2019.12.25
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看護×IT ~進化しつづける学習ツール~

「看護×学び」で現場教育を変える! vol.3

医療現場・医療教育の現場で進むIT化。ついに「紙カルテを見たことがない」世代が生まれ、編集部はざわつきました。コラム第3回目は「看護×IT」。デジタルネイティブが医療現場で多く活躍するであろう近い将来に向けて学習ツールも大きくシフトしていっているようです。

執筆・写真/寺本 美欧(Teachers College, Columbia University)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

寺本美欧 コラム バナー画像

 

ニューヨークでは初雪が降り、街はクリスマスムードが高まっています。その分寒さも厳しさを増し、先日の最高気温は0℃! 外に出る時にはかなりの気合いが必要です。セントラルヒーティングのおかげで部屋の中は快適ですが、乾燥に悩まされ部屋の湿度計が17%になったときには慌てて加湿器を購入しました。

 

キャンパス内もクリスマスの飾りつけでにぎやか

 

◆紙カルテを知らない世代の学習方法とは?

現金からクレジットカードや電子マネーへ、手紙からメールへ、携帯電話からスマートフォンへ。急速なITの発展により、世界は想像を超えるスピードで便利な世の中に変革を遂げています。それは私たちがいる医療業界でも同様です。多くの病院では電子カルテへの移行が進み、業務においても患者認証のバーコードリーダーをはじめ、ナースコールがスマートフォンと連動するなど、ITの恩恵なしには語れません。

 

医療現場のみならず教育分野においてもITが進出しています。インターネットを用いたオンラインの学習形態である「e-learning」が、ここ数年で看護教育に導入されてきました。私は学生時代から就職後までe-learningで教育を受けてきた国内で最初の世代です。ちなみに、私は実習先病院を含め、紙カルテを見たことがなく、職場の先輩たちからは非常に驚かれました。

 

e-learningのメリットはなんといってもその手軽さです。看護技術をスマートフォンやタブレットひとつで、いつでもどこでも動画や文字で予習・復習できるというのが最大の魅力ではないでしょうか。これまで通学・通勤に重いテキストを持ち歩いたり、膨大なプリントで溢れていたり、あの技術どうやるんだっけ?と迷ったときにすぐ確認できなかったり、すべての不便さを一気に解決してくれるのがまさにe-learningです。数百を超える看護技術の手順と動画がすべて揃っており、知識確認テストもネット上で実施可能であり、まさに看護教育の変革における起爆剤であると感じました。また、大学ではe-learningを導入した最初の年だったので、先生方と学生でお互いに意見交換をしながらいかに効果的に日々の学習に活用できるかを試行錯誤していました。母校の先生方がe-learningの可能性に着目し教育環境を整えてくださったことは貴重な経験でした。

 

大学院で使用するテキストや本はこの分厚さ。リュックにいれるだけで肩がひきちぎれそうになります。

もちろんKindle版も購入できますが、個人的な好みで紙ベースの本を選択しました

 

私が現在通っているコロンビア大学でも完全オンライン化されている授業がたくさんあります。Synchronous e-learning(同期型学習)といわれるリアルタイムで行われる講義では、オンラインで視聴しながら教授や受講生とビデオカンファレンスやチャットが可能です。一方asynchronous e-learning(非同期型学習)では、事前に講義が録画されており、受講生が自分のペースで時間のある時にオンラインで受講できるというメリットがあります。それぞれにメリットがあり、自分の生活スタイルや好みに応じて世界中どこにいてもコロンビア大学の授業をフレキシブルに受講できることは素晴らしいと感じました。

 

授業の事前課題のリーディングはほとんどの論文がPDF化され、教授から送られてきます。

iPad pro と Apple pencilは必需品です!

  

授業のnote takingもすべて電子化へ移行しました。(ノートや文房具などアナログも大好きですが)

  

◆日米の学会で体感した看護・医療教育のIT化

渡米前の8月3-4日、京都で開催された日本看護学教育学会学術集会に参加しました。テーマは「未来の看護学教育を描く ―ともに創出するカリキュラム―」。数ある講演・シンポジウムの中でも西尾久美子先生の教育講演「京都花街に学ぶ人材育成」は“舞子さん”と“看護師”という意外な二つの職の共通点や人材育成法を比較することができ、心に残っています。また、出展ブースでは多くのIT関連の企業の参加が目立ちました。興味深かったのはVRを用いて認知症患者さんの体験ができたり、大手の医療系出版社の教科書がすべて電子化されていたりと時代の最先端に触れられたこと。わくわくした気持ちでいっぱいになりました。

 

 

渡米後の9月末にはニューヨークにあるMount Sinai病院のシミュレーションシンポジウムにも参加し、ここでもIT業界の発展を実感しました。e-learningはシミュレーション教育とも密接に関わっており、事前にオンラインツールでトレーニングすることでいかなる緊急事態にも備えることができると学びました。「バーチャルペイシェント」と呼ばれる架空の患者さんを相手にコミュニケーションなどのシミュレーションができるプログラムは実際にみてみるとあまりのリアルさに驚いてしまいます。 最も感動したことはVRゴーグルをつけながらACLSを体験し、実際に登場する他の医療職種と会話や薬剤のオーダーをすることができるという体験型のプログラムです。スタッフの名前と薬剤名・単位数を声にだすと連動してVR上でそのスタッフが薬剤を注入します。元々はドクター向けに開発されたものですが、看護教育にも大変需要があるそうです。

こうして国内外の学会やイベントに参加したことで、IT業界が想像以上に先を進んでいるということをひしひしと実感しています。留学中に世界各国からきた友人たちと話していると、e-learningの導入は看護の世界に限らず、どの国の企業や組織も試行錯誤しながら向き合っているということがわかりました。私自身も実際にオンラインで看護教育を受けてきた経験を大切にしたいです。現場の声に耳を傾けながら、横断的にIT業界と手を取り合い、進化し続けていく看護教育の未来が本当に楽しみです。

 

 

看護×学びで現場教育を変える! 寺本美欧 目次

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プロフィール

寺本美欧(てらもと・みお)
看護師、大学院生。上智大学総合人間科学部看護学科卒業後、都内大学病院ICU病棟に就職。その後、埼玉県の地域密着型病院脳卒中センターへ転職。2019年9月よりアメリカ・NY州にあるコロンビア大学教育大学院の修士課程に在学中。専攻は成人教育学とリーダーシップ。「すべての看護師に最高の教育の場を」をモットーに、看護師の継続教育のシステム構築を目指す。海外大学院留学記ブログ「看護師ちゅおのアメリカ大学院留学記」日々更新中。

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