2019.12.17
5

【書評】『ここまでできる ケロイド・肥厚性瘢痕の予防と治療』傷治療に関わるすべての医師の必読書

メディカルサポネット 編集部からのコメント

ケロイド治療を専門に取り組んでこられた数少ない研究者の一人、日本医科大学形成外科学教室・小川令主任教授による治療法の最新知見。形成外科医のみならず、傷治療に関わるすべての医師必読の内容です。

 

【書評】『外科感染症診療マニュアル』すべての外科医に向けた画期的なマニュアル 【書評】『外科感染症診療マニュアル』すべての外科医に向けた画期的なマニュアル

   

我々形成外科医を最も悩ましてきたのが「ケロイド」である。どんな傷でも抜糸してしばらくは赤く目立つことがあり、場合によっては1、2カ月で盛り上がってくるが、それもしばらくすると半年、1年で白く平らになっていく。これを我々は「肥厚性瘢痕」と呼ぶ。だが時折、何年経っても消退せず却って周りの健常な皮膚まで浸潤していくことがある。これを「ケロイド」と呼ぶ。

 

そうはいっても、ケロイドと肥厚性瘢痕の線引きは難しい。スペクトラムのようなもので、両極端は区別しやすいが、その中間のゾーンの鑑別は必ずしも容易ではない。

 

今思い出すのは50年前、形成外科専門医の資格を取得し、米国留学を終えて帰国する直前、ニューヨークの某大学の著名な形成外科教授を訪れた時である。話が日本人のケロイド体質に及んだ時、「日本人にはケロイドなどありませんよ。縫合法が未熟なだけだ。君がもっと形成外科を日本で普及させなきゃ」と言われ、がっかりした覚えがある。当時でも、黒人のケロイド体質はよく知られており、黒人には美容外科は禁忌とされていたのに、その中間にある東洋人の皮膚について、米国の一流大学の形成外科教授でもこれほど認識不足かという失望だった。

 

はじめに述べたように「肥厚性瘢痕」は放置しても自然に改善するし、またそれに対する処置も可能であるが、ケロイドは手をつければ悪化することもよくあるので、ケロイドの手術は禁忌とされていた時代もあった。だが最近では電子線治療などが取り入れられ、ケロイドの改善も可能になってきた。

 

著者の小川教授は長年このケロイド治療を専門に取り組んでこられた数少ない研究者の一人で、「ケロイドは治せる」というのを持論にしてこられた。また、メカノバイオロジーという新しい分野の開拓者でもある。メカノバイオロジーとは、細胞にかかる外圧がサイトスケルトンを介していかにDNAに作用するか、また細胞がいかにコラーゲンなどの結合織に働きかけて機械的に再構築を図るかを追求する分野である。小川教授はこのメカノバイオロジーの理論を活用して、ケロイドの原因究明と根本的な治療法を開発しておられる。

 

このご著書ではケロイド、傷跡に関する発生原因、その治療法の最新知見をわかりやすく具体的に解説されている。形成外科医のみならず、傷治療に関わるすべての医師の必読書と言える。

 

編著:小川令(日本医科大学形成外科学教室主任教授)

 

 出典:Web医事新報

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP