2022.02.24
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認知症ケアから看取りまで、多様なニーズに応える力

介護事業者インタビューvol.8 株式会社アポロ・サンズHD

 

編集部より

アポロ・サンズHDは、東京都葛飾区を中心に有料老人ホームやグループホーム、小規模多機能型居宅介護などを展開しています。設立時から認知症ケアに取り組んできた同社は、他の施設では受け入れ困難な重度の認知症の方も受け入れるなど、認知症ケアに強い施設として高い評価を得ており、「終の棲家として最期まで楽しくメリハリのある生活を送ってもらいたい」という理念のもと、地域に根差してご入居者であるゲストの方の暮らしを支えています。

 

取材・文/松崎 純子

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

 

 

三浦 眞澄みうらますみ

株式会社アポロ・サンズHD 代表取締役会長

1952年東京都葛飾区生まれ。1975年東京家政大学児童科卒業。その後、葛飾区医師会付属看護学校卒、准看護師資格取得を経て、東京家政大学樋口恵子教授のもとで老齢学履修。

1995年に株式会社サンハートを設立し、代表取締役に就任。1998年には、第1号の介護付有料老人ホーム「SILVER SUPPORT“コスモス”」を開設。現在は、20以上の高齢者施設と500人以上のスタッフを抱える株式会社アポロ・サンズHDの代表取締役会長。医療・福祉に関わってきた経験により、認知症についての講師としても多方面で活動している。

 

 

  

認知症ケアに取り組み地域に必要とされる介護サービスを追求

 

――介護事業を始めたきっかけについて教えてください。

 

大学を卒業後すぐに結婚しましたが、嫁ぎ先が病院ということもあり、看護学校に通い、准看護師資格を取得しました。育児が落ち着いてきた頃、これまで学んだことを活かし、地域に貢献できる事業を始めたいと思い、東京家政大学樋口恵子教授のもとで老齢学を学ぶことにしました。その際に実習で訪問した高齢者施設での体験に衝撃を受け、シニアの方が終の棲家として、最期までその人らしく暮らせる居場所を作りたいと思い、1995年にサンハートを設立しました。現在は、介護付有料老人ホーム2施設、住宅型有料老人ホーム2施設、グループホーム3施設、小規模多機能型居宅介護4施設のほか、デイサービス、ショートステイ、事業所内保育所などを展開しています。

 

 

――介護付有料老人ホームと小規模多機能型居宅介護の開設は、ともに葛飾区内で第1号施設だったそうですね

 

地域に必要とされるサービスは何かを考え、認知症ケアから終の棲家としての看取りまでに対応できるように、ドミナント形式にて施設を増やしてきました。

 

設立時から取り組んできた認知症ケアでは、認知症や末期がんの方に対して痛みや不安を和らげるスウェーデン生まれの緩和ケア手法「タクティールケア」や、コミュニケーションをとりながら楽しく学び脳を活性化させる「くもん学習療法」、脳の若返り効果があることが医学的に証明されているオーストラリアの「ダイバージョナルセラピー」などを取り入れ、老いることを楽しんでいけるような居場所づくりを目指しています。

 

※各個人が、いかなる状態にあっても自分らしくよりよく生きたいという願望を実現する機会を持てるよう、その独自性と個性を尊重し援助するために「事前調査→計画→実施→事後評価」のプロセスに基づいて、各個人の“楽しみ”と“ライフスタイル”に焦点をあてる全人的アプローチの思想と実践のこと(日本ダイバージョナルセラピー協会HPより引用)

 

 

 

 

タクティールケアの導入でゲストに穏やかな日常を提供

 

――タクティールケアの導入効果はどのようなものがあるのでしょうか?

 

手足や背中を柔らかく包み込むようになでることにより、興奮状態や不安感・痛みなどを緩和する作用があります。スウェーデンでは医療の現場で用いられ、認知症の方だけではなく、健康な人にも提供されています。私どもの施設では、多くのスタッフがこの手法を習得しています。そして、認知症の方の不安を和らげ、スタッフとよい関係を築くコミュニケーション方法の1つとして活用しています。また、認知症の方だけでなく、看取りケアや家族支援などにも広く活用しています。

 

私どもの施設では、多くのスタッフがこの手法を習得しています。そして、認知症の方の不安を和らげ、スタッフとよい関係を築くコミュニケーション方法の1つとして活用し、また、認知症の方だけでなく、看取りケアや家族支援などにも広く活用しています。このように認知症の多様なニーズを理解しケアできる「認知症スペシャリスト」の育成を目指し、さまざまな取り組みを行っています。

 

――くもん学習療法の導入もその一環なのでしょうか?

 

そうですね。くもん学習療法の効果は前頭前野機能の維持・改善にとどまらず、高齢者の「自信」「意欲」「誇り」を引き出すことにもつながると聞き、2005年に導入しました。教材を利用して毎日15分程度、楽しく読み書きや計算・数字盤を専門のスタッフと共に取り組んでいますが、脳の活性化だけでなく、ゲストとスタッフ間のコミュニケーションにも役立っています。学習療法中は、自然な会話が生まれ、そのゲストの方の過去やこだわり、趣味趣向などを聞くことができます。その情報をスタッフ間で共有することにより、ケアの中でのさりげない会話で素敵な笑顔をたくさん見ることができるようになりました。

 

 

施設内には季節を感じられる装飾やゲスト様の写真が掲示され、穏やかな日常を物語っている。

 

 

  

家族のような温かさを提供し、老いることを楽しめる日々を

 

――幅広い年齢層のスタッフの方が働いていらっしゃいますが、どのような意図があるのでしょうか

 

高齢者施設には、幅広い年齢層のスタッフがいることが好ましいと思っています。現在のスタッフ数は約600名、平均年齢は65歳で、10代から80代までのスタッフが、ゲストの方の生活をサポートしています。高齢になるにつれ、入浴介助や移乗、ベッドメイキングなどの力仕事が難しくなることもありますが、東京オリンピック(1964年)の時のワクワク感など、その時に体験した感覚を共有できるのは同世代のスタッフだからこそです。若いスタッフの役割ももちろん大切ですが、同じ体験について、話し相手ができるというのも同じくらい大切だと考えています。3世代家族が一緒に暮らしているような雰囲気を大切にしており、実際に親子で働いてくれているスタッフもいますし、親御さんが入居し当施設で看取ったスタッフもいます。

 

 

――終末期をさらに豊かなものにするためホスピスも開設されました

 

2014年にホスピスを開設し、入居者の年齢や病状は問わず、最期まで楽しく交流できる住まいづくりを目指してきました。ホスピスの運営を始める前は、病気の方にはなるべく入院していただくことをお勧めしていましたが、それを望まないゲストの方もいます。医師の往診回数を増やし、医療との連携を密にすることで、徐々に私たちのホームでの看取りを認めていただけるようになりました。今後も地域に根差して、ゲストの方の要望に最大限対応できる住まいづくりに邁進していきたいと考えています。

 

 

施設内に設けられたゲスト様がリラックスできる空間「スヌーズレン」。

オランダ語の2つの単語の合成語で、『自分で確かめる・探素する」という意昧と

『ゆったりする・リラックスできる」という意昧がある。 

 

――お亡くなりになられた方のご家族を招待して「家族会」を開催しているそうですね

 

その年にお亡くなりになられた方の家族を招待して、花火大会の鑑賞や観劇会を開催しています。ご家族の顔を見ると、施設でお亡くなりになられた方、お1人おひとりの思い出やエピソードが走馬燈のように浮かんできて「この方がいてくださったおかげで、私たちはいろいろな勉強ができた」と、その出会いに感謝することができます。スタッフもご家族と話しながら思い出を振り返り、ご家族から労いの声をかけてもらうことが励みにもなっています。自分にできる精一杯のケアをしようという気持ちが強くなり成長につながっていると思います。

 

 

――今後の事業展開についてどのようにお考えですか

 

ご入居されているゲストの方がいつも「生きていてよかった」と実感できる生活環境を提供するとともに、家族の幸せもサポートしていきたいと考え、サンハートではいろいろなことにチャレンジしています。また、認知症への理解を深め、その人らしい生活を送れるようお手伝いをしています。年を重ねていくなかでも健康で楽しい毎日を過ごせるよう、食生活や環境づくりにも力を入れており、老いることを楽しんでいけるようなそんな素敵な場所でありたいと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

株式会社アポロ・サンズHD

株式会社アポロ・サンズHD

法人名:株式会社アポロ・サンズHD
住所:〒124-0021東京都葛飾区細田1―22―6
URL:http://apollosuns.co.jp/index.html
TEL:03-3672-3339
設立:2012年(平成24年)11月
事業内容:介護福祉事業

 

 

 

 

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