2023.05.23
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サルコペニア・廃用症候群の予防とケア[私の治療]

メディカルサポネット 編集部からのコメント

サルコペニアは主に筋肉の減少、低筋力や低身体機能の時に診断し、廃用症候群は病気や治療のために活動性や運動量の低下した状態が続くことで、運動器だけでなく全身の臓器に生じる二次的障害の総称です。

若林秀隆  東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授が予防と治療について解説します。

                  

サルコペニアとは,進行性および全身性に生じる骨格筋疾患で,転倒,骨折,身体機能障害,死亡などの不良の転帰と関連する。廃用症候群とは,疾患やその治療などのために活動性や運動量の低下した安静状態が続くことで,全身の臓器に生じる二次的障害の総称である。病院で離床が可能な全身状態にもかかわらず,医師による安静の指示でサルコペニアや廃用症候群となった場合や,医師による不適切な栄養管理のために栄養状態が悪化してサルコペニアや廃用症候群となった場合は医原性である。在宅では,閉じこもりがちな生活や不十分な栄養摂取でサルコペニアや廃用症候群を生じやすい。

                      

▶アセスメントのポイント

サルコペニアは,低筋肉量を認め,低筋力もしくは低身体機能を認めた場合に診断する。在宅での筋肉量評価は,下腿周囲長が現実的である。下腿で最も太い場所の周径をメジャーで計測して,男性34cm未満,女性33cm未満の場合に低筋肉量と判定する。また,握力が男性で28kg未満,女性で18kg未満であれば低筋力と判定する。5回椅子立ち上がりテストが12秒以上であれば,低身体機能と判定する。

 

廃用症候群は,筋萎縮,骨粗鬆症,関節拘縮といった運動器だけでなく,心臓機能低下,起立性低血圧,深部静脈血栓症,摂食嚥下障害,褥瘡,便秘,尿路感染症,抑うつ状態,高次脳機能障害など全身の機能障害を認めるため,多臓器の機能評価を行う。また,日常生活活動(ADL)に制限を認めるため,ADLを評価する。外科手術または肺炎などの治療時の安静があるため,診療報酬上では,治療開始時において機能的自立度評価表(functional independence measure:FIM)115点以下もしくはBarthel Index 85点以下の場合に廃用症候群としている。

 

サルコペニア・廃用症候群とも低栄養を認めることが多いため,栄養状態を評価する。

  

▶治療の考え方

サルコペニア・廃用症候群ともリハビリテーション(リハ),栄養管理の両面からアプローチする「リハ栄養」の考え方が有用である。リハ栄養とは,国際生活機能分類(ICF)による全人的評価,栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価,診断,ゴール設定を行った上で,障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し,生活機能(心身機能・活動・参加)やQOLを最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である。低栄養で生活機能が低下している場合には,栄養改善が治療となる。

 

質の高いリハ栄養の実践には,5つのステップで構成されるリハ栄養ケアプロセスの実施が有用である。

 

①リハ栄養アセスメント・診断推論:ICFによる全人的評価,栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の評価および診断推論

②リハ栄養診断:栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因追究

③リハ栄養ゴール設定:仮説思考を元にしたリハや栄養管理のSMART(specific,measurable,achievable,relevant,time-bound)なゴール設定

④リハ栄養介入:「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」の計画・実施

⑤リハ栄養モニタリング:リハ栄養の視点での栄養状態やICF,QOLの評価  

 

▶リハビリテーション

サルコペニア・廃用症候群とも,運動面ではレジスタンストレーニングと蛋白質(分岐鎖アミノ酸)摂取の併用が効果的である。ただし,低栄養でエネルギー摂取が不足している場合には筋肉量増加を見込めないため,軽負荷のレジスタンストレーニングのみ行う。在宅では,離床時間を増やすこと,外出機会を増やすことが,サルコペニア・廃用症候群の予防に重要である。外出機会は,デイケア・デイサービスやヘルパーとの買い物などでもよい。外出が難しい場合には,家庭内で役割をつくり,自宅での活動機会を増やす。

 

▶主治医としてやるべきこと

医原性のサルコペニア・廃用症候群を生じさせないことである。

 

▶リハビリテーション

理学療法士による機能訓練を優先しがちであるが,管理栄養士による栄養評価,栄養指導を同時に行うとよい。また,サルコペニア・廃用症候群に改善の余地があるかないかを,多職種で検討するとよい。改善の余地があると判断した場合には,積極的なレジスタンストレーニングと栄養改善をめざした栄養療法を行う。改善の余地がないと判断した場合は,機能維持や機能悪化の軽減をめざした維持的な理学療法と栄養療法を行う。

 

若林秀隆(東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授)     

 出典:Web医事新報

     

      

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