〈失敗事例から学ぶ〉ストレスチェック第3回：高ストレス者の言う通り！

事例の説明

ストレスチェックの高ストレス者面談で，上司からパワハラを受けていることを相談された産業医が，相談されたことをそのまま鵜呑みにしてしまい，そのことを人事に伝えたのですが，実はどうやら面談した対象者のわがままだったようです。結果的には対象者のわがままを産業医が助長してしまった，という事例です。部下の言い分だけで判断された上司側もたまったものではありませんし，高ストレス者面談で産業医に文句を言えば，それが通ると思われても，困りますよね。

失敗の2つの原因

1 一方だけの意見を鵜呑みにしてしまった

この事例では，産業医は，対象者の言うことを一方的に信じてしまっています。しかし，高ストレス者面談というのは，えてして，組織・職場に対する不満がある方も混じってくるもので，その方の言う通りに意見書を書いてしまっては，組織を大混乱に陥らせてしまいます。職場側にも，いろいろな事情がありますので，産業医としては一方だけの意見をそのまま聞かないように注意して下さい。

2 高ストレス者全員に介入してしまった

ストレスチェック面談では，自分の辛い状況を一方的に話す労働者もめずらしくありません。たとえば，今回の事例のようにハラスメントを受けている，不当な評価を受けている，残業を強いられている，したくもない業務の指示を受けている，望まない異動を命じられている，などといったことです。果ては，相性が合わない先輩とは仕事がしたくない，上司が尊敬できない，仕事に興味が持てない，といった相談を受けることもあります。高ストレス者面談というのは，このような方たちを拾い上げてしまうことも多いのです。

本当に産業保健的な支援が必要な人は，面談するうちの1～2割程度というのが筆者の印象です。産業医としては，高ストレス者一人一人を支援してあげなければ，という気持ちで面談に臨むかもしれませんが，実際の相場感をつかんでおくとよいと思います。

解決の2つのヒント

ヒント1 本人の言葉通り伝える

伝聞形式で本人の言っていることを伝える方法です。産業医としての判断や，必要な措置については明言や断定を避けます。たとえば，以下のようなものです。

このような報告書を書く際には，本人にも内容についての確認をとり，「ハラスメントを受けていると本人が言っているということを報告書に書きますよ」と伝えて，同意をとることで後のトラブルを減らすことができます。

ヒント2 リスク評価にとどめて，措置は企業に一任する

産業医が行うことはリスクの評価です。つまり，高ストレス者である面談対象者がその業務に従事し続けた結果として，どのような健康問題が発生するかというリスク評価をしている，ということになります。しかし，そのことに対してどのような措置（リスク低減措置）をとるかは，企業側の決定事項です。産業医も措置（リスク低減措置）について言及することもありますが，特にハラスメントに対する措置のような人事的な話に関しては，産業医としては深くは触れない，というやり方もありだと思います。この措置が必要だ！ と言ってしまうと話がややこしくなりますので注意して下さい。　

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嘱託産業医として訪問時間が非常に限られている場合や，スポットの高ストレス者面談の場合には，情報を多方面から収集することは困難ですので，必要な措置までの判断はせず，情報の共有や，事実確認のお願いにとどめるような産業医意見でも良いと思います。意見書を書く際には，ご参考にして下さい。

五十嵐 侑（いがらし ゆう）

五十嵐労働衛生コンサルティング合同会社・代表／産業医。仙台出身。2010年産業医科大学医学部卒業。大手製造業で専属産業医経験を経て，2020年から現職。note（https://note.com/gachiop/）でも執筆活動中。

　出典：Web医事新報