2019.12.12
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【書評】『外科感染症診療マニュアル』すべての外科医に向けた画期的なマニュアル

メディカルサポネット 編集部からのコメント

感染症内科へのコンサルテーションの中で頻度が高いのは、外科医からの紹介だと言います。「外科医が日頃より何を疑問に思い、何を知りたいか」をヒアリングし、外科感染症のスタンダードな考え方をまとめています。実践的でユーザーフレンドリーな外科医のための感染症マニュアルです。

 

【書評】『外科感染症診療マニュアル』すべての外科医に向けた画期的なマニュアル 【書評】『外科感染症診療マニュアル』すべての外科医に向けた画期的なマニュアル

  

  

巻頭の絹笠祐介先生による推薦文がこの本の真の価値と意義を的確に表現している。「(大曲貴夫先生から倉井華子先生へと引き継がれた)感染症チームの存在は、我々(評者注:外科医)が手術を行う上で必須でした」「是非本書を参考にして、患者さんのためにも、より良い手術成績をめざして頂きたく思います」。感染症内科医の立場で、外科医からこのような賛辞を頂けることは、これ以上なくとてもうれしいことではなかろうか。

 

「血液培養を採って下さい」「この患者さんにカルバペネム系抗菌薬は必要なのでしょうか?」。このような介入によって、しばしば、感染症内科医、AST、ICTは多忙な外科医にとって煙たい存在と思われてしまうこともある。しかし感染症内科医と外科医の本来の目標は同じであり、患者さんの感染症をできれば予防し、生じれば速やかに診断し、的確に治療することに他ならない。もし静岡がんセンターのような感染症チームが存在すれば、外科医は本業である手術に集中でき負担も軽減されるのである。

 

ところがこのような成熟した感染症チームが存在する病院は日本ではまだ稀有であろう。本書はそのために生まれた新しい位置づけの画期的なマニュアルだ。忙しい外科医の先生方が理解しやすいように意識されて編集されていることがわかり、編者の熱い思いが伝わる。各項目が大変に読みやすく、簡潔に、箇条書きでまとめられているが、ぜひすべての外科医の先生にまず第1~3章を通読して頂きたい。感染症内科医やAST、ICDと思いが通じやすくなるはずだ。それから各専門領域を読み進めてみてほしい。そうすれば、静岡がんセンターのような感染症チームがなくても、それなりに外科医の負担が軽減され、より良い手術をめざして執刀に専念できる状況の一助となるはずだ。

 

しかし本書の最大の特徴は第4章の「手術別の感染症」と第6章の「外科患者のワクチン」ではないかと思う。各領域別感染症についてこれほど分野別に簡潔にまとめた感染症マニュアルは初めてだ。また外科患者のワクチン接種についても重要であるがしばしば忘れられてしまう。これらの項目において常に拡大、アップデートを心がけている拙著の『感染症プラチナマニュアル』も先手を取られてしまった感がある。そして第4章や第6章は外科医ではなく、感染症内科医や病院総合医にも有用な内容であろう。まだまだ書きたいことが尽きないが、本書を多くの外科医を中心に感染症に関わる他職種に広くオススメしたい。

 

   

編著:伊東直哉(静岡県立静岡がんセンター 感染症内科 副医長)

倉井華子(静岡県立静岡がんセンター 感染症内科 部長)

 出典:Web医事新報

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