2025.10.27
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介護保険制度改正の潮流とAIが拓く未来

~小濱道博のこれからの時代を乗り切る介護事業戦略 vol.12~

~小濱道博のこれからの時代を乗り切る介護事業戦略 vol.12~介護保険制度改正の潮流とAIが拓く未来

     

編集部より

2024年に行われた介護報酬改定や、経営情報の提供の義務化など、介護業界は大きな変化の波の中にあります。そのような時代において、日経ヘルスケアや介護ニュースJOINT、介護実務書籍執筆者としても著名な小濱介護経営事務所代表、小濱道博さんが「これからの時代を乗り切る介護事業戦略」を、解説していきます。

  

第12回は、『介護保険制度改正の潮流とAIが拓く未来』です。

 

介護業界では、少子高齢化に伴う需要の増加と人手不足が深刻化しており、経営の先行きに対する不安が広がっています。従来の報酬改定だけでは解決が難しい課題も多く、事業者には効率性とサービスの質の両立が求められています。

 

そこで本稿では、2024年度の介護報酬改定を背景に、AIやICTの活用が現場や経営にどのような変化をもたらすのかを、わかりやすくご紹介します。制度の方向性や実際の業務改善例、人材定着のヒントなどを通じて、これからの介護経営に必要な視点をともに考えていきましょう。

 

ぜひご一読ください。

     

執筆/小濱道博(小濱介護経営研究所 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

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❖. はじめに

介護事業を取り巻く環境は、今、歴史的な転換期を迎えている。

少子高齢化の進展に伴う介護ニーズの増大と、それに反比例する介護人材の不足は、もはや一事業所の努力だけでは解決できない構造的な課題となっている。

 

2024年度の介護報酬改定は、単なる報酬額の変更に留まらず、この構造的課題に立ち向かうための制度設計を強く意識したものあった。

 

今回は、今後の介護保険制度改正の潮流を読み解きながら、AIというテクノロジーが介護事業者の持続可能性をいかに高めていくかについて考察する。 

  

 

1. 「地域包括ケアシステム」の深化と多様なサービスの追求

2024年度の介護報酬改定で明確になったのは、「地域包括ケアシステム」の深化に向けた国の強い意志である。

 

これまでの制度は、主に施設サービスや在宅サービスといった形でサービスを分断して提供してきたきらいがあるが、今後は、医療・介護・住まい・生活支援が一体となって、高齢者の尊厳ある暮らしを支える仕組みが求められている。

その象徴が「複合型サービス」の推進である。

小規模多機能型居宅介護や看護小規模多機能型居宅介護(看多機)といった複合型サービスは、通い・泊まり・訪問といった複数のサービスを柔軟に組み合わせて提供することで、利用者の変化するニーズにきめ細かく対応することを可能にする。

 

しかし、これらのサービスは、人員配置や加算要件が複雑であり、運営には高度なマネジメント能力が不可欠である。

特に、看多機では医療的ニーズへの対応も求められるため、医療と介護の連携が円滑に行われるための情報共有体制が生命線となる。

 

また、訪問介護における「生活援助」のあり方も大きな議論の対象となっている。

現行制度では、要介護度が高い方から低い方まで一律に生活援助が提供されているが、今後はよりニーズの高い利用者にサービスを集中させるため、要介護度の低い利用者の生活援助を、地域のボランティアやNPO法人といった多様な主体が担う方向性が示唆されている。

これは、介護保険制度が、限られた財源を有効に活用するための必然的な流れであると同時に、介護事業者が地域社会との連携を強化していくことを促すものでもある。

 

 

2. 人材不足への対抗策「処遇改善」と「生産性向上」の両輪

介護報酬改定のもう一つの大きな柱は、介護人材の処遇改善と生産性向上の両立である。

介護業界の離職率の高さは、依然として深刻な問題であり、その原因の一つとして賃金の低さが挙げられてきた。

今回の改定では、「ベースアップ等支援加算」を創設し、介護職員の賃金改善を後押ししている。

しかし、単に賃金を引き上げるだけでは、事業経営の持続可能性は保てない。

人件費の増加を補うためには、業務の効率化、すなわち「生産性向上」が不可欠となる。

介護現場は、記録業務、情報共有、事務作業など、多岐にわたるノンケア業務に多くの時間を費やしている。

 

これらの業務をいかに効率化し、職員が本来の専門職としての業務である「対人ケア」に集中できる環境を整えるかが、これからの経営者には問われる。

この課題を解決するための最も有効な手段が、AIやICTの活用である。

例えば、AIスピーカーやタブレット端末を用いた音声入力による介護記録システムを導入すれば、手書きやパソコンへの入力作業を大幅に削減できる。

 

また、見守りセンサーを導入すれば、夜間の巡視の負担を軽減し、職員の精神的・身体的な負担を和らげることができる。これにより、職員はより質の高いケアを提供できるようになり、結果として利用者の満足度も向上する。

AIとICTは、介護の「質」と「効率」という、これまで相反すると考えられてきた二つの要素を両立させるための鍵なのである。

  

 

3. AIが変える業務プロセスと介護の未来

それでは、AIは具体的に介護の現場の業務プロセスをどのように変えていくのであろうか。

 

 

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