2020.10.13
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【注目記事】看護職の94.4%が対応に苦慮
~新型コロナウイルスによる現場の実態~

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大により、多くの不安を抱えたまま患者に対応する看護職。今もなお治療法が見つからない中で、感染リスクだけでなく、さまざまな困難に直面しています。2020年6月、東京看護協会が行ったアンケート調査結果をもとに、看護職の困りごとやメンタルヘルス・ケアへの対応など医療現場の実態をまとめます。

文/みのうかなこ(ライター・薬事法管理者)
編集・監修/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の爆発的な拡大により、一部の医療現場では関係者の離職や休職が発生しているというニュースも見られます。感染リスクへの対応だけでも慎重さが求められるにもかかわらず、業務増大と人材不足によって看護職への負担はさらに大きくなっています。そうしたなかで、管理者として理解しておきたいのが、看護職が抱える不安とストレスの要因、そしてその対応法です。東京都看護協会が発表した調査結果をもとに、具体的な事例を踏まえてまとめます。

 

■現場に直面する看護職が最も困っているのは「個人防護用具の不足」

 

 出典:公益社団法人東京都看護協会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する緊急アンケート結果」

  

2020年6月、東京看護協会が都内の571施設を対象に、新型コロナウイルスへの対応について調査(調査期間2020年6月8日~6月30日)を行いました。

 

「COVID-19に対峙する看護職の立場で困ったことはありますか」という問いに対し、「はい」と回答したのは94.4%。そのうち、困っている点として最も多かったのが「個人防護用具の不足」です。(複数回答)

 

サージカルマスクの流通量は徐々に増えているものの、N95マスクはまだまだ不足の状態にあります。さらにガウンやゴーグルといった防護用具にも限りがあるのが現状です。N95マスクを使いまわしたり、ゴミ袋や事務用品を加工して防護服を作ったりするといった対応で、急場をしのいでいる事業所も少なくありません。

不足が続いてしまう背景には、人員配置の変化も影響しています。重篤化した患者への対応には、従来の2:1看護配置ではなく、1:4の看護配置が必要になり、必要な備品の数が膨らんでしまうことも、不足を拡大させる要因といえるでしょう。

 

N95マスク

 

とはいえ、全世界で防護用具を争奪する状況で、十分な枚数の確保はまだまだ難しいものです。一般社団法人日本病院会ほか3団体が調査した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」によると、2020年4月には感染リスクを恐れた一般患者の入院・外来数が大きく減少。コロナ患者の受け入れを行っている病院の78.2%が赤字となっており、そうした備品への予算確保だけでも大変な状況といえます。

 

厚生労働省による物資の配布も行われていますが、サージカルマスクの総配布数が約2億8,930万枚であるのに対し、N95等マスクは約1,091万枚(2020年9月4日時点)。マスクだけでなく、アイソレーションガウンやフェイスシールド、非滅菌手袋など不足する備品は多く、長引く感染拡大に、施設側の負担も増大しています。

 

■「患者への対応」に対する不安も大きい 

 

上述した調査「看護職の困ったこと」への回答で、「個人防護用具の不足」の次に多かったのが「患者への対応」です。

一般社団法人日本救急看護学会が行った調査結果によると、実際の感染者対応だけでなく、看護職と医師、現場とその他のスタッフとの意識の違いに振り回されてしまう例も見られます。

 

例えば、外来対応では、感染の疑いのある患者さんを振り分ける際に、医師との相違があり、後になってPCR検査を突然指示されて現場が騒然となってしまうケースもあったようです。また、ゾーニングが明確でなく、一般患者と感染者が混在して、同じ動線になってしまったり、設備的な問題で動線が確保できなかったりすることも、問題点として挙げられています。

そのほか、入院時では、家族との面会ができないため、入院に必要なものを用意してもらえないことや、疑いのある患者に対して、特に医師がPCR検査オーダーを出さない患者への対応が曖昧になっている点にも困ったという回答が見られました。

 

加えて、家族のケアができない、またエンゼルケアができないといった状況にジレンマを感じるといった面もあり、感染リスクという不安と同時に、患者への十分な対応ができない点も不安が残っています。

 

政府が提唱するガイドラインはあるものの、実際の対応マニュアルは施設ごとの状況に合わせて随時修正されることになるため、その都度の対応に直面する看護職に疲弊感が広がっています。

 

 

■課題は職員への「メンタルヘルスケア」

 

  出典:公益社団法人東京都看護協会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する緊急アンケート結果」

  

緊急事態宣言から数か月がたった現在において、これまで以上に懸念されているのがスタッフのメンタルヘルスケア対策でしょう。

東京都看護協会の調査では「COVID-19に伴う看護職員へのメンタルヘルスケアについて工夫されていますか」という設問に対し、2020年6月時点で「工夫している」と回答した医療機関は54.3%。50%以上の医療機関が何らかのメンタルヘルスケア体制を整備していることが分かります。

 

看護職がストレスを感じるのは、物資不足や感染リスクだけではなく、人材不足による業務量の増大も挙げられます。人員配置や交代勤務への負担も大きくなり、肉体的な疲労からメンタルヘルス不調につながることも考えられます。また、十分な看護ができなかったことによる不全感や、家族とのつながりが持てない患者の死に直面することによる共感疲労など、現場でのストレスは大きなものです。

さらに、行動制限や周囲からの差別・中傷に悩まされているなど、多くの要因が複雑に絡んでいるのが現状でしょう。 

 

■現場と管理者の認識の”ズレ”もストレスの要因に

 

また、危機管理意識に関する病棟スタッフと管理者のずれも影響しているとしています。一般社団法人日本専門看護師協議会のサイトでは、「看護職に起こりやすいストレス反応や対応」として以下のような“すれ違い”の事例を挙げています。

 

<病院の場合>

組織が定める感染予防対策のみでは安全だと思えず、納得できない。

必要な感染予防対策はしているが、それでも安心できない。

組織の中で、“濃厚接触者”や“標準防護具”の認識にずれがあり、安全だと思えない。

 

<訪問看護ステーションの場合>

管理者が医療従事者でなく、現場の危機意識と差があるように感じる。

今すぐに必要のないケアなのに、感染のリスクがある利用者宅への訪問を強要される。

 

新型コロナウイルス感染症に関する情報|一般社団法人日本専門看護師協議会」より

 

■メンタルヘルスケアの取り組み

 

同調査において、施設が行っているメンタルヘルスケアへの取り組みとして、メンタルサポート体制を整備するといった回答が複数見られます。精神科医師や臨床心理士等によるメンタルヘルスチーム結成したり、カウンセラーによる個別面談を設定したり、また、相談窓口を設置したりすることで、個々の相談を受け付ける形です。

 

メンタルヘルスケアにおいて大切なのは、本人がストレス状態を把握しているかどうか。自身のセルフケアを意識してもらうためにも、積極的なコミュケーションをとりながら、傾聴する時間が必要といえます。

 

 

■心の健康を維持するための必要な4つのこと 

 

日本赤十字社が提供する「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応する職員のためのサポートガイド」によると、対応者のメンタルヘルスには、以下のような4つの特殊性があるとされています。

①避けられない不安

未知の部分が多いことから、不安はぬぐいきれない

②得られにくい承認

支援活動を公表しづらく、承認を得られにくい

③孤独感や孤立感

偏見や差別があるのではないかという不安や、家族を含めた周囲の人との葛藤や信頼関係の変化を感じる可能性もある

④立たない見通し

治療法が確立されていないため、終わりが見えない。長期的なストレスにさらされることで疲労が蓄積することが懸念される

こうした特殊性のある状況下でメンタルヘルスをケアするために、上司や施設管理者が取り組みたいポイントとして、以下の4つが提案されています。

①職務遂行基盤の整備

最新情報の提供や発信。巡回によるねぎらいや承認活動。また上司による活動報告ができる環境づくり。明確なルール及び業務手順の策定。

②個々のセルフケア

セルフケア方法の発信。また上司からは、こまめな休息の推進や、振り返りや活動報告によるストレス対処。

③家族や同僚からのサポート

職員へのねぎらい。対応した部署全体に対するフォロー。現場の状況共有やサポートを得られやすい環境づくり。インフォーマルな声かけ。

④組織からのサポート

守秘義務の徹底。施設として一丸となって取り組む宣言。家族支援の窓口設置など。

 

■離職・休職によるさらなる人材不足を予防するために

 

長期化する新型コロナウイルスに対して、直面する現場は疲弊感が広がっています。緊急事態宣言発令直後と比較して、やや落ち着いてきたものの、これまでの緊張がゆるみ、「燃え尽き症候群」となる可能性も懸念されています。場合によっては、離職や休職といった選択を検討する職員が増える可能性もあるでしょう。物資の調達には限界がありますが、メンタルヘルスケアの強化に取り組みながら、まずは対応者へのねぎらいとともに、心身ともに休養できる工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

SUKU

監修者Profile

高山真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

看護短大・大学編入学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(ジャーナリズム修士)。

病院、在宅、行政・学校・産業保健、教育機関、スポーツ救護など、幅広い臨床経験を持つ。並行して看護ライターとしての活動も広げ、ダンス留学、自転車ロードレース選手生活も経験。現在はメディアの立場から看護の発展にたずさわる1児の母。日本看護科学学会会員。

 

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