2019.11.13
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看護師でトランスジェンダー当事者が伝える配慮の仕方

【vol.1】医療現場の多様な性を考えよう―患者がLGBTだったら、どう対応する?

日本人の11人に1人がLGBT層―。電通ダイバーシティ・ラボが6万人を対象に行った「LGBT調査2018」では、LGBT層の該当者は8.9%でした。単純計算で、外来患者が50人いれば4人はLGBT層だと推測されます。医療現場では、多様な性への視点を持つことが治療法の選択や患者のQOLを考える上で大切なポイントになります。この特集では、LGBT患者が医療現場で直面する困難や、医療従事者に求められる対応について、医療従事者と患者それぞれの視点から迫ります。今回は、トランスジェンダー当事者で看護師の浅沼智也さんに、医療現場でのLGBT患者への配慮の仕方を聞きます。

取材・撮影・編集・構成/メディカルサポネット編集部

医療現場の多様な性を考えよう患者がLGBTだったら、どう対応する?

 

医療現場で認識されているLGBT患者は少ない!?

 

LGBTとは、Lesbian(レズビアン/性自認が女性で恋愛対象も女性)、Gay(ゲイ/性自認が男性で恋愛対象も男性)、Bisexual(バイセクシャル/恋愛対象が女性にも男性にも向いている)、Transgender(トランスジェンダー/出生時に割り当てられた性別と性自認が一致しない。あるいはどちらの性別にも違和を感じる)の頭文字を取った性的少数者を表す言葉です。


近年、LGBT当事者であることをオープンにして生活している人や、パートナーシップ制度を導入する自治体が増えています。しかし、石川県立看護大学の三部倫子講師が2019年に看護部長約900人を対象に行った調査「LGBTの患者対応についての看護部長アンケート」では、「LGBT患者の入院はない」「患者は高齢者が多いためあまり気にしたことがない」といった意見が見られました。
「LGBT調査2018」によるとLGBT層の該当者は8.9%ですが、医療現場で認識されているLGBT層の数はもっと少ない可能性があります。その理由の一つとして、精神疾患や発達障害、依存症などの複合的な問題を抱えるLGBTQ当事者をサポートする自助グループ「カラフル@はーと」の共同代表で看護師、トランスジェンダーの浅沼智也さんは、「医療機関を受診することに、ハードルの高さを感じているLGBTの人は多い」と指摘します。

 

浅沼智也(あさぬま・ともや)LGBTQ当事者の自助グループ『カラフル@はーと』の共同代表

浅沼智也(あさぬま・ともや)
1989年生まれ。トランス男性(FtM/身体的には女性だが性の自己認識は男性)。女子短期大学の看護専攻で学び、卒業後は大学病院に勤務。23歳で性別適合手術を受ける。現在も看護師として働きながらLGBTQ当事者の自助グループ『カラフル@はーと』の共同代表として活動を行う。LGBT患者への院内対応マニュアルの作成や医療従事者の相談にも応じている。

 

実例で紹介! LGBT患者が感じる受診までの3つのハードル

 

医療機関を訪れる際、LGBT患者が感じるハードルは大きく分けて3つあるそうです。浅沼さんが、受付・待合室・診察の3場面でよく起こるケースを紹介します。

 

ハードル1/受付

「初診の外来受付ではまず保険証を提示しますが、その場面で特に困難を感じるのが、性自認と戸籍上の性とが異なるトランスジェンダーです。例えば、性別適合手術を受けていないトランス女性(MtF/身体的には男性だが性自認は女性)の場合、見た目は女性らしくても保険証の性別欄には、戸籍上の性別である『男性』が明記されています。受付の方は、戸惑うかもしれません」

 

トランスジェンダーの患者では、戸籍上の性別と外見からイメージする性別が異なる場合がある。

トランスジェンダーの患者では、戸籍上の性別と外見からイメージする性別が異なる場合がある。

 

