2023.04.17
3

感染性胃腸炎(ノロ,ロタなど)(小児)[私の治療]

メディカルサポネット 編集部からのコメント

夏場に多い細菌性腸炎、2~4月に多いロタウイルス、11月~1月に多いノロウイルス。感染性胃腸炎は多様な原因から吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、発熱を起こします。

まずは注意すべき脱水対策を中心に、川越 信  かわごえ小児科クリニック院長が解説します。

                

 

感染性胃腸炎という診断名は多種多様な原因によるものを包含する症候群であり,嘔気・嘔吐,腹痛,下痢,発熱などを症状とする。臨床現場ではウイルス性胃腸炎が多い。ロタウイルスワクチンの定期接種化により,補液や入院を要するロタウイルス胃腸炎は激減している。

              

診断のポイント

嘔吐,腹痛,下痢をきたす疾患は胃腸炎とは限らない。自分で症状を訴えられない乳幼児の場合,急性腹症や消化器系以外の疾患を常に念頭に置き,丁寧に診察することが重要である。周囲で同様の症状を呈している者がいるかや,最近の食事内容について確認する。

   

ノロウイルスは11~1月,ロタウイルスは2~4月,細菌性腸炎は夏場に多い。各地域の感染症サーベイランスも参考にする。胃腸炎と診断後,ウイルス性か細菌性かの判断をする。血便,40℃以上の発熱,強い腹痛があれば細菌性を疑って便培養を施行し,必要に応じて抗菌薬の投与を検討する。ウイルス性を疑う場合には,集団感染の発生など公衆衛生上の必要性がなければ治療方針も変わらないため,抗原検査は原則必要ない。なお,ノロウイルス迅速検査の保険適用は「3歳未満」などに限られるため,注意が必要である。

           

▶私の治療方針・処方の組み立て方

ノロウイルス胃腸炎の有症期間は平均1~3日で,有効な治療法はなく,対症療法を行う。

   

急性胃腸炎の治療においては,脱水の重症度評価を行うことが大切である。重度の脱水と評価した場合は経静脈輸液療法を選択する。重度の脱水を示唆する所見として,体重9%以上減少,反応性に乏しい,目が落ちくぼんでいる,頻脈,多呼吸,末梢冷汗,ツルゴール低下,などがある。中等度以下の脱水と評価した場合は経口補水療法を優先する。

  

制吐薬のナウゼリンⓇ(ドンペリドン)は有効との報告もあるが,胃腸炎の嘔吐は自然治癒することが多く,症例ごとに投与を判断する。整腸薬は下痢の期間を短縮する報告があり,筆者は投与している。

  

止痢薬については有効性のエビデンスはなく,イレウス等重篤な副作用の報告もあるため,原則投与しない。ロペミンⓇ(ロペラミド塩酸塩)は6カ月未満禁忌,2歳未満原則禁忌である。

       

治療の実際

【経口補水療法】

一手目 :ソリタⓇ-T配合顆粒2号(1包を100mLの水で溶解),またはOS-1Ⓡ(経口補水液)

  

経口補水液(oral rehydration solution:ORS)を5分ごとに5~10mLずつ飲ませる。嘔吐が治まってくれば投与間隔を短くし,3時間以上嘔吐がなければ自由に飲ませてみる。ORSを嘔吐してしまった場合でも投与を続けるが,食事ができるようになればORS投与は止めてよい。なお,ORSの味を嫌う場合がある。脱水を認めない場合にはORSにこだわる必要はなく,塩分を含んだ重湯・お粥,野菜スープ,チキンスープなどで代替してよい。

  

【食事療法】

  

母乳栄養は継続し,脱水が補正されればミルクや食事は早期に開始してよい。長時間の食事制限は不要で,ミルクは通常濃度で与えてよい。高脂肪の食事や糖分が多い飲料は避ける。

 

【薬物療法】

  

制吐薬:ナウゼリンⓇ坐剤(ドンペリドン)3歳未満:1回10 mg 1日2〜3回(直腸内投与),3歳以上:1回30mg 1日2〜3回(直腸内投与)(年齢,体重,症状により適宜増減)

 

整腸薬:ミヤBMⓇ細粒(酪酸菌)0.1g/kg/日 分3(毎食後)(成人量:1.5~3.0g/日)

 

【予防接種】

  

2020年より定期接種となったロタウイルスワクチン〔ロタテックⓇ(5価経口弱毒生ロタウイルスワクチン),ロタリックスⓇ(2価経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン)。生後2カ月より経口接種〕の導入により,補液を要する入院例は約90%減少した。

       

▶偶発症・合併症への対応

胃腸炎発症1~2日後に痙攣を認めることがある。無熱性が多く,痙攣時間は数分以内と短いが群発する。カルバマゼピン内服やリドカイン静注が有効である。

     

非典型例への対応

乳幼児では低血糖を伴うことがある。脱水の程度やバイタルサインが悪くない割に意識状態が悪い場合は,血糖チェックを行う。

     

ケアおよび在宅でのポイント

ノロウイルスは感染力が強く(基本再生産数14),汚物処理が不十分な場合は容易に集団感染や家族内感染を起こす。潜伏期が12~48時間と短く,介護を担う保護者にも感染を起こすことが多いため,感染拡大予防の指導は大切である。ウイルスが付着した水や食物,手を介して感染するため,石鹸と流水による手洗いを励行する。ノロウイルスはアルコール消毒が無効であるため,0.1%次亜塩素酸ナトリウムを使用して消毒する。嘔吐物には多量のウイルスが含まれており,乾燥してエアロゾル化した嘔吐物を介して空気感染をきたすこともある。嘔吐物は周囲1~2m程度飛散するため,嘔吐物周囲も含めて速やかに消毒するよう指導する。

   

【参考資料】

  

▶ 日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会, 編:エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017. 第Ⅰ部小児急性胃腸炎診療ガイドライン. 2017.

https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001192/4/acute_gastroenteritis_in_children_acute_appendicitis_in_children.pdf

   

川越 信(かわごえ小児科クリニック院長)      

   

 出典:Web医事新報

  

  

メディカルサポネットの

"オリジナル記事"が読み放題・

"採用に役立つ書類"のダウンロードも

   

ログイン(既に会員の方)

  •  採用のご相談や各種お問合せ・資料請求はこちら【無料】

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP