2018.10.30
5

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の早期診断のポイントは?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

根本的な治療法が確立していない筋萎縮性側索硬化症(ALS)。進行が速いため、早期発見が不可欠です。少しでも ALSの初期症状が疑われる場合は、神経内科専門医に連携を取ってください。そして、告知後、患者が病気を受け入れる精神的フォローも、QOL(Quality Of Life)向上に向けた医療関係者の役割の一つです。

 

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の診断は改訂El Escorial診断基準やUpdated Awaji基準を用いて行われますが,臨床上ALSが強く疑われながら,上位あるいは下位運動ニューロン症状が明らかでなく,診断基準を満たさない症例に遭遇します。ALSの早期診断は,難病申請や治療介入,治験登録など患者の診療の質向上に重要です。ALS診断のポイントについて,神戸市立医療センター中央市民病院・幸原伸夫先生にお伺いします。

【質問者】

漆谷 真 滋賀医科大学内科学講座脳神経内科教授

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

【回答】

【筋電図とエコーによる線維束性収縮電位の所見が感度を高める】

一昔前には夢であったALSの根本治療も現実味を帯びてきました。進行を止める,あるいは緩徐にできる薬が手に入ったとき,最も必要なのは早期診断です。しばしば遭遇する早期診断困難例は,進行性の球症状があるが診察時点では四肢はまったく正常という場合や,手の筋萎縮は少しあるが下肢は問題なく反射は正常,といった症例です。上位運動ニューロン障害は,腱反射の亢進などの臨床所見が唯一の確実な判定手段ですが,下位運動ニューロンについては,筋電図がきわめて有用な診断ツールになります。ALSでは,筋萎縮や脱力が明らかになるかなり前から運動ニューロンの変性は始まっており,筋電図では変性初期の変化をとらえることができるからです。

 

改訂El Escorial criterialの診断感度を高めるために2008年に提唱されたAwaji基準では,下位運動ニューロン変性を診断する際の筋電図の役割をより明確にし,また,慢性の神経原性変化が背景にある場合は,線維束性収縮電位(fasciculation potential:Fas)を,従来からの脱神経電位である線維性収縮電位(fibrillation potential:Fib)や陽性鋭波(positive sharp wave:PSW)と同等の活動性の脱神経を有する所見として扱うことになりました。これにより,活動性の脱神経所見の判断がより容易になりました。Awaji基準の提案後に行われた多くの検証研究では,この基準により感度は上がるが診断精度は落ちないという結果であり,本基準の早期診断における有用性が確認されました。

 

最初に挙げた球症状初発のような患者の脱力のない四肢で,Fib/PSWのみられない場合でも,Fasは高率に認められます。Fasの多くは運動ニューロンの末端での軸索膜の過興奮によるものと考えられていますが,なぜ,このような現象がALSの最初期の変化として出現するかはまだわかっていません。いずれにせよFasは,診断にはきわめて有用な所見です。

 

これと関連する最近の話題は,超音波検査(エコー)です。線維束性収縮は皮膚上からでも見えることがありますが,エコーを用いると明瞭に観察することができます。患者に侵襲もなく,簡便にできるため,ALSが疑われる症例では,エコーを用いて四肢・体幹・舌に線維束攣縮がないかを確認することが,診断の方向性を考える上で大きな手助けになるでしょう。ただし,全身の線維束性収縮が出現する良性の病態もありますので,あくまでも目安にすぎません。

 

エコーに加えて筋電図を行い背景に神経原性変化があることを確認することが,早期の下位運動ニューロン障害の確定診断には重要です。  

【回答者】

幸原伸夫 神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経内科部長/副院長

 

執筆

漆谷 真 (滋賀医科大学内科学講座脳神経内科教授)

幸原伸夫 (神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経内科部長/副院長)

 

 出典:Web医事新報

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP