2023.02.14
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【結城康博】処遇改善の加算、未申請事業者の責任は大きい 介護職へ直に給付する仕組みにすべき

メディカルサポネット 編集部からのコメント

淑徳大学の結城康弘教授が、なかなか介護職のための処遇改善加算を国に申請しない事業者に向けて苦言を呈しました。特に、ひとりあたり月に約9000円の賃上げになるはずの処遇改善支援補助金を、約3割の事業所が算定していなかったことを取りあげています。(記事中の表は第213回社会保障審議会介護給付費分科会の資料を基に作成されています)

  

 【結城康博】処遇改善の加算、未申請事業者の責任は大きい 介護職へ直に給付する仕組みにすべき

《 淑徳大学総合福祉学部・結城康博教授 》

     

◆ 事業者は無責任ではないか!

 

1月16日に開かれた国の審議会で、介護職員の処遇改善に関する加算の最新の算定率が公表された。【結城康博】

 

公表されたデータは表の通りだ。「特定処遇改善加算」に加え、岸田政権の介護施策の目玉である「処遇改善支援補助金(月額9000円相当の賃上げ)」も、実に3割の事業所が算定していなかった。

 

【結城康博】処遇改善の加算、未申請事業者の責任は大きい 介護職へ直に給付する仕組みにすべき

 

多くの介護職員に加算・補助金が行き渡らなかったことは非常に残念だ。事業者の責任は大きいと言わざるを得ないのではないか。

 

確かに、これらの加算・補助金を申請する事務手続きは煩雑で、零細事業所を中心に課題が多い。しかし、補助金などの申請を行っていない事業所で働く介護職員らは、賃上げの恩恵を受けられず大きな不利益を被る。こうした介護職員の中には、「本当は賃金が上がるはずなのに…」と事業者に不信感を抱きながらも、声をあげることができない人も含まれるだろう。 

 

◆ 善意な経営者ほど面倒である

 

特に、地域に根付いた小さな事業所、例えば、訪問介護やグループホーム、小規模多機能などを単体で運営している事業者の一部は、日々の業務も多忙で補助金などの申請が追いつかないのかもしれない。また、加算や補助金などの仕組みをしっかりと理解していない事業者も、少なからずいるのではないか。

 

このような小規模法人の事業者の一部には、善意に基づいて事業を展開している人がいる。「介護=福祉」という感覚が非常に強く、介護職員の賃金を引き上げるための努力への関心が十分でないのかもしれない。

 

もちろん善意を持つことは尊いが、このような賃上げの努力をしない(申請をしない)事業者が一定数いると、そこで働く介護職員は報われず、社会的なデメリットも大きい。ひどいケースになると、煩雑な手続きを処理するために事務職を追加で雇うのは人件費がもったいない、とあえて申請をしない事業者もいる。このような事業者は、できるだけ早く「辞任」すべきではないだろうか。

 

◆ 現金給付or減税に切り替えては?

 

次の2024年度の介護報酬改定をめぐり、国は処遇改善に関する既存の3種類の加算(*)を一本化する方向で検討を進めると聞いている。

 

* 処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算

 

ただ私は、少なくとも介護職員の処遇改善を具体化するための施策については、加算ではなく直に介護職員へ「給付」する仕組みにすべきと考える。介護職員個人に国から一定の現金を出すことで、事業所の事務負担を軽減しつつ効果も高められるのではないか。この場合、介護職員以外の職種への給付のみ事業所が関与すればいい。

 

また、こうした施策を介護報酬のスキームに組み込むのではなく、主に公費を財源として給付すべきと考える。加算方式ではどうしても、利用者の自己負担につながって問題が生じてしまう。

 

介護職員個人への給付が技術的に難しいのであれば、介護職員の所得税・住民税などの減税を実施していくのも一案であろう。

 

もはや、介護職員の人材不足は極めて深刻で差し迫った課題である。この先、一定の加算、もしくは給付を続けても社会へのインパクトは限定的と言わざるを得ない。

 

介護職に就けば大幅減税策の恩恵を受けられる、といった踏み込んだ施策を講じるほうがより効果的だ。介護分野は労働市場で他産業に完敗を喫しており、それくらい思い切ったことをしなければ状況は好転しないだろう。

  

  

 出典:JOINT

 

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