2020.04.20
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【新型コロナウイルス感染症】ニューヨークの医療の現実 
~CICUで働く日本人ナースが直面していること~

新型コロナウイルス感染症は拡大を続け、4月19日現在、国内の感染者数は1万人、死亡者数は224人にのぼっています。アメリカでは4月19日、ついに感染者数72万人を超えました。中でも、ニューヨーク州では感染者23万人・死亡者は1万2千人となり、アメリカの中でも最大の割合を占めています。
この状況下の中、最前線で働く医療従事者は何に葛藤し、何を支えに日々を過ごしているのでしょうか?4月7日、ニューヨーク州マンハッタンにある病院のCICU病棟に勤務する日本人看護師の恵子さんが、その切実な日々の勤務の状況を教えてくださいました。心身共に疲弊していく中、ご家族のサポートによってなんとか踏みとどまっている様子が伝わってきます。
これまでに経験したことのない事態に、日々医療従事者へのエールが送られていますが、一方でこのような現実に直面している医療従事者が多くいることも私たちは理解しなければなりません。

編集/メディカルサポネット編集部

   

■ピークの只中にあるニューヨーク、自身が勤務するCICUからの生還者は2人

 

ニュースでいろいろなことが報道されていますが、私も家族も健康には守られて毎日元気に過ごしています。あまりよくないことを伝えることは控えようと思ったのですが、今の現実、医療関係者として私が直面していることをお伝えします。今の現実を知ってもらうことで、今後、日本でも同じことが起きるかも知れないということも理解していただき、外出自粛などを積極的に進めていってもらえるとアメリカのような状況は防げると思います。

 

4月7日の時点で、ニューヨーク州における新型コロナウイルス感染症患者さんの死亡者数が合計5,489人になりました。毎日激増し、昨日(4月6日)1日での死亡者数は過去最多の731人に上りました。上昇のスピードはまだ衰えておらず、今後2週間後あたりにピークが来ると言われています。

重篤患者さんの増加に伴い、私の病院ではICU病棟が70床以上にまで増やされましたが、CICUから生きて出られた患者さんは今のところ2人だけです。高齢の患者さんも多くいますが、若くて既往歴の全くない健康な30歳代、40歳代の重篤な患者さんも増えており、「自分は若いから大丈夫」ということは新型コロナウイルス感染症に関しては通用しない恐ろしさがあります。

 

■多すぎる重篤患者さんへの対応は、看護師に看取る時間すら与えない

 

昨日の時点(4月6日)で、私が勤務する病院システム内で入院している新型コロナウイルス感染症の患者さんは1,982人、そのうち後遺症があるにしても、自宅または施設へ退院した数は1日でたった72人。多くの方が亡くなっています。こんなに多くの死を見たことがありません。毎日多くの方が亡くなるので、ご遺体を包む袋、納体袋も不足しています。また、霊安室はご遺体が山積みになっていて、ご遺体をフォークリフトで霊安室から運んで外の駐車場にある仮設の冷蔵庫トレーラーには運ばれていて、それを見た人たちがショックを受けています。

 

2日前、関連病院のICU看護師が足りず、私が助っ人に行きました。その日、30床のその病棟で、私の12時間勤務内に7人の方が亡くなりました。そのうちの2人は私の患者さんでした。私の患者さんはみんな重篤で、助かる見込みがないということで、安楽死をすることになり、私は自らの手で2人の人工呼吸器のスイッチを切りました。

2週間前にも同じく、私の手で人工呼吸器のスイッチを切ったことがあったのですが、その時は家族と離れて1人ぼっちで孤独に死を迎える患者さんの手を握って患者さんの息が途切れるまで一緒にいて、お見送りをしました。しかし、2日前はあまりにも他にも多くの重篤な患者さんがいたので、人工呼吸器のスイッチを切っても看取る時間もなく死を迎える患者さんを置いて、私は泣きながら次の患者さんの所へ行かなくてはいけませんでした。本当に悲しいことです。もう、ここは戦場で人間の尊厳はありません。戦争中もそうやってみんな、孤独に死んでいったのでしょうね。

 

助かる人が少ない中で、無事に退院する患者さんがいることは私たちに希望を与えてくれます。今では、退院患者さんが出ると、館内放送でビートルズの「Here comes the sun」の歌が流れてみんなが拍手をして、喜びを与えてくれます。

 

 

   

■懸念される医療従事者のPTSDと24時間体制で進む心のケア

 

