2020.06.08
5

オンライン診療には「説明不要で、誰でも使える」ツールを
LINEビデオ通話を使う院長が語る手応え

ユアクリニック秋葉原(東京千代田区:杉原桂院長)では新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、LINEビデオ電話を使ったオンライン診療を行っています。実際にオンライン診療を行ってみて、五感から得られる情報の重要さを改めて痛感する一方で、感染症予防や患者ニーズの受け皿に極めて有効だと感じた杉原桂院長に、導入してみた実感や今後の展望を聞きました。

取材・文/横井かずえ
編集/メディカルサポネット編集部

医療機関に便利なツールではなく患者に便利なツールで

 東京千代田区と台東区の境目となる末広町に位置するユアクリニック秋葉原。内科・小児科を標榜し、北側には住宅街、南側にはIT企業などが連なるオフィス街が広がり、主に30歳代~60歳代のビジネスパーソンと地域の小児患者が受診します。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって電話、テレビ電話などのオンライン診療の要件が緩和されたのを受けて、同院では電話診療に加えてLINEビデオ通話を使ったオンライン診療をスタートさせました。数あるオンライン診療ツールの中からLINEを選んだ理由について杉原院長は「患者の利便性を重視した結果」と説明します。

「医療機関側にとって便利なツールやアプリはたくさんありますが、それが患者にとって便利なものかというと、必ずしもそうではありません。体調が悪くて受診したい時に、専用のアプリをインストールするのは負担になります。その点、LINEであればほとんどの人が日常的に使っているツール。新たにインストールする必要もありませんし、操作方法で戸惑うこともありません」

 導入にあたってはクラークが使用する公式アカウント、それとは別に2人の医師が同時に診療できるよう、各医師ごとのアカウントを用意しました。オンライン診療を希望する患者は事前にLINEの友達登録を行い、受付表を入力。その後、オンラインで予約を取得します。

  

 導入から現在まで、マイクやカメラの不具合などによる一時的なものを除き、大きなトラブルはなかったといいます。

「患者側の通信不良など小さなトラブルはありましたが、診療上の大きな問題はありません。強いていえば電子カルテとは別に、iPadでLINEを立ち上げなければならない点に不便を感じているくらいでしょうか」

 

LINEビデオ通話で取材に応じるユアクリニックの杉原桂院長 

 

黒字化を果たした矢先に襲った新型コロナウイルス

 厚生労働省からの通知を受けてすぐにオンライン診療に着手するなど、迅速な対応を取ったのには理由があります。緊急事態宣言が発出されたのは、2019年3月のクリニックオープンからちょうど1周年を迎える頃。当初は小児科医である杉原院長1人だったところに内科医が加わって2人体制になり、クリニック経営も黒字化に転じた矢先のことでした。

「ようやく軌道に乗ったと思った頃に緊急事態宣言が発令され、患者数が激減しました。院内感染も懸念される中で、自分が患者の立場であれば受診を控える気持ちはわかります。そうした状況下でいかにして医療サービスの提供を継続しようかと考えた結果、オンライン診療がベストと踏み切ったのです」

 必要以上に受診を控えてしまって慢性疾患が悪化したり、予防接種を見送ってしまうことなどを防ぎたいという思いも理由の一つでした。

「当院では発熱外来を設けているのですが、そこには『他院で受診を断られた』といって受診される方もいます。中には人工透析中なのに通院先から受診を拒否されたというケースも。医療側も万が一のことを考えての対応とは思いますが、受診拒否で困っている患者さんを1人でも救いたいという思いもありました」

 

 

五感を使って得られる情報の重要さを改めて痛感

 LINEビデオ通話の診療が始まるまでは電話診療のみでしたが、ビデオ通話を導入したことで、遠隔診療が格段にやりやすくなりました。一方で、ビデオ通話で診療をして、触ってみて分かることの大切さを改めて痛感したといいます。

「手を触って冷えの有無を確認したり、脈の左右差がないかみたり、リンパ腺の腫れがないか、お腹が痛いならどの部分が痛いのか、心臓の雑音はあるかなど、五感で感じる情報の大切を改めて再確認しました」

 

 

