2020.06.30
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ニューヨークの変貌とハーレムへの想い
~6月19日の奴隷解放日に寄せて~

「看護×学び」で現場教育を変える! vol.9

新型コロナウイルス感染症が再び拡大をみせるアメリカで、5月に起きた警察官による痛ましい事件を機に抗議デモが連日各地で行われています。人種のるつぼと言われ、多種多様な人たちを受け入れているニューヨークでも、抗議デモが盛んです。アメリカにおける人種差別問題の根深さを改めて感じる一方、私たちも自身の行動を振り返り、本質をとらえず潜在的なイメージで行動していることがないか、と寺本さんは警鐘を鳴らします。1方向だけでものごとをとらえるのではなく、あらゆる角度から見ることで違う景色が見えてくる。これは人種問題のみならず、人と接する医療従事者においても言えるのではないでしょうか?

執筆・写真/寺本 美欧(Teachers College, Columbia University)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

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日本に一時帰国して早3ヶ月が経ちました。春学期が終わってからは久しぶりに臨床現場に復帰したり、2社でインターンをしたりと忙しくも充実した毎日を送っています。思わぬ一時帰国でしたが、その悔しさを跳ね返すくらいの夏を過ごそうと思っています!

 

◆アメリカの歴史に残る抗議デモ 

寺本美欧 コラム 看護師 ニューヨーク マイナビ メディカルサポネット

ついこの前まで周りから「コロナ大丈夫?」と心配してもらっていたのが、最近では「暴動大丈夫?」と聞かれることが増えています。連日ニュースで目にする抗議デモの様子。これは歴史に残る事件だとみんなが口を揃えて言っています。525日、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏が警察官によって殺害された事件。生々しい動画が瞬く間に世界中に拡散され、世界中で抗議運動が行われました。これは、黒人に対する人種差別の撲滅や権利向上を訴えるムーブメント「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター/黒人の命も価値がある)」というスローガンのもと行われました。一時帰国で日本にいる私は、テレビやインターネットで切り取られた数十秒の映像からしか情報が得られなかったものの、怒りが沸点に達した人々の「増悪」が過激化している様子に胸を痛めていました。おしゃれなショッピング街のソーホーで窓ガラスが割られてしまったり、商品が持ち去られてしまったりと、怒りの方向が間違った形で現れてしまっているのを目にすると、新型コロナウイルスに打ち勝とうとしている大好きなニューヨークの変貌にとても苦しかったです。

ニューヨークにいる友人から送られてきた街のデモの様子。こちらはpeaceful marchといって列になって行進しながら行われる平和的な抗議運動です。

  

◆無意識に加担していた人種差別

私が通っているTeachers Collegeは、マンハッタンの北部に位置する、アフリカ系アメリカ人の文化とビジネスの中心地となっているハーレムに隣接しています。ニューヨークのガイドブックを見ると「治安が良くなってきているが、やはり注意が必要」と書かれているエリアです。キャンパスを出て一歩路地を曲がるとハーレムなのですが、初めて通るときは日中なのにいつもより緊張して警戒心を高めていました。路上に座っているホームレスや、集団で話している人々を見かけると無意識にぐっと全身に力が入りました。そして、極力遠回りをしてでもハーレムは避けるように移動するようにしていました。

 

しかし、大学院のカフェテリアで開催されたハーレムのフードフェスティバル “A taste of Harlem”に参加したことをきっかけに、自分の見方は大きく変わりました。無料で少量ずつビュッフェスタイルで試食ができるというイベントで、店員さんたちの明るさや気前の良さ、そして様々なおかずやデザートに舌鼓を打ちました。感動した反面、今までハーレムに対するイメージは自分が勝手に創り上げたものだと痛感しました。明るく、フレンドリーなコミュニティの一面を見ようともせず、「怖い」と決めつけ、近づこうとしなかったことに、「無意識化での人種差別」に加担してしまっていたと思います。

 

寺本美欧 コラム 看護師 ニューヨーク マイナビ メディカルサポネット A taste of Harlemにはさまざまなお店が出店していてとても賑やか。おかずやデザートなど無料なのでお腹いっぱいいただきました。

A taste of Harlemにはさまざまなお店が出店していてとても賑やか。おかずやデザートなど無料なのでお腹いっぱいいただきました。

 

◆自分自身の潜在的イメージを意識化させることの大切さ

また、もう一つ私の考え方を変えるきっかけとなったのが、同じく大学院で開催されていたキング牧師のスピーチコンテストです。予選を通過した4名のアフリカ系アメリカ人の学生がそれぞれスピーチを披露したのですが、あまりの迫力と悲痛な声に涙がでそうになってしまったほどでした。「魂の叫び」という表現はここで使うものだと思えるほど、それぞれのスピーチはまっすぐに届いてきました。他国や他人種の声に直接耳を傾けることができるのは留学をしているからこそ経験できる貴重な機会だと感じました。また、留学をしていなかったらここまで「相手を知ろう」というきっかけすら見つけることができなかったかもしれません。


2月に開催されたキング牧師のスピーチ大会はとても印象に残っています。

 

ちょうど6月19日はJuneteenth(ジューンティーンス)といって、アメリカのすべての奴隷が解放されたことを祝う日です。大学院では学長からのメールをはじめ、オンラインで在校生向けにイベントが開催されました。この日は、SNS上にもクラスメイトが様々な思いを投稿しており、自分が一方向からしか見えていなかったものを様々な角度から考えることができました。

 

これらの経験から、自分の目で見たもの、食べたもの、聞いたものよりも、潜在的に思い込んでいたイメージを信じている自分に気がつきました。なぜ「危険、怖い」というイメージがあったのだろう?なぜもっと耳を傾けなかったのだろう?そもそも自分はどんな風に周りからみられているのだろう?すでに自分は知っていると思っていることに対して、「果たして本当にそうなのかな?」と意識化させて問いを生み出すことが大切だと感じました。ハーレムのジャズも、ゴスペルも、レストランもまだまだ満喫できていないのでこれから経済活動再開後に楽しめる日を心待ちにしています。

   

ハーレムにある協会。本場のゴスペルを聴くのが夢です!

  

     

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プロフィール

寺本美欧(てらもと・みお)
看護師、大学院生。上智大学総合人間科学部看護学科卒業後、都内大学病院ICU病棟に就職。その後、埼玉県の地域密着型病院脳卒中センターへ転職。2019年9月よりアメリカ・NY州にあるコロンビア大学教育大学院の修士課程に在学中。専攻は成人教育学とリーダーシップ。「すべての看護師に最高の教育の場を」をモットーに、看護師の継続教育のシステム構築を目指す。海外大学院留学記ブログ「看護師ちゅおのアメリカ大学院留学記」日々更新中。

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