今、医療従事者の中では今後、医療従事者のPTSD(Post Traumatic Stress Disorder、心的外傷後ストレス障害)の可能性が懸念されています。

私たち、医師や看護師は患者さんの命を救うことが仕事なのに、今回の新型コロナウイルス感染症のことでは、どんなに頑張っても命を救うことができずに、一日に多くの命が失われていくので、誰もが精神的に病んでしまいそうです。

病院内には多くの精神科医、臨床心理士などが24時間待機して、医療従事者の心のケアも行っています。

 

1995年の阪神淡路大震災の時ことを以前に新聞で読んだことがあります。当時、看護師たちは自分の家が燃えていようと、泣きながら病院に向かって看護をし、その後、多くの看護師が精神的に病んでしまい、看護の仕事を去った、と。私たち、看護師はどんなに悲しくても、辛くて仕事に行かなければいけません。この仕事を選んでしまったからには、その責任を果たさなくていけません。

 

私の同僚も、子供が怖がって泣きながら「お母さん、もう、お仕事にはいかないで」と言っても、泣く子供を置いて仕事に来ています。年老いた両親と同居する同僚や小さい子供のいる同僚は家族に感染させてはいけないので、家には帰らずにホテル暮らしをする人が多くなりました。その数が増えたため、ニューヨーク市内のホテルが無料、または無料同然で部屋を医療従事者に提供しています。

 

■深刻な看護師・医師不足解決への解決策「にわかICU看護師」への警鐘

 

私たち医療従事者も大変厳しい状況に置かれていますが、多くの市民の生活も厳しくなっています。自宅待機やレストランやカフェ、お店などが閉まってしまい、仕事ができなくて破産してしまう、スモールビジネスが激増しています。罪もないのに、新型コロナウイルス感染症の件で仕事がなくなり苦しんでいる人が沢山いて、その人たちとその家族のことを思うと涙が止まりません。

 

ご存知のように病院のベッドが足りず、コンベンションセンターや海軍の船が病院として新型コロナウイルス感染症の患者さんを受け入れ始めましたが、今最も深刻なのは看護師、医師不足です。特に重症患者さんを看護するICU看護師が不足して、私たちICU看護師は通常の2~3倍の量の患者さんを受け持っており、同僚たちもオーバーワークで次々に体調を崩していっているので、これからは体力と気力の勝負となってきました。

 

深刻なICU看護師不足を受けて、ICU看護師としての特別な訓練を受けていない一般病棟や、小児科、リハビリの看護師たちを半日のトレーニングで「にわかICU看護師」にするという、無茶なことも始まりました。飛行経験の全くない素人をにわか訓練でいきなりパイロットとして乗客を乗せて飛行機を飛行させるのと同じような、無茶な考えですよね。非常事態とは言え、患者さんの安全を考え、質のある看護を行はなくてはいけないので、看護の質の低下と安全性が心配です。もしかしたら、私たちも患者さんの死に加担しているかも知れません。とても残念です。

 

看護師、医師不足を解決するために各州で、免許を持っていて今は臨床で働いていない看護師や医師のリクルートも始まり、定年退職した看護師や医師にも現場に戻ってきてもらえるようにしています。最悪の場合、看護学生や医学生の導入もバックアッププランとして考えられています。

 

■予防こそがニューヨークを救う

医療従事者の不足もちろんのことながら、人工呼吸器やその他の医療器具の不足も深刻な中で、この状態が続けば患者さんのトリアージをして、助けられる命を選択して治療を行っていかなくてはいけないことになるかも知れません。それだけは避けたいと願っています。

患者さんの看護を通して見えない敵、新型コロナウイルス感染症の怖さを見せつけられていますが、問題なのは効果的な治療がないことで、今は、防ぐことだけが多くの人の命を救うことにつながっています。日本でも、医療関係者が日本でも数週間後にアメリカのような状況になってしまうこともあるかも知れない、と言っておられますが、確かにその危険はあるかも知れません。ですから、今、一人ひとりができること、他人事とは思わずに外出自粛、自宅待機などを守っていくと、アメリカのような状況は防げると思っています。

 

私はオーバーワークで心身共にかなり参っていますが、家族のお陰で身体にも精神的にもとても守られています。職場まで車で送り迎えをしてくれたり、家に帰れば美味しい手作りの夕食が用意されています。夕食後は1日中立ち仕事の私をねぎらって、フットマッサージもしてくれます。

 

ニュースからは伝わらない、今の現実について色々なことを書きましたが、家族が守ってくれるので絶対に乗り切れると思います。

  

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