2020.01.27
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タスクシフト実現のために組織全体で改革を
(長面川さより)

絶対に押さえておきたい!2020年度診療報酬改定の方向性と対応のポイント

2020年度診療報酬改定に向けて、2019年12月に基本方針の策定と改定率の決定がなされました。全体として-0.46%相当(本体+0.55%、薬価等-1.01%)という数字が注目されがちですが、本当に大切なのはその中身。「健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた『全世代型社会保障』の実現」をメインテーマに据えた2020年度改定の中身について、診療報酬の綿密な分析をもとにしたコンサルティングに定評のある株式会社ウォームハーツの長面川さよりさんに伺いました。

取材・文/河村 武志・中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/角田大樹(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

株式会社ウォームハーツ長面川さより代表に聞く2020年度診療報酬改定のポイント

 

  

2020年度改定の最大の焦点は「働き方改革」

2020年度改定を一言で表現するなら、診療報酬・介護報酬同時改定となる2024年に向けた布石ということになるでしょう。基本方針で掲げられた「改定の基本的視点と具体的方向性」のうち、とりわけ重点課題とされたのが「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」です。2024年は医師の働き方改革が本格的にスタートするタイミングであることからも、これから4年間の取り組みで自施設の組織改革を実現しなくてはなりません

  

2020年度診療報酬改定基本方針の図

(出典:令和元年11月28日 第122回社会保障審議会医療保険部会)

  

医師の働き方改革を重視する流れは、2018年度改定の時点から方向性が示され、経過措置が設けられた項目があります。例えば、2019年4月1日より一部の病院で必須とされていたのが、「多職種からなる役割分担推進のための委員会又は会議を適宜開催(医師労働時間短縮計画を作成、達成状況を評価)」「具体的取組み内容を掲示する等の方法で公開(職員向け・患者向け)」という項目です。行政指導でも重点的に確認される可能性のあるところですが、詳細な役割分担の計画を立てられていない医療機関がいまだに少なくありません。 

※急性期看護補助体制加算、医師事務作業補助体制加算、総合入院体制加算のいずれかの施設基準を届け出た医療機関が対象とされた。

   

株式会社ウォームハーツ代表の長面川さよりさん

長面川さより(なめかわ・さより)
株式会社ウォームハーツ代表取締役。昭和大学病院医事課を経て独立し、2016年から現職。診療報酬に関するコンサルティング業務、検定問題作問、レセプト精度診断、開業サポート等を行う。専門分野である診療報酬請求をもとに、より早い情報収集・問題点抽出・分析・ 改善等の立案を行い、クライアントと共に課題解決に取り組んでいる。

東京大学医学部附属病院保険診療指導顧問、埼玉女子短期大学客員准教授も務める。

  

多くの医療機関の計画が十分でないことの背景には、労務管理の不徹底があるようです。皆さんの施設では、それぞれの医師の正確な労働時間に加え、何にどれだけ時間を割いているのか把握できているでしょうか。タスクシフトを実現するためには、残業の原因になっている業務内容を洗い出し、それを誰が担うべきなのか検討する必要があります。医師労働時間短縮計画」の作成は、少なくとも2021年度には完全義務化されることが見込まれています。特定行為研修を修了した看護師、医師事務作業補助者、その他医療従事者などを活用しつつ最適な配置を目指すためには、人事や総務も巻き込みながら施設全体で改革に取り組む必要があるでしょう

  

医療費適正化はまったなし!の状況

もう一つ押さえておきたいのが、医療費適正化の流れです。入院医療については病床機能の分化を促し、あらためて本来の医療機関の役割を問い直すことで、可能な部分については在宅医療へ移行させる流れが強まっていきます。一方で、入院外・歯科医療費については、2023年度時点で0.6兆円の減算を実現するための取り組みが強化されていくでしょう

  

(出典:厚生労働省HPから第三期医療費適正化計画<2018~2023年度>について抜粋)

  

医療費適正化の一例が、糖尿病の重症化予防に関してみられます。糖尿病の1人当たりの年間医療費は、合併症がなければ5万円程度であるのに対して、透析を必要とする重度の腎不全になると575万円程度まで跳ね上がるという調査もあります。そのため、外来チーム医療による早期介入がいっそう重視されるようになり、「糖尿病透析予防指導管理料」や「糖尿病合併症管理料」にも影響してくると思われます。また、糖尿病の重症化予防のためには歯科や眼科と協働することが効果的であることから、医療機関同士の連携もさらなる推進が見込まれます。外来医療においても機能分化が促進され、大規模病院では専門外来の重要性が増していくでしょう。

 

なお、外来において患者さんへの指導内容を記録する際に活用できるのが、「生活習慣病管理料」に絡んで患者さんに交付される療養計画書です。チェックボックスを生かした分かりやすい書式になっており、このような厚生労働省が「推奨」する書式をうまく活用することで、適切な記録管理を実現しやすくなります

 

  

入院医療でメスが入るのはどこ?

