2019.11.29
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耳に付けない新発想の“対話支援機器”で対話を(comuoon)

【 医療テックPlus+】第7回/ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社

【 医療テックPlus+】第7回 卓上型対話支援機器「comuoon」 ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 ~耳に付けない新発想の“対話支援機器”が難聴者や高齢者との対話を実現~

 

編集部より

世界初の耳に付けない対話支援機器「comuoon(コミューン)」が、「難聴に悩む人々を支える機器=当事者が耳につけるもの」という常識を変えようとしています。comuoonの特徴は話し手側も機器を利用し、「伝える側」から難聴の人々をサポートする点です。医療機関や介護施設、自治体などで約1万台導入され、最近は認知症予防への効果も期待されています。comuoonを開発したユニバーサル・サウンドデザイン株式会社代表取締役の中石真一路さんに、起業の経緯やこれからの展開について聞きました。

 

取材・文/秋山健一郎

写真/穴沢拓也(株式会社BrightEN photo)

編集・構成/メディカルサポネット編集部

    「コミュニケーションに悩むご家族を支えたい」が原点 

    取材の冒頭、ICレコーダーのスイッチを入れようとすると中石さんが「今日の音声はきれいに録音できるはずですよ」とほほ笑みました。ほどなくして小さな卵型のスピーカーから聞こえてきた声は、実にシャープで明瞭。言葉がすっと脳に入り込んでくるような心地よさがありました。

     

    スタンダードモデル「comuoon SE」 携帯モデル「comuoon mobile」

    卓上にマイクを置いて話すスタンダードモデル「comuoon SE」(左)、窓口の音声対話に特化した携帯モデル「comuoon mobile」(右)

     

    ――音の輪郭がはっきりしていてとても快適ですね。まず、御社の設立、コミューン開発の経緯から聞かせてください。

     

    中石真一路さん(以下、中石)僕は小学生の頃からピアノを習ったり、その後はバンドを組んだりと音楽に親しみ、カーオーディオマニアでもあったんです。専門学校の頃から、カーディーラーの仕事に就いていた父を手伝ってはお小遣いをもらっていました。専門学校を卒業後、いくつかの企業を経てレコード会社に転職し、50周年の新規事業としてスピーカーシステムのプロデュース企画に携わることになりました。その中で電子ガジェットを研究している慶応義塾大学SFCの武藤佳恭先生と運命的な出会いがありました。先生の開発されたスピーカーでの検証中に難聴の方が来られて「聞こえやすい」と言われたとお聞きしたのです。以前から祖母や父が聞こえで悩んでいる姿を知っていたので、この技術でなんとかしてあげられないかと考え始めました。

     

    インタビューに答えるユニバーサル・サウンドデザイン代表取締役の中石真一路さん

    「東日本大震災で難聴の人が逃げ遅れたと聞き、研究を再開した」と振り返るユニバーサル・サウンドデザイン代表取締役の中石真一路さん  

     

    ただ、当時は会社員でしたし、自分でプロダクトまでつくろうとは思っておらず、研究として「聞きとりやすい音とは」「小さな電力で音を遠くに飛ばすには」などの研究をしていました。2010年頃のことです。でも、しばらくすると研究は打ち切られてしまって。その直後に東日本大震災が起きました。あの日、警報がちゃんと伝わらず、逃げ遅れてしまった難聴の方もいたと聞きました。「研究がうまくいっていれば、そういう人たちを救えたのではないか…」と思ったんです。それで、会社に研究を再開させてもらえないか直談判しました。

     

    ――結果はどうだったのでしょうか?

     

    中石当時の会社は経営統合の話が進んでいたことなどもあり、うまくいきませんでした。それで「自力でやるしかないと」と腹を決めたというわけです。当初はNPO法人での展開も考えたのですが、結局は会社を立ち上げることにしました。

     

    ――ビジネスとしての算段はどの程度たっていたのでしょう。

     

    中石:集音器などに対する利用者の満足度が高くないことはわかっていたので、新しいものへのニーズはあると思っていました。ただ、comuoonは話し手側がマイクとスピーカーを通じて難聴者に届ける音声をつくりだす製品ですから、集音器とは全くの別物です。似たシステムはチケット売り場のようなところにはありましたが、聞こえにくい人をサポートする製品としては非常に変わったもので、受け入れられるかは未知数でした。でも、試作機をつくって病院の窓口で使っていただくと良い反応をいただけたんです。それで、時間はかかるかもしれないけれどやってみようかなと。 

     

    ――海外には似た製品はあるのでしょうか。

     

    中石:海外には、発想として近いものはあります。「サウンドフィールドアンプリフィケーション」と言います。ただ、comuoonみたいに少人数で使うためではなく、教室のようなところである程度の人数に対し良い“聞こえ”を提供しようというものなんです。教師の英語のなまりがある場合に聞き取りにくさをフォローするためのものらしいです。言葉を発する側が配慮しようという考え方は同じなのですが、comuoonは音を大きくして相手に届きやすくするのではなく、「音質をクリアにして」届きやすくするものなんです。「サウンドフィールドクラリティ」と私は呼んでいます。

     

    ――では、いかに音をクリアにするかが技術的な強みになっているわけですね。

     

    中石:聞き取りやすいのは、大きな音ではなく高級オーディオで実現しているようなピュアな音質です。これまで難聴者の方はそういう音質については認識が難しいと考えていたのですが、検証を重ねていくと、逆に「音

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