2020.04.03
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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:感染ピークを抑えている?」岩田健太郎

メディカルサポネット 編集部からのコメント

世界で新型コロナウイルス感染症が拡大し、急激な患者の拡大は医療を圧迫し、医療者を疲弊させています。感染ピークを押さえ込めば、これを回避できますが、それは「感染ピーク」をきちんと把握できている場合に限ります。今、東京などで感染者の数は日々増えていますが、一気に急増した他の国とは異なります。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授の岩田健太郎氏が「感染ピーク」について見解を示しています。

 

「新型コロナウイルス感染対策は封じ込めのフェーズは終わった、これからは感染のピークを下げて、ずらす方向にシフトすべきだ」という専門家会議の見解を耳にした。

 

この大方針は概ね、正しい。急激な、指数関数的感染拡大が起きてしまうと中国・武漢のように万単位の患者が発生し、たくさんの死亡者が出る。韓国もこれで苦しんだ。本稿執筆時点ではイタリア、フランス、スペインといったヨーロッパ諸国で同じことが起き、米国ではニューヨークが同じように苦しんでいる。急激な患者の拡大は医療を圧迫し、医療者を疲弊させ、医療リソースは枯渇する。それは結局患者のアウトカムにもネガティブに作用する。

 

急峻な感染ピークを押さえ込めば、これを回避できる。ただし。それは「感染ピーク」をきちんと把握できている場合に限る。ピークを把握できていなければ、それが高いとか低いとか、抑えているとか、抑えていないとかを論ずることはできない。

 

韓国と日本の検査数の違いが何度も議論されているが、意味のない議論だと私は思う。検査は感染者数の反映だ。その逆ではない。感染者が一気に激増した韓国では当然たくさんの検査を必要とした。日本ではそんな感染者の増加はない(執筆時点では)。必要ない検査はしなくてよい。ただ、それだけだ。問題は、東京などで感染者の数が増えていることだ。増えているならば検査も当然増やさねばならぬ。

 

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトには都の検査実施件数がグラフ化されているが、医療機関が保険適用で行った検査は含まれていない(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)。これによると3月25日の検査数は108件だ。一方、厚生労働省の資料によると同日行った保険適用分の検査数は民間検査会社で139件、大学で34件、医療機関で23件、合計196件だった。全国で、である(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000614793.pdf?fbclid=IwAR3zpt9tu9Hs2NXgSCYA8D7BSbxJVKivQKiieYgrX10zivm7IUtXHWYkMpk)。

 

では、東京都の真の検査数は何件だったのだろうか。3月25日の都の検査陽性者数は41人だった。私見だが、感染者がきちんと捕捉されているであろう、最低限の適切な検査数は、陽性者が検査数の10%未満に収まっている時だと考えている。とすると、25日の適切な検査数は東京都で410件以上ということになる。これでは全く足りていない。

 

感染ピークは抑えるべきだ。が、陽性者数を捕捉しきれず、「感染ピークが抑えられているかのように勘違いしている」状況は実に危険だ。それは将来のもっと巨大な感染ピークの予兆だからだ。

 

大事なのは事実だ。願望ではない。ピークを抑えたいという願望が、ピークという事実から目を背けさせる根拠となってはいけない。日本は大丈夫だろうか。

 

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症] 

 

 

 

出典:Web医事新報

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