2020.01.15
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ロールモデルと心の知能指数(EQ)

「看護×学び」で現場教育を変える! vol.4

IQは”頭脳”の知能指数として広く知られていますが、”心”にも知能指数(EQ)があることを皆さんはご存知でしょうか?「自分や他者の感情を知覚・認識し、それをうまくコントロールしながら扱う能力」と聞いて、マネジメントする立場にあるほどこの能力は求めらえる機会が多くありそうです。コラム第4回のテーマはこの「心の知能指数」。1920年に提唱されたことに始まり、そこから100年の時を経て現在組織開発において注目を集めているトピックです。寺本さんがコロンビア大学院の授業で学んだことや、寺本さん自身がEQの高い人と働いた経験を通して、EQが持つ可能性に迫ります。

執筆・写真/寺本 美欧(Teachers College, Columbia University)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

寺本美欧 コラム バナー画像

 

新年明けましておめでとうございます。怒涛の秋学期を終えて年末に一時帰国し、しばしの日本を満喫しています。4ヵ月間アメリカでの生活をしたからこそ、日本の良さを感じる日々です。なんといってもごはんが美味しい! 春学期が始まるまで、しばしのエネルギーチャージです。

 

信頼される管理職の秘密「EQ」 

秋学期に大学院の授業でLeveraging Emotional Intelligence Quotient(EQ) to enhance organizational effectiveness(組織効果を高める心の知能指数)という授業を履修しました。EQとは「心の知能指数」と訳され、近年組織においてホットなトピックです。1920年、エドワード・ソーンダイク氏が「社会的知性」という言葉を世に提唱したのがはじまりです。そこから何人もの研究者を経て、組織学や社会全体に広まったのは70年後の1995年にダニエル・ゴールマン氏が出版した著書 Emotional Intelligenceの影響が大きいと言われています。

 

実はソーンダイク氏は長年ここTeachers Collegeで心理学を教えていました。

偉大な功績を称えThorndike hall として建物の名前にもなっています。ここでも授業を受けています。

 

EQとは自分や他者の感情を知覚・認識し、それをうまくコントロールしながら扱う能力のことを指します。EQで特に大切とされるのは self-awarenessと呼ばれる“自己の気づき”です。今自分はどのような気持ちだろう、緊急事態では自分はどのような思考回路になるだろう、と問いかけを繰り返しながら「自己の気づき」の力を育てていくことが可能だと言われています。

 

渡米前にダニエル・ゴールマン著の日本語訳版『EQリーダーシップ』という本を読んだことをきっかけに、組織におけるEQの効果について関心を持っていました。授業内で「これまでEQが高い人と働いた経験はあるか?」というグループディスカッションを通して、私が思い浮かんだ人は前職の上司である井之川真寿美主任でした。

 

ゴールマン氏の著書はテキストとして使っています。

   

◆理想の上司が感情のコントロールに長けているワケ

井之川主任は私が所属していた脳卒中センターの主任であると同時に、部署内・病院全体の教育担当を担っていました。周囲のスタッフからの信頼も厚く、管理職でありながら時には一スタッフとして現場に入ることもあります。先導して周囲を引っ張るというよりも、「縁の下の力持ち」というように陰からスタッフを支えている印象が強いです。自然とほかの管理職、部下、他職種から慕われ、困ったときには相談をしたくなる存在であり、まさに私にとっての理想像そのものです。授業を通して、井之川主任がこんなにも尊敬できる管理職である秘訣はEQにあると確信しました。

 

脳卒中センターに勤務していた時、患者さんが思わぬ急変を起こすことがしばしばありました。急な脳出血、意識レベルの低下、一刻を争うまさに「戦い」の現場となります。私もそうでしたが、急変対応に慣れていないスタッフは、一瞬にして頭が真っ白になり、必要以上に焦り、動けなくなります。そのようなとき、井之川主任の「○○の薬剤持ってきて!」「記録係お願い!」といった具体的な一言で現実世界に戻り、与えられた役割を遂行することができるのです。そして無事に終了すると必ず「これができていたよ」「次はこれもできるといいね」とフォローの一声がありました。かけてもらったそれらの一声にどれだけ救われたか、私の看護師臨床経験の大切な記憶の一つです。患者さんの生命を左右する場面のなかで、感情をコントロールしながら冷静に指示をだしてくれた井之川主任の人間性・専門性の高さを実感した瞬間でした。

 

こういった場面で大切なポイントは「自分の感情を知るということ」、そして「感情を調節しながら相手に的確に伝えるということ」だと授業で学びました。井之川主任は抜群に叱り方が上手なのです。なぜなら、「感情の赴くままに伝えないから」だと思います。感情をいかにコントロールできるか、を英語ではself-regulation (自己制御)と呼び、これもEQのコンピテンシー(=行動特性)に含まれます。私自身はまだまだself-regulationが不足しており、「ああ、強く言いすぎてしまったな。慌てすぎていたな」と反省の日々です。井之川主任というロールモデルに出会えて本当に良かったと感じます。

 

冬休み中の一時帰国で感動の再会!

 

退職時には病棟のスタッフや先生方からのメッセージ入りアルバムをいただきました。

留学中、めげそうになった時にはこのアルバムからパワーをもらっています!

 

組織の未来を明るく照らす「EQ」 

IQと異なり、EQは後天的に誰でも身につけることができる習得可能な能力ということも大きな特徴です。大学院ではEQの習得方法・評価法を学術的に学んでいます。実際にEQを測定するアセスメントツールを使い、自分のEQレベルも振り返りました。レポート執筆のためにEQと看護関連の文献をたくさん読みましたが、看護学生や看護師のストレスマネジメントの向上や管理職のリーダーシップ力を高めるなど幅広く応用が可能です。EQには組織の未来を明るくさせる無限の可能性を感じました。EQと並んでほかにも、CQ (Cultural Intelligence) やSQ(Social Intelligence)もあり、今後学びを深めていくのが楽しみです。

 

実際に授業内では世界で最も有名な3つのEQアセスメントを受ける機会がありました。

 

この記事が井之川主任の目に入ったとき、照れ笑いを浮かべながら「いやだなー、褒めすぎだよ、やめてよ!」とはにかむ姿が脳裏に浮かびます。

 

<参考文献>

・Daniel Goleman. (1995). Emotional Intelligence. Bantam Books. 

ダニエル・ゴールマン、リチャード・ボヤツィス、アニー・マッキー著、土屋京子訳、(2002),EQリーダーシップ -成功する人の「こころの知能指数」の活かし方- 日本経済新聞出版社

 

 

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プロフィール

寺本美欧(てらもと・みお)
看護師、大学院生。上智大学総合人間科学部看護学科卒業後、都内大学病院ICU病棟に就職。その後、埼玉県の地域密着型病院脳卒中センターへ転職。2019年9月よりアメリカ・NY州にあるコロンビア大学教育大学院の修士課程に在学中。専攻は成人教育学とリーダーシップ。「すべての看護師に最高の教育の場を」をモットーに、看護師の継続教育のシステム構築を目指す。海外大学院留学記ブログ「看護師ちゅおのアメリカ大学院留学記」日々更新中。

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