2021.04.28
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始動!科学的介護情報システム「LIFE」
~LIFEが目指す新たな介護とは~

厚生労働省老健局老人保健課介護保険データ分析室 田邉和孝地域情報分析支援専門官に聞く

 

 

編集部より

介護にエビデンスを導入することを目的としたLIFE「科学的介護情報システム」が2021年4月からスタートしました。データの分析・フィードバックを行うことで、全国どこの施設でも質の高い介護を受けられることを目指すと同時に、ICTの活用によって介護現場の負担軽減も狙います。改めてLIFEの狙いと課題、今後の展望について、厚生労働省老健局老人保健課介護保険データ分析室の田邉和孝地域情報分析支援専門官に伺いました。

 

取材・文/横井 かずえ

撮影/立崎 雄一郎

編集/メディカルサポネット編集部

  

“根拠に基づく介護”のスタートはエビデンスの収集から

LIFE(Long-term care Information system For Evidence)とは日本語で言うと「科学的介護情報システム」のことです。根拠に基づく介護を推進し、介護の質をより向上させていくことが目的です。

医学と異なり、生活全般のサポートを目的とする介護では、これまで「根拠に基づいてケアをする」という概念が根づいてきませんでした。そうした中で、ベテランスタッフの勘や経験に頼らずに、根拠に基づく介護を導入し、ひいては介護の質をより向上しようというのがLIFEの狙いです。

  

「医療においては早くからエビデンスに基づく治療が浸透してきました。例えば、胃がんであっても乳がんであっても、全国どこの病院でもエビデンスに基づいた同じ標準治療が受けられます。根拠に基づいた介護を導入することによって、介護も医療と同じように、どこの施設でも質の高い標準的ケアを受けられるようにすることが、LIFEの大きな目的の1つです」と田邉さんは話します。

 

※LIFEwebサイトトップページ

 

根拠に基づく介護を行うためには、まずはエビデンスを集めることが必要です。しかし、現状では介護に関するデータは十分ではありません。国が持つ介護に関するデータは「要介護認定情報」「介護レセプト情報」などのみ。

  

しかし、要介護認定は初回が12か月、2021年度4月からは最長4年間更新されないため、最新情報を反映させることができません。さらに介護レセプトはどのようなサービスを何回、使っているかはわかりますが、リハビリ内容やそれによって身体の状態がどう変化したかなどの詳細データは含まれていません。介護に根拠を導入するには、より細かい、利用者の方の生活の状態を表す情報を収集する必要があるのです。

  

なお、情報収集のための事業としては、LIFEに先行してVISITとCHASEがあります。VISITはリハビリテーションに特化した情報を収集するシステムであり、CHASEは栄養や口腔、認知症などまで含めたより幅広い情報を収集するシステムです。LIFEはVISITとCHASEが統合し、さらに多様な情報を収集するためのシステムという位置付けになっています。CHASEはモデル事業等を通じて活用を進めて参りましたが、残念ながら介護保険とは紐づいていませんでした。1年間モデル事業を行った結果、データの活用具合なども確認した上で、4月から介護保険と連動させてLIFEが始動した経緯があります。

  

データの収集からフィードバックまで、PDCAサイクルが加算の条件

LIFEをどう活用する?

LIFEの具体的なイメージはどのようなものなのでしょうか。

  

例えば、利用者Aさんが通所介護施設でリハビリを実施していて、そのデータを分析したところ、全国平均と比べてあまり効果が出ていないことがわかったとします。一方でその人の栄養に関するデータを見ると、BMIが低く低体重であることもわかりました。

するとこの人のリハビリ効果が出にくい原因が「低体重にあるかもしれない」という考察ができるのです。そこでリハビリ内容はそのままで食事内容を見直してみよう、というプランの変更が考えられるようになります。(図参照)

  

<図:Aさんの通所介護に関するデータ収集からフィードバックまで>

※厚労省資料を参考に編集部にて再構成

  

このようにLIFEを活用することで、1人ひとりの利用者をどのようにサポートすべきか気づきが得られる、というのが大まかなイメージになります。

  

ここで気をつけなければいけないのは、「LIFEはデータを送信して終わりではない」ということです。データを送信するとそれに対して分析が行われ、結果がフィードバックされます。そのフィードバックをケアプランや支援計画等に反映させて、どのように改善したか再度、データを収集して送信し、さらにフィードバックを受ける――。このプロセスの繰り返しによって、利用者ごとにベストな介護を追求するのがLIFEです。

 

LIFEを活用してPDCAサイクルを回し、それによって介護の質を向上させる。この一連の流れをすべてやることで、初めて加算が算定できます。データを提出して終わりではなく、フィードバックを受けてそれを介護に反映させるところまでが、一連のパッケージになるのです。

 

※厚労省資料を参考に編集部にて再構成

 

LIFE活用で得られるメリット

では、LIFEを活用することでどのようなメリットが得られるのでしょうか?

現場で働くスタッフにとっては、介護の効果が目に見える形で現れやすくなり、モチベーションが上がります。またICTを活用する一般的なメリットとして、事務作業の軽減や時間外労働の削減などの負担軽減が期待できます。

  

また、利用者にとっては、どこの施設でも質の高い介護を受けられるようになることが最大のメリットですが、それ以外にも自分にあった施設を選びやすくなるなどが考えられます。

田邉さんは「LIFE加算の取得状況を見て、例えば積極的にリハビリなどを行っている施設かそうでないかなど、施設ごとの特色が把握できます。のんびり過ごしたいのかリハビリを積極的にやりたいのか、利用者のニーズにあわせて施設を選びやすくなることが考えられるでしょう」と予想しています。

 

サポート体制①:ハード面を支える「ICT支援事業」補助金

4月の開始にあたって現場からは「申し込みをしたら、必ずデータを送らなければいけないのか」という問い合わせが多いそうですが、そのようなことは決してないと田邉さんは強調します。

「データの送付や加算の取得はあくまでも任意のもの。申し込みをしたからといって、何らかの義務が発生するということはありません。申し込みさえすれば無料で使えるものなので、まずは使ってみてください」

  

4月からスタートするにあたり、サポート体制も強化されています。

ハード面ではICTの導入などの環境整備に「ICT導入支援事業」の補助金制度があります。

これについては「LIFEを始めるにあたってタブレットを購入したり、LIFE対応の介護ソフトを用意する、wi-fi環境を整備するなど、ハード面での準備が必要になるかと思います。それに対しては、ICT支援事業の補助金を活用することができます。この補助金はもともと、介護事業所の業務効率化を通じて、訪問介護員などの負担を軽減するためのものでした。従来は上限50%までを補助するものでしたが、LIFEに関連する環境整備に対しては、4分の3を下限に費用負担を補助するよう、制度が拡充されました」と、現場負担を考慮した制度が整っています。

  

サポート体制②:ソフト面では「LIFEマイスター」がサポート

ソフト面では、「LIFEマイスター」という専門家を中心としたサポート体制が整備される予定です。LIFEマイスターは学問・現場の両面から、介護に精通する人を想定しており、彼らが中心になって動画や各種の教材を作るほか、保険者の協力も得て、現場へ人を派遣することで検討が進んでいます。

 

LIFEマイスターによるサポートは、主にデータの収集方法とフィードバックを受けたデータの活用方法を想定しており、「データを蓄積してエビデンスを作るには、データの精度が高いことが大切です。そのためまずは測定方法をサポートし、その上で、フィードバックされたデータの活用方法やケアへの活かし方をお伝えしていく考えです」と、現場へのサポート体制に田邉さんは期待を寄せています。

 

 

介護事業所100%の参加を目標に申し込み促進 

4月からスタートしたLIFEですが、「3月末時点でおよそ5万5千件の申し込みがあります。一部、同一の事業所がサービスごとにIDを発行するなど重複があるため、正確な数字はわかりませんが、万単位で申し込みがあることは間違いありません。日本全体でおよそ30万の事業所があるので、少なくとも2割強は申し込みをしている状況です」という田邉さんのお話から、すでに高い関心を集めていることがわかります。

  

LIFEの運用は3年ごとの介護報酬改定にあわせ、現場の負担や活用度合いを確認しながら見直していく方針です。田邉さんは「3年ごとの介護報酬改定を1つの目印にしながら、実態にあわせてよりよいシステムに改善していきたいと考えています。3年、6年と経過するにつれて『LIFEに対応しているのは当たり前』という状況になり、最終的には100%の事業所が参加して、日本全体の介護の質が向上することを目指しています」と今後の展望を話しました。

  

  

<LIFE関連記事は以下もご参照いただけます>

  

■最終確認!令和3年度 介護報酬改定のポイントと次期改定に向けた対応策/講師:小濱道博氏

〜5月10日の国保連請求を前に最終準備を〜

https://medical-saponet.mynavi.jp/news/new_article/detail_2626/

  

■介護報酬改定から見える介護保険制度の今後

介護事業者様向け/無料オンラインセミナー

第13回メディカルフォーラム

https://medical-saponet.mynavi.jp/news/newstopics/detail_mf13-info/

  

■介護保険新データベース「LIFE」スタートへの準備と覚悟

介護経営コンサルタント小濱道博の先手必勝の介護経営 vol.5

https://medical-saponet.mynavi.jp/news/special/detail_kohamacolumn05/

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