医療だけが時代の変化を避けることはできない

 支払いに関するコストは課題の一つです。患者の利便性を重視し、オープン当初からクレジットカードや各種電子マネーでの支払いに対応してきましたが、電子マネーなどを対面で使うことと、ネット上でカード決済することは「次元が違う話」だったといいます。

「クレジットカード決済の手数料は大きなネックです。現状は、診療報酬上の手当がないため全てクリニックの持ち出し。ですが、キャッシュレスなど時代の流れを考えれば、今は勉強代、と割り切っています。大きな流れの中で、いつまでも医療だけが変化を受け入れないでいることは不可能だと思うからです」

 

 

オンライン診療で求められるのは交通整理の役割

 実際にオンライン診療に取り組んできた経験から、「一定の条件下では極めて有効な手段」と感じているといいます。その一方で、オンライン診療を行う場合はオンラインに適する患者の見極めや、適切な交通整理を行うスキルが求められることもわかりました。

 オンラインに適するかどうかのレベル分けには、例えば次のようなものが考えられます。

  • ◇新規患者なのか、かかりつけ患者か
  • ◇症状が落ち着いていて、薬の変更等がない
  • ◇症状は落ち着いているが、薬の変更を検討
  • ◇検査が必要など、対面での受診を推奨 

 

「”新規患者”か”かかりつけ患者”かどうかでハードルが変わります。さらにそこから処方変更の有無や症状、検査の必要性などによっていくつかの分類が必要です。オンライン診療では、そういった交通整理がとても重要になります」

 

 

患者からは高いニーズ 感染症対策にも有効

 実際に受診する患者からは「通院負担が減った」「忙しくて通院できなかったが、オンラインなら会社からでも受診できる」 など歓迎する声が寄せられていて、「患者側のニーズは高い」と手応えを感じています。

「患者のニーズは明らかに高いと感じています。同時に、感染症対策としても極めて有効です。オンライン診療を併用すると、感染症予防に効果的なレベルまで、待合室の混雑が緩和できるからです」

 

 

10年スパンではおそらく広がる まずはオンライン会議から

 患者ニーズも高く、感染予防としても有効なオンライン診療ですが、今後、果たしてどこまで広がるのでしょうか。最大のネックは、対面と比べてほぼ半減するなど診療報酬点数が低く抑えられている点です。しかし杉原院長は「10年単位で見れば、確実に広がっていく」と見通しています。

「一度この便利さを経験してしまったら、もう元には戻れないでしょう。急速に拡大するかといわれれば難しいかもしれませんし、全ての患者に適応できるかといえばそうではありません。ですが、オンライン診療に適するゾーンというのは確実にあり、10年のスパンで考えれば浸透するはずです。世の流れが、在宅でできる仕事とそうでない仕事に分かれていくように、医療もいずれは対面診療が必要なものとオンライン上で完結するものにすみ分けがなされていくのではないでしょうか」

 

 最後に、オンライン診療に興味はあるものの導入をためらっている医師へのアドバイスを聞きました。

「オンライン診療というと患者の個人情報の取り扱いなど、さまざまな面で不安を感じるかもしれません。もしそうであれば、まずはLINEやZoomを使ってミーティングをするなど、オンラインツールを日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。実際に活用してみると、音や画質からどの程度、情報が得られるのか、想定されるトラブルは何かなど、具体的なイメージが湧くはずです。そうすれば実際に患者さんを診察する時のハードルも下がるはず。ぜひ、オンライン飲み会をやってみてください」

 

  

 メディカルサポネット編集部(取材日/2020年5月21日)

ユアクリニック秋葉原ロゴ

医療社団法人 縁風会 ユアクリニック

住所:東京都千代田区外神田4-9-2千住ビル4階 
URL:
https://yourclinicakb.jp/

2019年3月に開業し、杉原桂氏が院長を務める。総合診療科、内科、小児科、小児アレルギー、腎臓・糖尿病・生活習慣病の診療を得意とし、オンライン診療にも対応している。雇用時健診・定期健診・各種健康診断、区民健診、ワクチン、乳児健診も行なっている。ブログも毎週更新し、積極的に情報発信している。



この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP