2019.05.30
5

全国の創意工夫にあふれた薬局が集結

「みんなで選ぶ薬局アワード」開催レポート

全国の薬剤師や薬局が独自の取り組みを発表する「みんなで選ぶ薬局アワード」が5月19日、中目黒GTプラザホールで開催されました。薬剤師である竹中孝行さんが代表理事を務める薬局支援協会が主催し、今年で3回目です。竹中さんは「メディカルサポネット」で連載中の「この薬局がすごい!―選ばれる理由と成功のヒント―」で取材・執筆を担当しています。
これからの時代に地域から選ばれる薬局・薬剤師になるためのさまざまな取り組みが披露された当日の模様をレポートします。

取材・文/市原淳子
写真/政川慎治 

 

▼目次

  

患者のため、地域のために創意工夫する薬局が全国から集合

「みんなで選ぶ薬局アワード」は、「一般の人にもっと薬局と薬剤師の能力、役割を知ってもらい、生活や健康づくりに役立ててほしい」というコンセプトで始まりました。 

 

 

薬局支援協会代表の竹中さんは、「一般来場者は回を重ねるごとに増えていて、薬局や薬剤師への期待や関心が高まっていることを実感しています」と話します。

 

今回は申し込み者が多く、用意した150席はすぐに満席。入場できない人が出るほどの盛況ぶりでした。来場者の内訳は、薬剤師が4割、医療関係者が2割、学生が1割、一般の方が3割でした。

 

同アワードには、ユニークな取り組みによって地域のコミュニティーをつくったり、薬局業務の効率化などに貢献したりしている薬局などが全国からエントリー。2回の審査が行われ、重点評価項目の「背景・思い」「患者視点」のほか、「社会性」「再現性」「独創性」「将来性」の計6項目を基準に選考が行われ、ファイナリスト6組が選出されました。この日行われた最終審査では、その6組の薬局代表者が登壇し、熱のこもったプレゼンをくり広げました。

  

 

多彩な顔ぶれの審査員が各薬局の取り組みを多角的に評価

(写真右から)漫画『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』の医療原案を担当する富野浩充さん、

株式会社マザーレンカ代表取締役の池田貴子さん、NPO法人がんノート代表理事・岸田徹さん

 

審査員をつとめたのは、東京薬科大学 情報教育研究センター教授・土橋朗さん、NPO法人がんノート代表理事の岸田徹さん、株式会社マザーレンカ代表取締役の池田貴子さんをはじめ、「薬読」でも特別公開中の漫画『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』の医療原案を担当する富野浩充さんらも参加。豪華な顔ぶれとなった8人の審査員が壇上のプレゼンテーターを真剣なまなざしで見つめ、審査にあたりました。

   

   

第3回みんなで選ぶ薬局アワード 受賞者が決定!

各薬局の代表者は、取り組みを始めたきっかけや内容、それによって生まれた薬局での変化などについて熱意あふれる10分間のプレゼンを行いました。

 

特別審査員と来場者による投票の結果、受賞したのは次の3つの薬局です。

  

【最優秀賞】まごころ薬局(兵庫県尼崎市)

【審査員特別賞】エール薬局鴨居店(神奈川県横浜市)

【オーディエンス賞】薬局・なくすりーな(茨城県古河市)

  

  

 受賞した3つの薬局の取り組みをご紹介します。

 

■最優秀賞:薬局を中心に人が集まるコミュニティー形成に成功(まごころ薬局)

 

「どんな薬局なら行きたくなるか」「面白い薬局とは何か」——こうしたオーナーの思いから、地域住民を巻き込んで完成させたのが、まごころ薬局(兵庫県尼崎市)。その隣にはコミュニティースペース「まごころ茶屋」が併設されています。

  

コミュニティースペースをつくるための作戦会議から住民を巻き込んで開催したことで、薬局を中心とした地域のコミュニティが形成されていきました。まごころ茶屋の内装をはじめ、どんなイベントを開催するかまで、すべてに地域住民の声が反映されています。まごころ茶屋のオープニングイベントでは地元の誰でも参加できるファッションショーを開催し、大好評だったと発表者の福田惇さんは満面の笑みを浮かべ、熱く語りました。

 

■審査員特別賞:子供の絵の力で薬の飲み忘れを防止(エール薬局鴨居店)

 

「どうしたら薬の飲み忘れがなくなるか」を考え、“薬袋”に着目したと、小児科の門前薬局であるエール薬局鴨居店(神奈川県横浜市)の松岡亮太郎さんは話します。

  

ヒントになったのは大阪の運送会社・宮田運輸の「こどもミュージアムプロジェクト」。子供が描いた絵をトラックにラッピングしたことで危険運転のリスクが大幅に減ったという話に感銘を受け、薬局に来た子供たちに「お薬しっかり飲んでね」をテーマに絵を描いてもらうことにしました。その絵を薬局に展示するとともに、薬袋の裏面にプリントするサービスを開始。

  

子供たちが一生懸命描いた絵がプリントされた薬袋をご家族にお渡しすることにより、「週に1回程度飲み忘れがあった方でも忘れなくなった」と、アドヒアランスの向上に効果が表れているようです。

 

■オーディエンス賞:薬剤師のサポート付き医療用医薬品の救急箱を開発(薬局・なくすりーな)

 

薬局・なくすりーな(茨城県古河市)では、患者さんの悩みに合わせて薬剤師が選んだ5種類の薬を各6回分詰め合わせた携帯用救急箱「ラクスリード」を月額1,080円で提供しています。

  

市販薬はすぐに手に入るけど高額だし、病院で処方してもらう薬は安価だけど病院の待ち時間が苦痛……。両者の隙間を埋めるべく考案したのが「ラクスリード」だと、発表者の吉田聡さんは話します。今年から使用を開始した10名のモニターにも評判は上々。

 

使いたいときに薬が手元にある安心感や、コミュニケーションをとるために「LINE@」などを利用し、患者さんがいつでも薬剤師に相談できる仕組みも整えています。

 

   

熱意あふれるプレゼンで薬局の取り組みをアピール

残念ながら受賞は逃しましたが、このほか3つの薬局も素晴らしい取り組みを紹介しました。

 

■楽しみながら理想の食や運動が体験できる健康情報発信基地

 

「処方せんがなくても薬局に来てほしい」。そんな思いから生まれた「オールファーマシータウン」についてプレゼンをしたのはオール薬局(広島県呉市)の佐々木拓也さん。そこは、地域住民が楽しみながら理想的な食事や運動を実体験できる場所です。

  

1階は健康に特化した商品やサービスを提供するローソンと介護相談窓口。2階はタニタとコラボした『オールカフェ』をはじめ、血圧計や体組成計、睡眠などの計測機器を使って健康チェックできるスペースやフィットネスジムを併設。“健康づくりのハブ”のような施設としてにぎわい、子供からお年寄りまで幅広い年代に活用されています。

  

■薬包とじ機「トジスト」が薬剤師の負担とホチキス針のリスクを解消

 

穴水あおば薬局(石川県鳳珠郡)の岡田政彦さんは、薬包に穴を開けず、加熱もせずに複数の薬をまとめられる針なしステープラー「トジスト」の開発秘話について熱弁。これまでステープラーを使用していた“薬包とじ”の作業効率を改善するだけでなく、針を誤飲するリスクを減らしたり、テープや輪ゴムで止める手間を省いたり、針による袋が破損したりすることも防げるといいます。

     

「トジスト」で作った個包装のシート。横に力を加えると簡単にはがれて1回分がすぐに取り外せる。

 

何より、1回分の薬がまとまっているため、飲み忘れる可能性が減るのが患者さんにとってのメリット。まとめたい薬包を重ね、足踏みミシンのようなペダルを踏むだけで薬包が自動的に圧着されるので薬剤師の作業効率アップにも貢献します。

  

■在宅医療に向かう薬剤師を非薬剤師がボランチとしてサポート

 

在宅医療に興味があるという薬剤師は少なからずいますが、一方で女性薬剤師の中には独居男性の自宅へ薬を届けるのは「不安」「怖い」という方もいるでしょう。まんまる薬局(東京都板橋区)は薬剤師のそんな悩みも解消し、安心して在宅医療に取り組める環境を整えました。

  

元プロサッカー選手でもあるまんまる薬局・発表者の松岡光洋さんが考案したのが、薬剤師が患者の自宅を訪問する際に、非薬剤師が同行してサポートする「ボランチ制度」です。「ボランチ」とは、サッカーで守備を固めながら、試合の流れをコントロールするという重要な役割を担う存在です。このことから「ボランチ制度」には、薬剤師の在宅業務を表裏ともに支えていくという意味合いが込められています。

 

まんまる薬局の非薬剤師(ボランチ)は、輸液など重いものを運ぶ、車の運転をする、患者さんやその家族とのコミュニケーションを図るなど、さまざまな形で薬剤師をサポートします。同行者がいることで、薬剤師は単独で患者さんに向き合うという精神的な負担から解放され、仕事に集中できることも大きなメリットです。

 

   

薬局アワードを薬剤師の気づきのきっかけに

 

薬局アワードを主催する一般社団法人 薬局支援協会代表理事の竹中孝行さんに、あらためてお話を伺いました。

  

一般社団法人 薬局支援協会 代表理事の竹中孝行さん

  

「自分が薬剤師として仕事をしてきたなかで、患者さんや地域医療のためにすばらしい取り組みをされている薬局、薬剤師に数多く出会ってきました。その一方で、一般の方に『どこか1つ、かかりつけ薬局を決めておくといいですよ』とお話しすると、『薬局なんてどこも同じでしょ』と言われてしまう。こんな現状を打破したくて、2017年に薬局アワードを立ち上げました。

 

その思いが伝わったのか、一般の方は『薬局の違いがわからない。薬局って何ができるんだろう』と興味をもって来場してくださるようです」

 

薬局や薬剤師には、このアワードを“気づきのきっかけ”にしてほしいと竹中さんは言います。

 

「今日の会場の盛り上がりからもわかるように、薬剤師が当然もっている知識や日々当たり前に行なっている業務は、一般の方にとってはすごいものなんです。薬剤師の方にはまずそのことを自覚していただき、薬剤師という仕事に誇りをもってもらいたいというのがこのアワードの目的の1つです。

 

薬剤師という仕事の価値に気づき、積極的にアピールしていかなければ、これからの時代を生き抜くのは厳しくなっていくでしょう。地域のなかで存在感を示し、人が集まる薬局づくりをするためにも、ここで発表された事例を参考にしていただければ幸いです」

  

 

 

 

 

 

 

▼第4回はこちら▼

 

▼第5回はこちら▼

 

 

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP