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2022.08.31
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よくあるケースから考える労務管理
トラブルケースから学ぶ労務管理の落とし穴

特集 トラブルケースから学ぶ備えと対応 労務管理の落とし穴

よくあるケースから考える労務管理 トラブルケースから学ぶ労務管理の落とし穴

 

編集部より

「ナーシングビジネス」2019年10月号「特集 トラブルケースから学ぶ備えと対応 労務管理の落とし穴」より抜粋。「総論 最新の知識をキャッチアップ 看護管理者が押さえておきたい労務管理の基本」をご紹介します。

 

塩原公認会計士事務所 特定社会保険労務士 福島通子

看護部でよくあるトラブルケースをもとに、誤解しやすい点は何か、トラブルにどう対応するか、現場での運用はどのようにしたらよいかを解説します。

 

 医療機関に限らず、労務管理は容易なものではなく、さまざまな労働相談が増加しています。労働者からの相談の代表例としては、解雇時間外手当の未払いハラスメントに関する問題が多く見られますが、看護管理者からの相談も増えており、コンプライアンスに関わるものから人間関係を原因とする内容までさまざまです。

 

 ここでは、働き方改革に伴う新たな法律に対応するための課題や、看護管理者という立場に関連するトラブルに関して、その対応を考えていきましょう。

 

 

年次有給休暇5日間が取得できなかったらどうなる?

質問

2019年4月1日に10日の有給休暇を付与されました。その際に「来年の3月31日までの間に最低5日間の有給休暇を取ってもらわなければならない」と言われましたが、まだ勤務したばかりですし、この病院では年間休日が120日あり、夏休みや冬休みなどの特別休暇もあるので、できれば有給休暇を取得せずに仕事を覚えたいと思っています。

 

回答

 仕事を早く覚えたいという前向きな考え方には共感しますが、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」は、2019年4月から義務付けられたものです。本人からの希望とはいえ、年5日の所得ができなかった職員が一人でもいた場合、法令違反となり罰則が科せられる可能性もあります。法改正の趣旨を理解して、1年の間に最低5日間は有給休暇を申し出るか、使用者側の指定した時季に休んでください。

 

 なお、年次有給休暇は、どちらかと言えば肉体的な疲労を解消することを目的とした公休のほかに、心身のリフレッシュや自身の研鑽などにも活用される休暇と考えることもできるので、有給休暇を使って外部での学びの機会を得ることや、日常の看護業務を振り返る時間として使ってもよいのではないでしょうか。

 

 

根拠条文

労働基準法第39条第7項

 

 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項および次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

   

  

師長は管理職だから残業代は出ない?

質問

 これまで、師長には残業代は出ないということに疑問も持たず、管理的な立場にいる職員はそういうものだと思っていました。しかし、外部の研修に参加して、残業代を支払わなくていいのは「管理監督者」といわれる管理職とのことだと知りました。私のような師長は管理職ではあるものの、管理監督者には該当しないのではないかと思います。本来は残業代が支払われるべきなのではないでしょうか。もし、残業代が出ないことが誤りであるならば、今までの残業分を請求してもよいのでしょうか。

 

回答

 質問の通り、師長であるから残業代は出ないという考え方は適切ではありません。医療機関によってさまざまな役職があり、中には最高位が師長で、一般的な看護部長の役割を果たしている医療機関もあります。従って、師長がすべて管理監督者ではないと断言することができませんが、労働基準法上の管理監督者とは経営と一体となって、労働時間や休憩、休日などの規制の枠を超えて活動を余儀なくされる者で、重要な責任と人事権などの権限を持ち、現実の勤務の在り方が労働時間などの規制に馴染まない働き方をする管理職であり、そうした職務にふさわしい処遇がなされている者です。

 

 よってこの場合、看護師長は管理職とはいえ、管理監督者に定義されるような働き方ではなさそうです。管理監督者とみなすのは難しく、労働時間や休日に関する規定が適用されることになりますので、スタッフと同様に時間外手当の支給が必要と考えられます。たとえば、給与規程等に役職手当の一部が残業代相当である旨の記載があれば、実際の時間外労働時間に時間外単価を乗じて、不足があれば追加払いをするという対応もできますが、そうした規定がなく、まったく残業代の支払いがなかったということであれば、過去のタイムカードやパソコンのログの記録などから時間外労働となる時間を割り出し、時間外手当の請求をすることは可能です。最長で2年分の遡求支払を求めることができます。 

 

 

根拠条文

労働基準法第41条

 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

 

一. (略)

二. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三. (略)
 

〇基発第150号、婦発第47号(昭和63年3月14日)

【労働基準法関係解釈例規について】第41条関係

  

 

スタッフの超過勤務の実態が不透明

質問

 労働時間を把握する手段としてタイムカードが導入されています。しかし、タイムカードに記録された時間のすべてが労働時間ではなく、仕事以外のことで残っていることもあります。残業は自己申告制で、残業管理簿に時間数と業務内容を書くことになっていますが、忙しさから書き忘れたり、申告が面倒で書かなかったりするスタッフもいるようです。また、前から残業は月20時間までという暗黙のルールがあるため、スタッフが自主的に20時間を超えないように調整しているようですが、実は20時間以上の時間外労働をしているスタッフもいます。適正に実態把握がなされていないため、正確な時間数がわからない状態です。2019年4月1日より労働時間の適正把握が義務化されたと聞きました。今のような曖昧な根拠で残業管理をすることは問題があるような気がします。どのように把握するのがよいのでしょうか。

 

回答

 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によれば、労働時間の適正な把握のためには、始業・終業時刻を確認し記録する必要があるとしています。その方法としては、使用者の現認か、タイムカードやICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録する方法を挙げています。自己申告制を取っている場合は、自己申告によって把握した時間と実態とのかい離がないか、実態調査をして労働時間の補正をすることを求めています。また、自己申告できる時間に制限を設けることや、申告を阻害する措置を取ることも禁止していますので、現状の20時間までの制限に関しては暗黙の了解とはいえ撤廃すべきです。

 

 実態として労働時間と判断される時間に関しては、適正な自己申告を求める必要があります。その反面、労働時間とは判断されない時間も含めてタイムカード等に記録される場合もありますので、どのような時間が労働時間であるのかについて十分な説明を行ったうえで、実質的な時間外労働の申告をさせ、タイムカード等による記録および自己申告等による労働時間と実態とのかい離がないように労働時間管理をしなければなりません。

 

 無駄な時間をなくし、生産性を上げるためにも、時間の使い方を考える契機として、院内でどのように労働時間を把握すべきかを検討してみるとよいのではないでしょうか。また、時間外労働は、労使協定において締結した範囲を超えることはできませんので、労働時間の適正把握は、労使協定(36協定)違反を防止することにも役立ちます。

 

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更衣時間は労働時間だと主張するスタッフ

質問

 私たち医療スタッフは必ずスクラブに着替えてから業務に入ります。先輩からは着替えが終わってからタイムカードを打刻して、業務が終了したら着替える前に打刻するように言われています。しかし、更衣が義務付けられていて、使用者の指揮命令下にある時間に行われていると認識していますので、更衣は労働時間ではないでしょうか。タイムカードの打刻時間前の更衣時間も含め、労働時間として算定してほしいと思います。終業後の後片付けや着替えも同様に労働時間ではないでしょうか。

 

回答

 医療従事者のスクラブ着用は、就業を命じられた業務に関する準備行為としての更衣であり、義務付けられているので、更衣時間は使用者の指揮命令下にある時間として労働時間と判断されます。しかし、これまで更衣後にタイムカードの打刻をしていることから、実際の更衣時間を算定することはできません。

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