それでは、入院医療における変化をもう少し詳しく見ていきましょう。ポイントになるのは「重症度、医療・看護必要度」です。患者さんの状態に応じた入院医療を提供するために2008年度改定より導入されたもので、今回の改定でも評価項目や基準の見直しがあるものと予想されます。

 

検討されている内容は、①除外される項目として、必ずしも入院で実施しなくてよいものとしてA項目の「免疫抑制剤の管理(内服)」、認知症やせん妄のケアに対する適切な評価は必要ではあるが、急性期の入院の評価指標として、評価基準②(B14または15に該当、A1点かつB3点)は適切ではないと検討されています。  

追加や変更となる項目として、②C項目の入院実施の割合が90%以上の手術や検査が対象になり、手術は2万点以上が検討されています。また、C項目の対象手術の評価日数は、在院日数の実態を踏まえて変更することが見込まれています。

 

救急患者の適切な評価反映として、看護必要度Ⅱでは「救急医療管理加算1及び2」または救急車の搬送点数である「夜間休日救急搬送医学管理料」、看護必要度Ⅰは「救急搬送後の入院」の評価日数を2日→5日等の検討もされています。

B項目(患者さんの状態など)については、現在、評価方法を「患者さんの状態」と「介助の必要性」に区分した上で、根拠となる記録の評価となる根拠記録の記載を不要とすることも検討されています

(令和2年1月15日「入院医療その7」ウォームハーツにて加工)

  

前述の検討されている評価や基準を全ての条件を適用した場合の看護必要度の割合のシミュレーションを行った結果、看護必要度Ⅰ、看護必要度Ⅱともに現行の基準と同等の割合を示すことになりました。ただし、急性期一般入院料4については現行より下回る結果となり、再検討されています。前述の条件を適用した場合の貴院の看護必要度のシミュレーションを行うことが必要と考えます。

なお、ICUについては、これまで「特定集中治療室管理料1、2」を算定する場合に入退室時のSOFAスコアによる測定と報告が義務付けられていましたが、今回の改定で3、4まで対象が拡大されるかもしれません。正確なデータ管理が求められ、測定や記録の担い手を慎重に判断したいものです。
ICUについては、早期栄養士介入の重要性の評価が掲げられており、日本集中治療医学会の「日本版重症患者の栄養療法のガイドライン」をもとに運用の検討も必要と考えます。

  

  

回復期等を担う病床に関しては、DPC病棟と地域包括ケア病棟を併せて持っている病院で特に注意が必要です。DPC対象の一般病棟から地域包括ケア病棟へ患者さんを転棟させるタイミングが、損益分岐点による転棟が明らかな医療機関も多く、こうした事態に対応するため、今回の改定では、同一施設内において一般病棟より地域包括ケア病棟へ転棟した場合、病室単位と同様に引き続きDPCにより入院料を算定するといった対策がなされる見通しです。また、転棟の割合や自宅等からの直接入院の割合など、施設基準の要件変更も検討され今後ベッドマネジメントに影響がでることも推移できます。

 

 

病院経営に関わる民法・医療法の改正は?

診療報酬改定では可能な限り経営に反映できる項目を検討することは否めませんが、要件を満たさなければ行政指導を受ける項目へと移り変わっていく可能性が高く、必ずしも継続的な増収は見込めないことも多々あります。近視眼的な施策に陥ることなく、長期的な視野で自施設の価値を高める施策、継続的な収入担保をめざすためには、組織全体で取組むことが必須となります。

 

また、診療報酬改定のことだけでなく、病院経営に関わる法改正の内容も押さえておく必要があります。その最大の焦点は、2020年4月1日より施行される民法や医療法の改正です。民法改正においては、入院時に必要な保証契約等を行う際、極度額を記載することが必要になります。しかし、患者さんの容態により提供する医療が変化するケースもあり、事前に極度額を決定しておくことが難しいこともあります。現状においては、法務省等から示されたQ&Aでも詳細が不明瞭で、多くの病院が対応に苦慮しています。各医療機関の顧問弁護士等と相談のうえ、院内運用を整備していくことも必要です。

  

  

医療法改正に関して注目したいのは医療放射線の適正管理で、被曝線量の記録や管理、安全責任者の配置、責任者による院内研修などが求められるようになります。CTや血管造影などの医療機器を備える医療機関であれば、規模の大小を問わずに義務付けられるため注意してください。

 

1月からの動き出しで改定の波を乗りこなそう

それでは、こうした変化が見込まれる今回の改定において、各医療機関ではどのようにスタートダッシュを切ればよいのでしょうか。準備のための大まかなスケジュールは次のようになります。

 

(メディカルサポネット編集部作成) 

 

このように、1月中旬からの動きに注目し、いち早く対応に乗り出すことが大切です。特に中央社会保険医療協議会総会の動向は常にチェックし、その発表内容を日付ごとにまとめておくことをお勧めします。そうして一元化された情報をもとに、現場を理解したプロジェクトリーダーを中心として自施設の課題に早期から取り組むこと、また、4月以降の実績やカルテ記載等の要件が実践されているか含め、継時的に検証を行い、過不足なく収益に反映し、行政指導等における減収防止も同時に行っていくことが望ましいこととなります。

  

メディカルサポネット編集部

(取材日:2019年12月24日)

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