大学等団体は、支援可能な期間・領域などを具体的に表明

①人的支援が不可能な場合、物資の支援などが可能であれば具体的に提示する

②大学から〇分以内の場所であれば教員ローテイトで週〇日は支援可能等を検討し表明する

③支援できない場合の公表できる理由の開示(附属病院に教員は支援に回っている等)

 

5.支援中の労災(新型コロナ感染した場合)の保証を提示

①DMATなどは団体保険に自動的に加入となるため、同様の仕組みを作る

 

 

上記のように、急務として必要な場所と人を明らかにした方が、支援は行いやすいのではないでしょうか。大学院生については「支援時期」と「支援中の学業」とのバランスがあるので、所属している医療機関もしくは通学大学院関連での支援が望ましいと考えます。

 

解決の糸口が見えない看護師をはじめとする医療従事者の不足について、国もさまざまな対策を検討していることが見てとれますが、具体的な方法が提示されなければ現場は混乱するだけです。また、看護師免許があるとはいえ、臨床経験なく大学院に進学した学生や、臨床から離れて久しい大学教員も少なくありません。受け入れる医療機関側と送り出す大学側の双方がメリットを受けられるような支援体制の構築が求められますが、今、この状況下で双方にその余裕がどれくらいあるでしょうか。より深刻さを増す新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関への支援が進むことを願ってやみません。

 

 

プロフィール 

森田 夏代(看護師)
大学病院にて、主にクリティカル領域で一般職から看護管理者(病棟師長・教育専任師長)として約20年間勤務した後、一般企業や医療法人総合病院で副看護部長(看護部長代行)として勤務する。その後、大学院に進学し、看護管理の研究に取り組む傍ら、認定看護師教育センター・大学看護学科の教員として基礎看護教育と研究に従事している。看護が好きな看護管理者の育成を目指し、「キャリア中期看護師の転職支援と組織定着」を研究テーマに博士論文を進めている。

 

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