2021.02.10
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新型コロナウイルス感染症に関する風評被害

~地方大学の看護系大学教員の実態~

 

編集部より

2月3日、日本医師会は定例記者会見で「新型コロナウイルス感染症に関する風評被害の緊急調査」を発表しました。調査では、主に看護師への風評被害が多く、医療機関に勤務しているというだけで、「近寄るな」「集まりに来ないでほしい」といった差別や偏見を受けている実態が明らかになりました。新型コロナウイルス感染症に関わる看護職・介護職に対する理解と支援については国を挙げて対応している点は素晴らしいことと思います。しかし、感染者が出た店舗などに対するいやがらせや看護職の勤務後のタクシー乗車拒否や看護職の子どもは保育園をお休みさせてほしい・看護職には美容院などの店舗の利用を控えてほしい等の風評被害はあとを絶たない現状です。今日は、看護系大学で起こった風評被害の1つと思われる出来事についてご紹介します。

 

監修/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)  

編集/メディカルサポネット編集部

看護系大学教員に対する保護者からの指摘とは?

地方の看護系大学に勤務する教員からの話です。

「保護者から大学に電話で、非常事態宣言が出ている地域に年末年始に帰省した教員がいると子供から聞いている。そのような教員が勤務していていいのか。子どもにはアルバイトに行かないように話したり、成人式に参加しないように注意しているのに、教員はいいのか」という意見が大学に寄せられました。

 

 

この教員は感染症看護の豊富な経験があり、移動時の交通手段の検討や帰省後の感染対策は万全でした。また、大学がある地域に戻った日から10日以上は学生と接することはない状況でした。もちろん、勤務先の上司と年末に話し合いを行い、大学の許可を受けての帰省・出勤体制だったとのことです。

 

しかし、電話後の上司の対応は「帰っていいとは言ったけど・・・帰るからこんなことになる。非常事態宣言前だったから許可したけどね。まあ、学生とは関わらない時期だからいいけど・・・」と教員を守る体制ではなかったといいます。

 

この大学は、県をまたいで通勤通学する教員や学生が多く、感染対策には厳重な注意を呼び掛けており感染者を出したことはありません。大学の管理体制として、学生や保護者に明確に回答できる体制が必要と思える出来事です。

 

そして、看護職を目指す大学で、保護者からこのような指摘を受けると教員としては非常にショックを受ける状況です。保護者の行動の理由は以下のようなことと思われます。

 

・対面授業はないが、大学に来ている学生を感染させる心配

・非常事態宣言の出ている地域からウイルスを持ち帰ったのではないかという心配

・保護者自身が介護職や看護職であるが、正しい知識を持ち合わせていない

・保護者自身が介護職や看護職で、(教員と接してはいないが)濃厚接触者になると思い込んでいる

・子どもに我慢させているのに教員は特別なのかという不満を単にぶつけたかった

・大学として統一した感染対策の具体的見解を公表していないことへの不満

 

いずれにしても保護者の方の不満や不安の矛先が、1人の教員に向いたのだと思われますが、このような出来事が地方では日々、起きているのではないでしょうか。そして、このような出来事を1回でも経験すると、地方で大学教員として看護を教授しようという志のある教員が集まらず、地方の看護の質が低下する一因となる可能性があります。

 

繰り返される歴史を前に私たちがすべきこと

10年以上前に大学病院で多剤耐性アシネトバクタ―のアウトブレイクが起きた時は、発生病棟の看護師は他部署の看護師から嫌味や罵声を浴びせられたりしたそうです。もちろんタクシーの乗車拒否などの差別発言を受けた医師や看護師がいたといいます。10年以上経過して、首都圏では応援や感謝の声が上がっても、地方はまだまだ色眼鏡でみられる現状のようです。

 

 

この出来事は、1人の教員や大学という1つの組織の問題だけではなく、このような小さな出来事の積み重ねが地域の風評被害として大きくなると考えられます。教員であっても看護の専門職であり、医療に携わる大学として、個人だけではなく組織として学生にも保護者にも、理解しやすい言葉と態度で感染対策を伝えていくことの重要性を感じる出来事です。また、大学として地域貢献を行う中で、地域住民への教育の重要性を感じる出来事です。

 

日本医師会は調査の中で、「風評被害への対応」の1つとして「周辺住⺠を対象に新型コロナウイルス感染症についての勉強会を開催し、正しい情報が広まるよう努めた」を挙げており、今回の事例はまさにそれを必要とするものと思います。丁寧な説明をし理解を求めることが、風評被害をなくす1番の近道といえるのではないでしょうか。

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