2019.12.12
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"映画「家族を想うとき」~NHK「クローズアップ現代+」にて
ケン・ローチ監督と是枝裕和監督との対談が実現!~"

注目トピックス

前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」で格差社会や貧困をテーマに描き、大きな反響を呼んだ巨匠ケン・ローチ監督。メディカルサポネットでは、その続編とも評され、家族の絆や介護職の働き方について視点をあてた本作品に注目した。医療従事者にとっても働き方は切実な問題だ。2016年のカンヌ国際映画祭で自身2度目のパルムドールを受賞し、社会派の映画監督として名高いケン・ローチ監督が引退を撤回してまで描いた作品であり期待は高まる。NHK「クローズアップ現代+」のケン・ローチ監督との対談では「見た人に悶々として欲しい」と語った是枝監督。映画を見た人すべてに、監督からのメッセージは容赦なく伝わってくる。

執筆・編集・構成/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

家族を想うとき 画像1

万国共通“介護士のリアル”

パートタイムの訪問介護士として、文字通り朝から晩までいくつもの家を移動しながら、高齢者や障碍者のケアを行う母・アビー。限られた時間で、食事や内服薬の準備・入浴介助等多くの任務をこなしながらも、利用者を思いやり物腰柔らかくケアにあたる姿は自然体で、ロールモデルのようだ。

時間に追われ、自身の希望を受け入れてもらえなかった利用者がとる行動は、医療・介護関係者ならば見ていて思わず「あるある!」という場面だ。「限られた訪問時間」と「本人の想い」とのはざまで葛藤するアビーの姿を通して、国境を越えても介護界のリアルは万国共通だということが伝わってくる。

会社が契約した「昼食準備、掃除、入浴介助」などの介護業務を「時間内」に終わらせることを求められ、+αで心まで満ち足りてほしいというアビーの願いが会社に届くことはない。また、予定時間をオーバーした分の給料が、会社の規則により支払われないという矛盾など、随所に社会への問題提起が散りばめられている。

 家族を想うとき 画像2

「家族を幸せにしたい」父が選んだ“働き方改革”

「働き方改革」。先日、今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」が発表されたが、この言葉も2017年にノミネートされたほどのパワーワードとなり、社会の関心の高さがうかがえる。

「正社員」だけでなく、「非正規」「個人事業主」など、多様な働き方の選択が日常になった昨今、過酷な労働条件のもとで働く人たちも増えた。

「マイホームを買う」という家族の夢を実現するために、フランチャイザーとして独立する選択をした父・リッキー。休めば罰金、壊せば弁償。個人事業主であることをいいことに、本部からの搾取や過酷な労働条件など、自営とは名ばかりのフランチャイズシステムに苦しめられ、「家族のために」ともがきながらも見つからない出口。自転車操業で余裕のない生活の中で彼らにある選択肢はただ1つ、この泥沼の中で生き抜くことだけだ。「家族が幸せになれるのなら」と食いしばる。幸せが遠のいていくとも知らずに・・・。

イギリスが舞台だが、同じように新自由経済によってもたらされる悪しき光景、いわゆる「ブラック企業」問題は日本でも起こっており、もはや「映画の中の他人事」ではない。また、そう感じさせる監督の演出術も見逃せない。

 

家族を想うとき 画像3

社会に問いかけるメッセージ「見た人に悶々として欲しい」(是枝裕和監督)

父・リッキーの“働き方改革”による影響は子どもたちにも及び、多感な時期の息子・セブはある事件を起こす。「愛する家族のために選んだ仕事」によって愛する家族が離れていく現実・・・。観たあとに感じる苦い後味と心に重く残るずしんとした余韻は、私たちが考えていくべきものの大きさを示しているように思えてくる。もはや個人で解決すべき問題ではなく、社会全体でとらえ、解決に向けたサポートを考えていく必要があるのではないだろうか。

何を選択すれば正解に・幸せにたどりつけるのか・・・映画を見終わったあと、考えずにはいられなかった。

 

 

作品情報

家族を想うとき 画像4

『家族を想うとき』 https://longride.jp/kazoku/

12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

配給:ロングライド

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

 

監督:ケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ジミー、野を駆ける伝説』

脚本:ポール・ラヴァティ『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ジミー、野を駆ける伝説』

出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター


 

2019年/イギリス・フランス・ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/ 原題:Sorry We Missed You/日本語字幕:石田泰子 提供:バップ、ロングライド

配給:ロングライド longride.jp/kazoku/

 

<予告動画> https://www.youtube.com/watch?v=C0nTNWILxww#action=share

 

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