2026.02.16
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令和9年度に向けた介護保険制度改正の意見のとりまとめのポイント

~小濱道博のこれからの時代を乗り切る介護事業戦略 vol.16~

小濱道博のこれからの時代を乗り切る介護事業戦略

     

編集部より

2024年に行われた介護報酬改定や、経営情報の提供の義務化など、介護業界は大きな変化の波の中にあります。そのような時代において、日経ヘルスケアや介護ニュースJOINT、介護実務書籍執筆者としても著名な小濱介護経営事務所代表、小濱道博さんが「これからの時代を乗り切る介護事業戦略」を、解説していきます。

  

第16回は、『令和9年度改正に向けた議論の全体像と背景』です。

令和9年度改正に向けた介護保険制度の議論では、利用者負担の見直しや高齢者住宅への規制強化、ケアマネジメントの有料化、地域間格差への対応など、制度の根幹に関わる論点が相次いで浮上しています。

とりわけ今回は、診療報酬との同時改定を見据え、重要課題の多くが先送りされる異例の展開となりました。

 

本コラムでは、議論の全体像と背景を整理し、今後の制度改正が現場や経営に与える影響と、今から備えるべき視点を解説します。

制度対応を確実な成果につなげるために、ぜひご一読ください。

     

執筆/小濱道博(小濱介護経営研究所 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

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1. 令和9年度改正に向けた議論の全体像と背景

昨年12月25日、2027年に向けた介護保険制度改正の方向性が取りまとめられた。

本来であれば、介護保険制度は3年ごとのサイクルで改正が行われるため、令和7年度の開始とともに審議が始まるのが通例である。

しかし、今回の議論は異例の経過を辿った。通常よりも早い前年の12月23日から審議が開始されたにもかかわらず、多くの重要論点が「結論の先送り」とされたのである。

 

その理由は、令和8年度が診療報酬との「同時改定」という大きな節目であったことにある。

介護保険法単独での大きな変更、特に高齢者の負担増に直結するような改革は、診療報酬改定による医療費負担増との兼ね合いから、判断を一時的に留保された形となった

 

しかし、これは議論が消滅したことを意味しない。

むしろ、令和9年度の改正こそが、介護保険制度の根幹を揺るがす「大改正」になることが確定路線となったと言えるだろう。令和8年の年末までに結論を出し、令和9年に向けて着実に準備を進めるというスケジュールが敷かれている。

 

 

2.利用者負担「2割」の対象拡大と激変緩和措置

次期制度改正における最大の焦点は、介護サービス利用時の自己負担割合に関する見直しである。

現在、介護保険の利用者は原則1割負担であるが、一定以上の所得がある層については2割、または3割の負担が求められている。国が問題視しているのは、この「一定以上の所得」の線引きである。

 

現状、2割負担の対象となっているのは、高齢者全体の上位約20パーセント、つまり5人に1人程度である。

年金収入等で言えば単身で280万円以上の方がこれに該当する。

一方、医療保険(後期高齢者医療制度)の世界に目を向けると、2割負担以上の対象者は上位約30パーセント、つまり3人に1人という割合になっている。国はこの「医療と介護のズレ」を解消し、介護保険も医療保険に合わせて上位30パーセントまで2割負担の枠を広げたいという意向を強く持っている。

 

もし医療保険と同じ基準まで対象を拡大すれば、年収280万円という現在の基準が下がり、より多くの高齢者が2割負担の対象となる。具体的には、上位20パーセントから30パーセントの間に位置する所得層、いわゆる中間所得層の負担が倍増することになるため、利用控えや生活困窮を招く恐れがある。

そこで議論されているのが、一気に基準を引き下げるのではなく、段階的に引き下げる案や、負担増に対する激変緩和措置の導入である。

 

具体的に検討されている緩和措置の一つが、負担増の上限設定である。

新たに2割負担となった場合でも、その負担増加額を月額最大7000円程度に抑えるという案が出ている。

また、もう一つの重要な視点として「資産」の考慮が導入されようとしている。たとえ年収基準で2割負担の対象になったとしても、預貯金の残高が一定額以下、例えば700万円以下であれば、自己申告によって1割負担に据え置くという仕組みである。

これは、老後資金2000万円問題などが叫ばれる中、収入だけではなく資産も加味して負担能力を判断しようという新しい試みである。ただし、この資産確認には膨大な事務負担が伴うため、実施時期や具体的な確認方法については引き続き慎重な議論が続けられることとなる。

 

介護保険制度の見直しに関する意見( 案) ( 概要)

 

  

3.高齢者住宅の登録制導入と囲い込みへの規制

令和9年度改正に向けて既に動き出しているもう一つの大きな柱が、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に対する規制強化である。この背景には、一部の施設において過剰な介護サービス提供が行われているという実態がある。

 

近年、「ホスピス型住宅」や「パーキンソン病専門ホーム」といった、医療依存度の高い高齢者を受け入れる施設が急増している。これ自体は地域医療の受け皿として重要であるが、問題視されているのは、入居者全員に対して一律に過剰な訪問看護を提供し、一人当たり月額100万円を超えるような高額な保険請求を行っている事例が散見されることである。

こうした過剰請求は介護保険財政を圧迫するだけでなく、本当に必要なサービスが提供されているのかという質の面でも疑義が生じている

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