「女性なのか、男性なのか。医療安全上、性別の確認を行うことは自然な流れだと思います。この時に留意してほしいのは、本人確認のやり取りを他の患者の耳に入らないようにすることです。トランスジェンダーは見た目の性別と戸籍上の性別が違うこともあるため、周囲の人々からの奇異な視線を恐れます。周囲に聞こえないよう小声で話したり、筆談でのやり取りを心がけてもらえたりすると安心できます。また、問診票の性別欄でどちらの性に〇を付ければいいのか悩む当事者も多く、最近では『その他』という選択肢を設けたり、性別欄自体を削除している医療機関もあります。性同一性障害・性別違和やトランスジェンダーの人の被保険者証の表記は、表面の性別欄に表記せずに『裏面参照』と記して裏面の備考欄に戸籍上の性別を表記することが認められています。通称名の記載も認められています」

 

ハードル2/待合室

看護師が待合室にいる人たちに向かって「マイナビ花子さん、1番の診察室にお入りください」とフルネームで呼びかける光景はよくありますが、浅沼さんは「アナウンスの際にも配慮してもらいたいポイントがあります」と話します。「例えば、男性らしい名前で呼ばれて立ち上がった人の見た目が女性的だったら、他の患者さんも驚いて思わず見てしまいますよね」

 

患者をフルネームで呼ぶ代わりに、苗字や通称名、番号などで呼ぶ配慮をしている医療機関も増えている。

患者をフルネームで呼ぶ代わりに、苗字や通称名、番号などで呼ぶ配慮をしている医療機関も増えている。

  

「そこで、受付でトランスジェンダーの患者を対応した医療事務員には、診察室の看護師や医師にも情報共有をしてもらいたいです。ただし、その際は患者本人の了解を必ず得ること。そうでないと、アウティング(本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認などの秘密を暴露する行動のこと)になってしまいます。事前に情報共有ができていれば、通称名で呼んだり、受付時に番号札を渡して『1番の方』などと呼んだりすることができます。トランスジェンダーの患者に向けられる視線へのストレスも軽減します」
前述の調査「LGBTの患者対応についての看護部長アンケート」によると、外来患者を「フルネームで呼び出す」と回答したのは47.2%、「姓だけで呼び出す」「番号で呼び出す」などと答えたのは49.6%で、呼び出し時に配慮をしている医療機関の割合の方がわずかに上回っています。

 

ハードル3/診察

診察室に入ってからは、問診での言葉選びに配慮が求められます。
「例えば、性感染症などの診察で性的パートナーの有無を確認する際に『彼氏・彼女はいますか?』と聞いたり、生殖器に影響のある治療を検討する場面で『結婚の予定はありますか?』と尋ねたり。このような異性愛を想定した聞き方は、LGBT患者にとって答えにくいものです」

 

異性愛を想定した表現の「彼氏・彼女」を「パートナー」に変える、LGBT患者は答えやすいという。

異性愛を想定した表現の「彼氏・彼女」を「パートナー」に変えると、LGBT患者は答えやすいという。  

 

「それらの質問は、『パートナー』など性別を限定しない聞き方に変更できます。また、トランスジェンダーの場合は、性自認と身体的性との性差を認めたくない人もいるため、カルテが患者に見えないように心掛けてもらえるといいと思います。LGBTの患者を診察する上で大切なのは、LGBTについて正しい理解をして治療に必要な情報を得るために聞いている、ときちんと伝えることです。
LGBT患者の中には、周囲の人の理解不足からいじめや社会的な排除を受けてきた人も少なくありません。そのような経験から、医療従事者が問診でパートナーの有無を尋ねても、興味本位でセクシャリティを詮索されていると勘違いされる場合があります。質問する際には、『いつから症状が起きているのか原因を見つけるために聞きます』『妊娠に影響が出る治療薬を選ぶか判断するために聞きます』『面会や病状説明をする人を知るために聞きます』といった理由を説明してください。
これらの工夫はカミングアウトを想定しての対応ですが、もちろん全てのLGBT患者がカミングアウトするわけではありません。たとえカミングアウトしなくても、『当たり前』とされているものが誰にとっても『当たり前』なのかを疑い、偏見や先入観を持たずに患者や疾患の背景を知ろうとする医療従事者としてのプロ意識を忘れないでもらいたいです」

 

 

LGBTへの対応ポイント

 

患者から信頼される医療従事者の対応とは?

