2019.01.17
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封入体筋炎における自己抗体の意義は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

指定難病の一つ封入体筋炎。四肢の筋力低下や嚥下障害は進行性です。しかし、有効な治療法は確立されていません。抗NT5C1A抗体の研究が期待されます。

 

封入体筋炎は,高齢者の炎症性筋疾患として徐々に増加していると言われていますが,自己抗体の意義はどのように理解されていますか。熊本大学・山下 賢先生にご回答をお願いします。

【質問者】

青木正志 東北大学大学院医学系研究科 神経・神経内科学教授

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【回答】

【抗NT5C1A抗体は特異度の高さから封入体筋炎の診断に有用である】

 

封入体筋炎(inclusion body myositis:IB M)は,高齢者に好発する難治性筋疾患です。わが国では比較的稀な疾患と考えられてきましたが,厚生労働省難治性疾患政策研究事業「IB M」班の調査によって,わが国に1000〜1500人の患者が存在し,欧米に匹敵する有病率(9.83人/100万人)であることが明らかになりました1)。本疾患の典型的症状として,手指屈筋群(特に深指屈筋)や大腿四頭筋の筋力低下と筋萎縮が左右非対称性に出現し,緩徐に進行します。手指屈筋群の障害により握力が低下し手指の微細運動が困難となり,また大腿四頭筋の障害により階段昇降や床からの起立困難,頻回の転倒を呈するようになります。病状の進行に伴って半数以上の患者では嚥下障害を合併します。

 

わが国での平均発症年齢は63.4±9.2歳ですが,発症から診断まで55.5±49.7カ月と長期間を要することが示されています2)。診断に長期間を要する一因として,いずれの診断基準においても筋生検が診断に不可欠であり,非侵襲的なバイオマーカーが存在しないことが挙げられます。

 

2011年に52%のIBM患者の血漿中に約43kDaの骨格筋蛋白を認識する自己抗体が存在すると報告されました。2013年,この標的抗原がNT5C1Aであることが同定されました3)4)。ドットブロット法を用いた抗体測定では,カットオフ値に応じてIBM診断の感度は34~70%,特異度は92~98%であると報告され3),その後本患者血清中にはIgG型に加えてIgA型やIgM型抗体も存在し,これら3つのサブタイプの複合測定により診断感度が76%まで上昇することが示されました5)。

 

2013年以降,種々の異なる技法を用いた本抗体の検出に関する報告がありますが,いずれにおいてもIBM患者に高い陽性率を示す一方で,同抗体は筋症状を有さないシェーグレン症候群や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患患者においても検出されることが明らかとなっています6)7)。現時点では同抗体測定はその特異度の高さからIBMの診断に有用なバイオマーカーと考えられます。

 

抗NT5C1A抗体陽性患者の臨床的特徴として,陽性患者では球麻痺や顔面筋障害,呼吸筋障害などの運動機能障害がより強く8),致死率が高いと報告されています9)。また筋病理学的解析では,シトクロムオキシダーゼ(cytochrome oxidase:COX)欠損線維の頻度が高いことや9),タイプⅡ線維優位の筋萎縮が顕著であるとの報告もあります10)。抗NT5C1A抗体の病原性に関して,筆者らはin vitroおよびin vivo受動免疫実験で,本抗体は抗原であるNT5C1Aの発現低下とp62の発現増加,筋線維内凝集をもたらすことを明らかにしました10)。本抗体は,本疾患における変性と炎症性機序のクロストークのメカニズムを解明する鍵となることが期待されます。

 

【文献】

1) Suzuki N, et al:J Neurol. 2012;259(3):554-6.

2) Suzuki N, et al:Orphanet J Rare Dis. 2016;11 (1):146.

3) Larman HB, et al:Ann Neurol. 2013;73(3):408-18.

4) Pluk H, et al:Ann Neurol. 2013;73(3):397-407.

5) Greenberg SA:Muscle Nerve. 2014;50(4):488-92.

6) Herbert MK, et al:Ann Rheum Dis. 2016;75(4): 696-701.

7) Lloyd TE, et al:Arthritis Care Res(Hoboken). 2016; 68(1):66-71.

8) Goyal NA, et al:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016;87(4):373-8.

9) Lilleker JB, et al:Ann Rheum Dis. 2017;76 (5):862-8.

10)Tawara N, et al:Ann Neurol. 2017;81(4):512-25.

  

【回答者】

山下 賢 熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学准教授

 

執筆:

青木正志 (東北大学大学院医学系研究科 神経・神経内科学教授)

山下 賢 (熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学准教授)

       

 出典:Web医事新報

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