 

LGBT患者への配慮がある病院も着実に増えているようです。浅沼さんは、友人の入院先での体験を語ってくれました。
「僕の友人のトランス女性(身体的には男性だが、性自認は女性)は、入院先で性自認と異なる共同部屋に入ることになりました。彼女は男性患者に囲まれた環境に恐怖を感じ、終日ベッドのカーテンを閉め切っていたそうです。ある時、わずかにカーテンが開いていたことに気付いた看護師は、周囲から見えないようしっかり閉じ直してくれたと言います。また、他の同室患者がいない時を見計らって話しかけるなどしてくれ、次第にその看護師へ信頼を寄せるようになったそうです。別の医療機関では、トランスジェンダーの入院患者に配慮して、同室患者から詮索を受けにくい重度認知症や重症患者向けの病室に入れたという話を聞いたこともあります」
言葉だけでなく、行動でも理解を示すことが、医療従事者とLGBT患者の信頼関係を築くきっかけになりそうです。

 

「院内にレインボーカラーのフラッグやシールを掲出すると、LGBTに理解があることが伝わりやすいです」と話す浅沼さん

「院内にレインボーカラーのフラッグやシールを掲出すると、LGBTに理解があることが伝わりやすいです」と話す浅沼さん

 

医療従事者の中には、LGBT患者に対応したいと思いながらも、どう意思表示をしたらいいか迷っている人もいるかもしれません。浅沼さんもよく医療関係者から「LGBTに関する知識は乏しいのですが、レインボーカラーを掲げていいでしょうか?」と質問されるそうです。浅沼さんは「もちろん」と答えると言います。また、迷っている人に向けてこうアドバイスします。
LGBTの象徴であるレインボーカラーのフラッグやシールを院内に掲出することで、理解を示す方法もあります。患者にとっては、そういったグッズがLGBTフレンドリーな医療機関かどうかを知る手がかりになるので、遠慮せずに置いてください」

 

浅沼さんによると、LGBT患者が受診をためらいがちなのは、婦人科や泌尿器科といった生物学的性や性的指向が大きく関わる診療科だそうです。自らの性的指向への説明を求められる可能性や、婦人科なら女性ばかりの待合室に入る抵抗感、乳房や性器を見られる精神的苦痛などがあるためです。また、性別違和や、家族・職場・地域コミュニティーでの疎外感などからうつ病を発症したり不安障害を抱えたりして向精神薬を服用しているLGBT患者も少なくないと言います。浅沼さんは、「トランスジェンダーの患者であれば、ホルモン療法をしている可能性を視野に入れてください。ホルモン療法は自由診療であるため、安価なホルモン剤をインターネットで個人輸入して服用している人もいます。個人差はありますが、適量を超えた服用で肝機能障害や血栓症、糖代謝異常などのリスクが増大しているケースもあります」と強調します。

 

 LGBT層に配慮した現場は職員にとっても働きやすい

 

今年8月、看護助手の女性が性同一性障害で性別変更したことを勤務先の病院で同意なく明かされ、同僚らの差別的な言動に精神的な苦痛を受けたとして、病院側に慰謝料などの損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。多様な性への理解は患者だけでなく、職員に対しても求められます。

浅沼さんは「僕の周りのLGBTの人の中にも医師や薬剤師、看護師など医療従事者は少なくありません。性的マイノリティーとしての将来を考えて、専門職を選んだという人もいます」と明かします。「皆さんの同僚にもLGBTの人がいるかもしれません。僕も以前勤めていた病院の医師から『おなべなんだって?』と心ない言い方をされたことがありますし、看護師同士で『オネエみたいな患者が来た』と話しているのも聞いたことがあります。LGBTだけを特別視してほしい訳ではなく、障害者や外国人といったさまざまなマイノリティーの人たちへの視点と優しさを忘れないでほしいと思っています。他者を尊重できる職場なら、より個々が働きやすくなるはずです」と呼び掛けました。

 
LGBT患者に配慮した職場は他者に想像をめぐらせることが多く、介護や子育てなどの制約のある働き方をする職員にとっても働きやすい場所と言えそうです。さまざまなマイノリティーに配慮する姿勢は、これからの「働きやすい職場」をつくる上で欠かせないポイントの一つとなっていくでしょう。

 

⇒⇒⇒(vol.2に続く)

メディカルサポネット編集部
(取材日/2019年9月12日)

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